3-9 「弟二人と猿達と 」
久し振りに懐かしい夢を見た。今より視線が低い頃の夢。寝ても覚めても修行だったけど、そんな毎日が楽しかったあの頃。
どっちもうしろじゃ戦えないからってまえに出ることに決めた。写真みせたら喜ばれたっけ、毛玉が三人いるー!?って。周りのやつらは降りたときに何度かみたことあったらしいから、あのときにやっぱこいつは降りたことないんだな、って理解したんだよな。
『イメージするのはいつだって最強の自分!』
『さいきょーのじぶん!』
子供相手にゃあれくらい単純に教える方がよっぽど理解が早かったんだろうな……今でも根っこの部分に刻まれてるし、きっとこれからも刻まれ続ける格言だ。気持ちで負けたら勝てるもんも勝てないから。
『貴方は貴方、”明保野恭也”としての生が自由でありますように』
眺めていた視界が閉ざされる。声だけが俺の深い深い底へと落ちていく。まだ気付かない、刻まれないかつての。
『さようなら、恭也さん』
「へ……?」
「あ、起きた」
あれっここど……大学じゃん。昨日もちゃんと六時間睡眠したはずなだけどなー……やっぱ眠気には抗えねーのか。
「今何時?」
「もうすぐ一時だよ。きょーくんぐっすりだったねぇ」
玲士が時間を教えてくれた隣でいそいそとマジックをペンケースにしまう樹……落書きされてねーよな俺?スマホのカメラ使って見れば、案の定落書きされてた。
「樹ぃ……!」
「寝てた方が悪い!」
「お?言ったな??次樹が寝てたらぜってー書くからな????」
「やれるもんならやってみろー」
くっそ微妙にとりづれぇ……!樹に落書き、そもそも樹が人前で殆ど隙をみせねーから難易度が高いってのはそう。別の悪戯も考えとっかぁ……。
「……いや別に寝てなくても落書きして良いのでは?」
「させると思うか??」
「いやぁ一筆書いたんなら一筆書かれなよ樹くぅん……!」
「奏さんヘルプ!」
「楽しそうだね混ざって良い?」
「奏さんそれ油性ペンんん!」
「今だ玲士やったれー!」
「きょーくん覚悟ー!」
「ぐあああああ!」
結局奏さんの油性ペンは逃げられなかったし玲士の落書きは可愛かったし樹に落書きはした。玲士、なんだかんだ言って奏さんと樹にも落書きしてる辺り強いな……一人だけ書かれてないの寂しいからって樹に落書きせがんでるのも可愛いな……。
「いやー正月じゃねえのに顔真っ黒じゃん」
「赤ペンもあるよ?」
「色の問題じゃねえのよ奏さん」
奏さんに突っ込みを入れつつ樹は笑う。奏さんが持ってるその赤ペン、案の定油性なんだよな。
「お、見ろよ恭也」
「ん?……なんか人だかり出来てね?」
「あー今日だからだよ、宇月の作品公開」
うちの大学の天才枠、白糸宇月。普段は友人五人と固まってて、そのうちの一人が一志……のはず。綿密に練られた宇月の作品は芸術と謎の融合とかなんとか騒がれてて、実際俺もみたことあるけど複雑だなーってことだけは分かった。
「あーいう絵って、忘れられた頃にもっかい話題になって大々的に謎解きが始まる感じ?」
「本人が一切答え言ってないからなー。全部推測なせいで延々と擦られ続ける」
「ある意味合理的な感じするね」
「解釈の幅が広く取れる辺りに強かさが見える」
あれで分かりやすく謎が描かれてたりすればここまで話題にならなかったんだろうなとは思うんだよ。でも実際は絵のクオリティも謎の散りばめ方も、謎自体も高い水準で纏まってるから話題になって注目されやすい。
「因みに今回の絵って何モチーフ?」
「んー……旧時代の世界創造?らしいよ」
「旧時代……ってーとどれ?取り敢えずゼウスに怒るやつ?」
「葡萄生やしたやつかも」
「リンゴ食ったやつじゃねーの?」
「きょーくんと樹のいいたいことは分かるけど、奏さんのそれどこの何??」
「あれだよ黄泉帰りのやつ」
奏さんのいうブドウ、今調べたらイザナミとイザナギのやつじゃねーか……。逆にマイナーじゃない?よくさらっと出てきたなブドウ。
「あ、そうだ。玲士一週間くらい暇?」
「用件によるよ?」
「プロジェクトK詰めるからうちに泊まってよ」
「りょーかーい。必要なもの持って行くね」
「助かるー」
相変わらず樹と玲士、仲良いなー。奏さんもおんなじこと思ってるのか、向ける視線は……いやガッツリ嫉妬してましたわ。執着えっぐ。




