5-5 「人と人の境界線」
ふらりと朱鳥が傾ぐ。一瞬悩んだけど反射的に支えちゃった。意識のない朱鳥に罠の気配は……流石にない。ぬぐ……身長同じくらいだから地味に辛い。
「おーい、朱鳥ー大丈夫かー?」
あ、ダメだこれ反応ねーや。取り敢えず近くの長椅子に横たえて……足はみ出るけどしょうがないか。
外どうなってんのかなー結界解除されてないと朱鳥を連れ出せないよな?頑張れば朱鳥抱えて出られるのかもしれないけど……いやそもそも教会の扉開くか?
「ええ……?まだ開かないのバグじゃん」
朱鳥無力化されたんだから大人しく開いてくれよ。何シレっと鍵かけてんだこの扉。じゃあ壁壊されても文句言うなよ……?
「……そういやあの乱入してきた奴、どうやって入ってきたんだ……?」
方向的に奥の方だったよな?そうそう丁度聖杯メーターがある辺り……。
「あ?」
おいおいちょっと待て。何で聖杯メーターあるんだよ。いやそれよりもっと不味いのは、どうしてメーターが上がってる?
「っおい朱鳥!!起きろ!」
くっそ起きる気配がねぇ!それどころか朱鳥の呼吸も鼓動も弱々しいんだが!?朱鳥、お前自分を犠牲にして起動しようとかしてないよな!?
「どうする考えろ……!」
一番出来そうなのは聖杯メーターと朱鳥のパスを切ることだ。……ただ、朱鳥が聖杯なら多分あのメーターはそれこそただの可視化装置、パスきっても恐らく意味はない。他に出来そうなことは能力を無効化……そんなモンはねぇ!
「っ……」
「恭也くん!」
「っひいらぎさん!?」
大声にハッとして顔を上げる。何で結界の中に、どうやって、色んな疑問が頭を駆け巡るけど言葉になったのは朱鳥の状況だけだった。
「朱鳥が死にそうで……!」
「うん分かってる。……大丈夫、そのために僕は来たから」
ひいらぎさんの瞳はぼんやりと赤を帯びる。一瞬ひいらぎさんからも自己犠牲の気配を感じたけど、本当に一瞬だけだった。命の煌めきを凝縮したようなそんな気配がひいらぎさんから朱鳥へと延びていく。
「ひいらぎさん……」
ひいらぎさんは動かない。何も出来ない俺だけがただ突っ立っている。それがどうしようもなく悔しかった。ここまで来て無力なこと、何も分からなくてただ待つしか出来ないこと。全部全部、俺が未熟だから辿り着いた結果だ。
「願われ、祈られたならば責務を果たさねばなるまいよ」
「っ誰だ!?」
振り返っても誰もいない。けれど、あり得るはずのない位置から肩を叩かれ、また声がする。
「貴様は知る必要がある。貴様こそ知り、願う権利がある」
「くっそ……!」
「祈りとは救いのためにあるものだ。ならばこそ、人であるお前が決めねばなぁ?」
「さっきから何なんだ……!?」
どこにもいないのに肩に手を置かれる。誰もいないのに耳元で声が聞こえる。言っている意味も分かんねーし嫌がらせみたいに囁いてくるし、幻聴にしてはやけにはっきりしすぎてるし!
「選べ、貴様はもう子供ではないのだから」
子供。その言葉がいやに耳に張り付いた。何も知らない相手に、誰かも知らない相手に煽られたから……違うんだろう、そんな簡単な話じゃない。これはきっと俺の奥の底の底に落っこちてる古傷みたいなしこり。だから俺は声を張り上げる。
「上等だ!知って、それで俺が願ってやるよ」
「重畳」
意識が急速に溶けていく。意識が身体を通り過ぎて、どこかへと導かれていく。世界が暗転する寸前、光もないのに輝く光が見えた。
「どうぞ、賢き選択を」




