3-8 「ぽやぽや奏さん(激レア)」
踏みしめた地面がびちゃびちゃと嫌な音を立てる。もうこの靴は履けねーな、染み付いた赤が取れそうにねぇ。
「凄惨ですね」
「ん」
血ではない、って聞いてる。正直この正体不明の液体が赤の時点でそうとしか見えないけど。まぁでも錆びたような匂いはしないし……本当に違うんだろうな、多分。
「状況を聞いても?」
「見ての通り。不純物は……特にないかな。うん」
あ、何か誤魔化した。どういう意図の誤魔化しだろうなあれ。単純にいう必要がないっていうのなのか言えないって方向性なのか。大体この人は前者だけどな。
「そっちはどうだったの。シエルから会いに行ったとしか聞いてないんだけど」
「会えましたよ。敵対目的では無さそうでしたし、未所属だけど協力者はいるみたいなので」
「そう」
リクが不自由だったら即拐いそうだったもんな一志。脅迫からの拉致とか発生してたらいよいよ訴えられてそう。
「これだけの量ばらまいて……やらかしたの悠人さんだったりします?」
「これもう劣化してて飲めたもんじゃないよ」
「じゃあ実質不法投棄ですね」
「これ飲むの!?」
思わず突っ込んじゃった。多分えっちゃんとくーちゃんが飲む……いやこの謎液体トマトジュースか何かなのか??いやでも劣化って発言は食品に対するもんじゃねーと思うんだけど。
「これ、高純度魔力液っていう……人間が飲む栄養ドリンクみたいなもの?どっちかというと経口補水液?」
高純度魔力液。魔力で生成された液体で、人間が飲んだら大抵死ぬ……こっっっっっっっっわ。というか悠人さんそんなの持ってんの!?えっちゃんとくーちゃんは能力だから良い……とかじゃないと流石に説明つかないよな。ああ見えて悠人さんがバチバチの人外っていう可能性もあるけどさ。
「なんでそんなのばらまかれてんだ……」
「認識阻害ありきだと血痕に見える」
「人の中には匂いだけでダウンするレベルもいるからな」
聞けば聞くほどヤバイなこの液体……。こんだけの量の血痕はもう大量虐殺現場なのよ。
「劣化してなかったら全部回収して栄養にしちゃうんだけどね。流石にここまで劣化してたら俺達にとっても毒かな。適当に分解してリソースにしちゃうか」
「あ、リソースにはなるんだ……」
「毒ってだけだからね」
この人にとっちゃ毒は記号なのかな。毒と薬は紙一重っていうけど、この人にとって毒も薬も対して変わんないのかもしんない。奏さんなら有り得る。
ずる、と地面を舐めとるようにマフラーが膨張して足下を覆い尽くす。靴に染み込んでたやつまで吸われてるぞ吸引力すごくないか?あ、またなんか変な反応してる。
「奏さん?」
「んー?」
隠してる……違うな、単純に本人も反応に困ってる感じか。本気で隠すなら俺が気付くことなんて不可能だろうからな……。この人のポーカーフェイスは見抜くの無理。
「何かあるの?」
「んんん……何かねぇ、これやったの昔の同僚っぽいんだよね」
「昔の同僚?」
「シエルより前にリューイを変えようとしてた奴。自分の能力がリューイにとって有益であると理解した上で、利用されないために全部出し抜いてどっかいった」
すげーガッツがあることしか分かんなかったな今の説明。能力が何なのかは分かんないけど有益であるって自覚があるの結構自己肯定感高めですよね?
「あいつ、リューイに情報流したくないからって指示出すときとか良く暗号使ってたんだけどさ……今更見るとか思わなかったよね。俺が気付かなかったら終わってるじゃん」
え、この一見微笑ましいけど奏さんの普段から見るとやばすぎる関係性突っ込みいれなきゃ駄目?森羅万象をゆっきーと樹で埋め尽くしてる奏さんの中で何年越しかは分かんないけど今でも同僚扱い受けてて恐らくオリジナルであろう暗号をちゃんと覚えてる仲ってどういう関係性????それ単なる同僚で良いの?
「珍しいですね。奏さんがそこまで評価するの」
「うん。あいつは認めないけど俺は気に入ってたよ」
奏さんにここまで言わせるのは純粋に凄いよな!?但し奏さんに気に入られてるっていうのは振り回されてたってことなんだろうけど。
「んー……」
「報告だけなら俺と恭也でしますよ?」
「ん」
一志の言葉にこっくりと頷いた奏さんは何だろうな、普段より言葉足らずというか。多分思考を暗号の方に回してんじゃねーかなとは思うんだけど、リラックスしてるとかそういうのじゃなくただぽやぽやしてるのすっげー珍しい。




