4-16 「宣戦、布告」
「え……」
驚いて仰け反った拍子にしりもちついた。そんな俺を見下ろす知らん人は、抜身の刀を携えて涼しそうな表情を浮かべている。
「あ、ありがとうございます……?」
「礼は良い。こちらとしても借りがある」
え、誰……?借りってことは相手は俺の事知ってそうなんだけど……ヘレティックの誰か?いやそもそも借りってなんだ……?
「ここは罠だ。術者はいない」
「え、罠?」
「ああ。その地図自体が、な」
これ藍沢先生から送られてきたやつなのに!?ってか地図の事知ってるの、やっぱヘレティック所属の誰か……?もしくは、こいつが犯人?
「お前何者……」
「私はリアン。リクの協力者という認識で構わない」
リクが言ってた協力者!!なんでここにいるのかは全然分かる気がしないけど、借りってそういうことね!?
「話を戻すが、そもそもこの結界に術者という存在はいない。元々防衛機構として残されていた遺物の設定を改悪しただけらしいのでな。雪代考案なだけあってほぼ半永久的に機能する、そうだ」
ゆっきー!!!お前が残した結界、悪用されてっぞ!!!せめてセキュリティロックくらいかけときなさい!!!
「じゃあ中継地点叩いたの意味ねーじゃん……!」
「いや。半永久的に機能するのはあくまでも”結界”だけだ。聖杯起動に使う術式はちゃんと遅延されている」
聖杯起動、そうだよそれが一番の問題なんだよ。聖杯起動されるのもまずいしその聖杯が朱鳥っぽいのも問題だし。そんでもって居場所も分かってないし。
「聖杯がいるのはこの教会。今は別の結界が張ってあって本来ならば入れないが……」
「が?」
「お前ならば入れると言われていた」
俺?あ、イメージですり抜けろってこと?便利だな解析者……俺以外が俺の能力に詳しすぎて涙ちょちょぎれそう。
「入れんなら入って朱鳥を助けねーと……!」
「それならこれに着替えた方がいい」
なにからなにまで準備してあるなリアン……。渡された服がサイズぴったりなのに関してはもう気付かなかったことにする。気にしたら負け!擦り傷でぼろぼろだったから着替えれるんならちょうど良いや!
「私は結界の解除を指示されているので同伴は出来ないが、途中までは送っていく」
「おう!」
結界が解除されれば他の人も入れるもんな。こんだけ単独行動してると全部終わったあとが怖いけど、いつだって俺は出たとこ勝負。アドリブ万歳!
リアンの移動は……存在がない。影が薄いとか気配が薄いとかそういう次元じゃなくて、水面走っても波紋が生まれない、木の枝に飛び乗ってもしなることがない。布ずれの音も足音も、呼吸の音すら聞こえてこないってのは大雅やソウさん達とも違う凄さがある。
「この先は通れない」
リアンが示した方向を見ても俺はなにも見えない。何かあるっぽいという感覚はあるからこれが結界なんだろう。少し先に見える教会みたいな建物が俺の目的地、朱鳥がいる場所。
「教会内部には聖杯しかいないはずだ。急いだ方がいい」
「おう!色々ありがとな!」
「礼は良いと言ったはずだ。寧ろ、……いや、なんでもない」
意味深な言葉だけ残してリアンはさっさと結界の解除をするために行っちゃった。俺は結界に向き直って一度息を整える。別に意味はないんだけど水の中に潜るような感じで一歩踏み込んだ。
気持ち悪かった感覚から少しだけ解放されたよう、な。相変わらずへばりついているような。一つだけ言えるとしたら、この世界にとって俺は依然異物のままらしい。そりゃそうだよな、実質不法侵入だもん。
能力は使わず、教会へと走る。使わないっていうのはちょっと違うな、使えないってのが正確か。少しでも変な動きしたらまだ弾かれる、今はまだ大人しくしてないと見られている。
「ここだな……」
ドアノブを握る、握る。意を決して開いたその教会の奥で、ただ静かに目を閉じている朱鳥がいる。
力は多分入ってない。意識があるのかはわからない。罠があったら今の俺は対応出来ない、人がいないってのは信用して良いんだろうけど。
「ふーーーー…………」
ああ、覚えがあるなこの感じ。驚かそうとして何度もチャレンジしてたから、空気感で何となく分かっちゃうんだよ。あーどうしよっかな、俺まだ弾かれそうなんだけど。
『 』
世界を俺に馴染ませる。何があっても良いように、何が起きても良いように。子供の遊びじゃすまないんだろうなぁ、誘われるように一歩、扉は何もせずとも閉まる。
一歩。底のない赤が幕を上げた。




