1-2 「息抜きの散歩で遭難したらしい」
「樹っ!無事でよかった……!」
「玲士……うん、心配かけてごめん」
全身全霊で樹に抱き着く玲士。うーん微笑ましい。でも樹は一週間くらいあの人形に閉じ込められてたっぽいからちゃんと休ませないといけないんだよな。玲士も抱き着いて体の細さに気付いたのか、いそいそとソファーに座らせて台所に走ってったし。
「奏さんに聞いたけど、山で遭難したんだって?」
「おう……ちょっと息抜きにって散歩の予定だったんだけど、うっかりスマホも忘れちまって」
「今度から気をつけろよー?」
一応俺、現場にいたし真相も知ってるけど奏さんから口止めされちゃったんだよな。奏さんはともかく、俺にまで体質のこと知られたら樹気にしまくって距離置きそうだって。確かにそんな感じはする。
「樹、おかゆなら食べれる?ごはんちゃんと食べた?」
「おかゆ……まぁ少しなら?え、玲士お前作ってくれたの?」
「玲士料理出来たの!?」
「出来るよ!レンジでチン!」
それ料理かなぁ!?爆発してないから料理だな!すげえ!フンス、と胸を張る玲士が可愛らしかったのでそういうことにしとく。樹も大人しく器を受け取ってもそもそと食べてるし。
因みに奏さんは今日はいない。助けた後、樹を家に送ってったのは知ってるけど今日樹の家に集まろうって言ったらシレっと用事があるからいけないって言われたんだよな。まぁ俺は明日呼び出されるらしいんだけど。同業者に合わせるって言ってたからその準備とかあるのかな。
「……樹、あんまり元気ない?」
「んー……いや?」
「でも息抜きの散歩で遭難とか大分思い詰めてるでしょ……わざわざ遠くの山まで行くなんて……」
……うん、それはちょっと思った。息抜きで遠くの山まで散歩って無理がないかな、って……。この辺考えたの奏さんだから奏さんのガバなんだけど、思わぬところで樹にピンチが迫ってら。
「徒歩でそんな遠くまで行くの、いくらなんでも無茶だよ……」
「あ、あー……そうね、ちょっとインスピレーションが沸かなくてこう……衝動のままに走り出したんだよ」
「山奥まで?」
「山奥まで」
樹の真顔がじわじわ来るな……そのガバガバ言い訳で騙されるの、多分奏さんくらいだと思うんだよな……いやもしかしたら奏さんすら見破るかもしれないぞ。
「樹、あんまり体力ないんだから無茶しちゃだめだよ……?山だったらきょーくんの実家の裏山貸してもらいな……?」
「え、恭也の実家の裏山って謎の祠あるとこじゃん。怖いからヤだ」
「あーあの祠なら一回猿が壊してたから大丈夫じゃねーかな」
「猿もいんのかよ」
「直そうと思って破片集めて組み立てたら大きさ1.5倍くらいになったけど」
「何で?????」
何でだろうなぁ……?元々はデカかったのが年月重ねて削れてったんじゃねーかってのが俺達の中での仮説ではあるけど。
「因みに弟曰く最近増えたらしい」
「繁殖?」
「三つ増えてひとつ縦に伸びたらしい」
「それもう祟りより怖いだろ」
あの祠、よく考えると怪奇現象のオンパレードではあったな……今帰って確認したらあの人形の同類がいたりするのかな。奏さん曰くあの場で俺は能力が開花したらしいから、割と祠の謎を解くのは今がチャンスかもしれない。
「逆に気になってきたなその祠……」
「樹が元気になったら行ってみる?その頃にはもうちょっと増えてるかもしれないけど」
「増えるな増えるな」
いや増えるかどうかは分かんないけど多分進展はあるもん……。うちの弟なんか夏休みの自由研究で祠観察日記をつけてたくらいだからな!
「きょーくんの実家が祠になる前に行かないとねぇ」
「玲士がシレっと怖いこと言ってんだけど!?」
「やめて玲士!地味にありそうなラインだから!」
「ありそうなラインなのかよ!」
全力で突っ込みを入れてくる樹を見て玲士がふわりと微笑む。その視線があんまりにも慈愛に満ち溢れてて、思わず見惚れた俺と気まずそうに視線をずらす樹。
「……すげー生温いんだけど」
「ちゃんと元気になったら、みんなで行こうね」
「……ん」
「その時は奏さんも一緒。俺と、きょーくんと、樹と、奏さんでおでかけだよ」
「そうだな」
両手で樹の手を包んで、指きりじゃないけど約束を交わして。玲士が時折見せる暖かくて切なくなるような柔らかさに、俺達は全員弱い。
「だからね樹。もうひとりで思い悩まないで」
「……分かった。出来るだけ相談する、し、……するから、少しだけそばにいて」
「ずっといるよ」
……あーこれ俺邪魔かな??いや、メンタルケアするのは玲士の方が得意だしこの二人仲良しだし分かるけどね!?ただね!ほったらかしにされるのは寂しいんだなこれが!あとふつーに玲士とハグしてるのずるくねーかな!?
「きょーくんも」
「うん!?」
「きょーくんもぎゅーってしよ?」
玲士を!?……いや流石に違うな。樹の背後に回り込んでのしかかる。何かうめき声が聞こえたが無視だ無視!俺の重たい愛をくらえ!
「この長身お化けが……」
「ふははははは。奏さんもでかいじゃん」
「奏さんは体重掛けてこないから分かんね」
俺と奏さんだと奏さんの方がデカい。デカいんだけど奏さんはあんまり人とくっつかないから確かに重さとかわっかんねーわ。




