5-3 「幕間、不能からの再開」
手応えは確かにあった。少なくとも無傷ってわけにはいかないだろ。一応距離は取って様子を伺う…………あの聖杯メーターが消えてない以上、朱鳥が正気に戻ってはないんだよな。
「今のうちに情報整理すっかぁ……」
俺だってただ闇雲に逃げ回って耐久してた訳じゃない。朱鳥に繋がる糸とか受信してそうな電波とか片っ端から確認してたんだんだからな!
「……やっぱ怪しいのこれだよなぁ」
ある程度掃除したおかげで見やすい地面に刻まれてる謎の線。これ、普通にみえるもんじゃないんだよ。じゃあ何なのかって聞かれると困るけど……朱鳥の足元から這い上がってるから間違いなく良くはないんだろう。
奇跡の通り道……なら、流れが多少見えてもおかしくない。でもそれなら聖杯メーターに繋がってる方が自然な気はする。あれがどうして可視化されたのかも良く分からないけど。……そもそもあの聖杯メーター、俺にしか見えてないとかそういう幻覚の類じゃないよな?俺が可視化してほしいといったばかりに……?
しゃがみこんで謎の線に触れる、ああくっそ右手使えねえんだった。触れた感覚なし、地面から盛り上がってる感じでもなし、試しにちょっと水イメージして垂らしてみても聖杯メーター反応なし。じゃあ朱鳥を縛ってる術式でほぼ確定か。
「糸ならハサミ、文字なら消しゴムか修正液……」
触っても持ち上がんないし修正液でいけるかな、指先でなぞって白いインクで上書きしていく。流石に床全体修正液で覆うとあの謎物質に吸収されそうだからもうピンポイントで地道にやるしかねぇ……。
術式って言ったけどアニメとかで見る魔法陣みたいな感じじゃない。どちらかといえば枯れ木の影、朱鳥を根っことして生える葉のない木……ああそっか、朱鳥から生えてるから動けないのか。
「ねぇ」
地面に這いつくばってた俺の視界に靴先が映る。どろりと首筋を伝う液が俺の頭と体を引き離す。降ってきた言葉はどこにも引っ掛かることなく地面に落ちて、俺の吐息も一緒に落ちる。ああ不味い、俺も、
お前、も
「駄目だよ朱鳥。まだ愉しまないと」
バチン、と照明が落っこちるような音が鳴る。重力方向を弄って横に吹っ飛んだ俺の視界が辛うじて捉えたのは朱鳥の目を覆う謎の人影。
「悪いけど、もう少し時間が必要なんだ」
肩を叩かれた感覚がある。体はまだ上手く動かせない。でも、まだ動く。ちょっと違和感があるくらいで済むのなら充分だ。イメージは三人称視点、俺が俺に傀儡を掛ける!
「朱鳥から……離れろ!」
指先で止められたって構わない。接近すりゃいやでも顔が見えるからな。ミルクティー色した髪の奥から見える瞳に色はない。薄い唇が笑みの形を作る。
「これでも僕、君の命の恩人なんだけどね?」
「さっきはどうもありがとな。だけどお前は善くない奴だ」
「おや律儀」
一歩、下がられてそのまま放り投げられる。朱鳥はまだ動かない、剣作ってもう一度踏み込もうとした瞬間、薄っぺらい笑みでもう一歩下がられる。
「さあ、幕間はお仕舞い。次の舞台が始まるよ」
「逃げる気か!」
「生憎、この演目に名前は載っていないんだ。じゃあね」




