4-4 「水鏡ドッペルゲンガー」
辿り着いたのは中学校だった。今確か平日の昼なんだけど大丈夫かな、不法侵入で不審者扱いとか勘弁だぞ。
「こっちだよ恭也くん」
「あれ、顔パス……?」
「ううん、認識阻害使ってるだけ」
あーそういうこと?便利だな認識阻害……。そうだよな、布袋さんが作ったって聞いてるし、万能なのは自明の理だったわ。すいすい進んでくソウさんの後を追いかけて人気のない体育館の裏に出る。
「……見つけた」
「ソウさん?」
少なくとも、俺はそのときソウさんが何を見つけたのか把握出来なかった。虚空を見つめてるソウさんが何を見てるのか……いや本当にわからないんだけど。
「……取り敢えず一発で良いかな」
ソウさんは近くの水道の蛇口をひねってからもう一度同じ方向へと向き直る。虚空に手を伸ばせばそこに水が集まって弓矢を形作り、放たれた矢は何故かまっすぐどこかへと吸い込まれて、ぐにゃりと空間を歪ませる。
「空間がっ……!?」
「っ来るよ!」
足元から気配!敢えて足場をイメージしながら思いっきり上に跳ぶ!……いや待て、なんかあのツタ、見覚えがありすぎるんだけど??
「お前、青ののろ……いや青くねぇ!?」
誰だお前ぇ!?色違いとかあんのかお前!!見た感じ青じゃなくて黒いんだけど改名しなきゃ名前詐欺じゃねえかな!!?全力で突っ込みが脳内を駆け巡ってんだけど、お前敵で合ってるよな!!?!!?
「ってか、ソウさんまずいのでは!?」
流石にソウさんが怪我するの大雅に申し訳なさすぎるんだけど!?あれが色は違うけど青の呪いだった場合、ヘレティック特攻すぎて逆に引く!
地面を覆いつくさんばかりのツタは厄介極まりないから上空で足場作って着地する。どうする?前回は悠人さんのツルハシと大雅のゴリ押しで倒したようなモンなんだけど、取り敢えずただのツルハシでも作っとく?
「多分再生能力はそんなねえだろうって思ってるが……」
「恭也くん」
「あ、ソウs」
横向いたら何か当たった。あれぇ……?何でだろう視界がソウさんでいっぱいなんだけど…………?あの、当たったところ、なんだか柔らかくてですね…………………。
「っ俺は無罪です!!!!?!!!?!?」
「わぁ」
やっべぇ大雅に仕留められる可能性出てきたが!!?いや落ち着け不可抗力だし別にマウス・トゥ・マウスじゃないしここに大雅いないから多分バレない!セ――――――フ!!!!!!!!!
「なんあななななななにしてるんですかソウさ………!!ん?」
「ふふ」
楽しそうな微笑みを浮かべる……俺の顔。百面相してる俺より大人しそうな表情してるけど……ソウさんドコ?コイツ誰?
「ちょっと借りるね。ツルハシとか出せる?」
「え、あ、はい……?」
俺の顔して俺の声なのに俺がぜってぇしない喋り方してる……。ツルハシを受け取った俺モドキは重力に従うように空へと身を投げ出す。
「っおい!?」
下はツルの巣窟だぞ!?驚いた俺のその視界の先で、俺モドキがツルハシをしっかりと握りしめた。
「俺の方もブランクがあるし、手短に済ませようか」
身体を捻り刈り取るような一撃を。襲い掛かるツタを先端でいなし、猫のようなしなやかさで躱し、目にもとまらぬスピードでツタの総量を減らしていく。あの動き方、まさにソウさんそっくりじゃねえか。
「どういうこと……?」
理解は追いつかないけど、思考はツタの破片を回収しなきゃと思ったのか手元に掃除機が出てくる。まぁ、ここで突っ立ってるだけよりはマシだよな、黙って回復される筋合いもねーし。
「オラオラ破片は全部回収じゃーい!」
一度戦った相手……のそっくりさんなら対策も打てるしなんとなく動きも読める。 縦横無尽に暴れまわる俺……の姿をした推定ソウさんの邪魔にならない程度にフィールドを駆け回って掃除機で破片を吸い込んでいけば、いやに静かな呪いは爆速でツタの範囲を縮小していく。
「よいしょっと」
「お、破片これで最後じゃーん」
掃除機で全部吸い込んじゃえば取り敢えず掃除は完了!……じゃなくて、色々聞きたいことがあったの掃除してたら忘れてた。推定ソウさんの方を向けばまたにっこりと微笑まれる。
「ソウさん……ですよね?」
「うん。あ、つるはしありがとうね」
「あ、はい。……いやどういう理屈です?」
「んー……俺の能力のひとつ、かな」
ソウさんの能力、水を操るとかじゃないんだ……前もちょっと言ってたな、『俺という容は存在しない』とかなんとか。詳しいことは説明せずに歩きだし……そろそろソウさんに戻ってくれねーかな、俺じゃない俺がいるの、すっげー違和感というかもぞもぞするというか。
「ああいたいた、これどうやって壊そうかな……」
「え、樹!?」
驚いた拍子の大声で結晶がビリビリ震えて、振動を感じとったのか少しだけ樹の手が動く。待て待てなんだよこの結晶、中途半端に樹のこと取り込みやがって……!
「ソウさん下がって、壊します!」
「うん、お願い」
ツルハシは範囲が狭すぎるから、ハンマーだして思いっきりぶったたく!ミシミシ亀裂が広がっていけば、樹を引きずり出せるだけのスペースが出来た。ソウさんと協力して引きずり出して、まだついてる細かい破片も掃除機で吸い取っていく。
「う……」
「樹!」
「恭也……?っ玲士!玲士は!?」
「は?玲士に何かあったの!?」
慌てたように飛び起きた樹と、玲士と聞いてそれどころじゃなくなった俺。玲士もこんな風に閉じ込められてるとしたら俺は全速力で助けに行くが????
「落ち着いて二人とも。樹さん、ご友人がどうされたんですか?」
いつの間にか姿を戻していたソウさんが樹の方へ声を掛ける。樹も知らない人がいて一瞬固まったけどそれどころじゃないと思ったのか、そのまま返答した。
「っ……玲士が、迷子を拾って今知らない奴らに追われてる。殆どは俺が足止めしてたけど、あの眼鏡の奴に負けて……」
誰だよ眼鏡の奴。樹も奏さんも眼鏡だぞ情報量少なすぎだろ。……そう思ってたけど、ソウさんが少しだけ目を細めて俺に囁いてきた。
「その眼鏡の子、もしかしたら例の緑の子かも」
「え」
「樹くんが中継地点の要にされていたってことは、追手はリューイの可能性が高いし……何より、雪代さんなら大抵の相手に後れを取るとは思えない」
つまり…………玲士がガッツリ巻き込まれてる、ってこと??




