ディスコンティニュー
AIを搭載した次世代型戦略兵器ロードキラーによって破壊された東京を舞台に、軍隊に入った三人の若者たちの物語です。
海は凪、空は快晴である。
翼を拡げ雄壮に海岸の上空を飛んでいたカモメの群れは、突然異様な回転音を察知した。カモメが羽を畳んで急降下すると、二基のプロペラローターを咆哮させた飛行物体が、そのすぐ背後をかすめていった。
V-22(通称オスプレイ)は時速五百キロに迫っている。蒼穹に行く手を阻むものはなく、カモメは風に乗って航空するが、オスプレイはあたかも空気の壁を掘り進む。
まもなく進行先の光景が視界に広がった。
街は跡形もなく破壊され、至る所で炎が舞い上がり、黒い煙が立ちのぼっている。その昔、東京と呼ばれた市街地はいまや見る影もなく、瓦礫の中に埋没している。ただ廃墟だけが黙示的に存在していた。
いったい誰がこんな惨劇を想像していただろう。
その暴走はいまだ不明のままだが、これも全て次世代型戦略兵器として開発され、AIを搭載した、通称ロードキラーの襲撃によるものだった。
オスプレイに搭乗している新兵の佐藤は、機内の一番隅に座っていた。
今から三ヶ月前、二十歳になったことを機に、佐藤は軍隊に入る道を選んだ。彼は家族や友人をロードキラーに殺されている。住む家も奪われていた。だからといって復讐のために入隊したわけではない。
佐藤は争いが嫌いな温厚な性格をしており、読書が趣味で、静かな時間を過ごすことが好きだった。そういう男だから内気で社交性も欠いている。しかし孤独に耐え、一人で生きられるほど逞しい男でもなかった。佐藤は気弱で自分に自信がなく、誰かに頼るしか生きる術を持たなかった。
その点、軍隊に入れば食べるには困らないだろうと考えた。そこで雑用などを引き受け、要領よく無難に過ごし、この戦時下を乗り切るつもりでいた。佐藤は見事訓練にも落ちこぼれた。馬鹿にされ、木偶の坊と呼ばれても気にしなかった。命あっての物種である。兵士としての活躍や戦果は、誰も自分になど期待していないはずだった。
それがどういうことだ。
ふと我に返り、オスプレイのローター音が耳元で大きく騒ぎ出した。佐藤は、まさか自分がこうして戦地に赴くなど想像だにしていなかった。ひとりヘルメットを目深に被り、顔色は真っ青だ。小さく縮こまり、装備のプラズマライフルを抱きガタガタと震えている。乗員の皆に支給され、さっき食した米飯も吐きそうだった。佐藤は恐怖に心を蝕まれていた。
「ゆっくり深呼吸してみな」
隣に座っている女兵士は、見かねて佐藤の肩を叩いた。
「そんなんじゃあ戦場に着いた途端、いい標的にされちまうよ」
女兵士は余裕綽々笑いかけた。佐藤とはじつに対照的な態度である。あっけらかんとし、緊張した素振りもない。ピクニックにでも出掛けるつもりでいるようだ。
「おい、玲奈。そいつは今日が初陣だ」
向き合って座る稲垣がいった。稲垣は口を動かしクチャクチャとガムを噛んでいる。彼の特徴でもある、大きな声を出して顧慮した。
「相手は殺人マシンだ。初陣なら無理もねえ。誰でもびびっちまう」
「あたしは違ったね。初っ端から三体やっつけたよ」
と玲奈は言い返した。
「ああ、そう言えば、そうでした、そうでした。それで二階級昇進。いまや頼もしい我らが連隊長でしたね。こりゃあお見逸れしました」
稲垣はオーバーに額をぽんぽんと叩いてみせた。
「いいか、よく聞け新入り。無事生きて帰りたかったら、このねえちゃんの尻にしっかりついてろよ」
そう言われ佐藤は困惑し、二人の顔を交互に見比べた。
「ねえ軍曹。あんたとは同期だから大目にみてるけど、階級じゃあ、あんたは部下なんだからね。口の利き方には気をつけな。それと玲奈じゃない、隊長とお呼び」
稲垣は肩をすくめた。
おどけた表情で、「おお、怖っ」といった。
居並ぶ兵たちに笑みがこぼれる。たとえ悪ふざけにしても、稲垣にはどこか憎めない愛嬌がある。彼の一挙手一投足で空気は変わる。
兵たちはこのときも緊張感は薄れ、機内はどこかアットホームな雰囲気になっていた。
稲垣は戦士らしからぬずんぐりとした体型をしている。上背はないが、学生時代はアメリカンフットボールで鳴らし、スポーツマンらしき片鱗をみせ、太ってはいても動きは機敏だった。腕っぷしが強く、相撲や喧嘩で負けたことはない。大食漢で飲み比べでも敵なしだった。人物は良く言えば楽天家、悪く言えば能天気。口が達者で明るくひょうきんな性格から、チームのムードメーカー的な存在だった。
第十八師団横須賀地方隊から二十人が選抜された。生存者捜索が今回の任務である。それは下から二番目の朝メシ前の指令だ。
オスプレイは上空で旋回し、十分警戒しながら着陸態勢に入った。談笑していた兵たちは所定の席に座り、シートベルトを締めた。静かに降着の衝撃に備えた。
捜索地点の近く、いい具合に学校のグランドがあった。プロペラの扇風によって砂埃が舞い上がる。オスプレイは慎重に着陸した。
後部ハッチが開き、兵たちが出てきた。グランドに立っても、校舎らしき建物はなく、鉄筋が剥き出しのコンクリートの残骸が転がっているだけだ。それでも兵たちにとっては見慣れた光景である。街はどこも都市としての機能を失っている。たった数年で、おそろしく退廃してしまった。
石垣だけが遺る城跡のようなものなのか。新宿区立第三小学校と読める表札の校門が、すでに遺跡と化していた。
兵士の一人が腕に巻いたハンディーソナーを見つめている。
「隊長、半径二キロにロードキラーの姿はみられません」
「よし、じゃあ予定通りいくよ」
玲奈の命令で、歩兵は焦土の街を進んだ。
混沌とした地上とは対照的に、頭上の空は真っ青に澄みきっている。まぶしい太陽の光が降り注いでいた。日差しだけでも暑いのに、日本の気候は特に蒸す。皆一様に全身の汗が止まらない。兵たちは厚い装甲のベストを着用し重装備だ。玉のような汗が吹き出していた。
佐藤は二列縦隊から一人遅れだした。只でさえ体力のない佐藤は、息があがりバテ気味だ。かなりあいだが開き、後ろを離れ歩いている。見るに見かねた稲垣は、立ち止まって嘆息した。
「おい、新入り。しっかりしろ」
稲垣は自分の水筒を差し出した。
「これを飲め」
「はい、ありがとうございます」
佐藤はヘルメットを取った。額の汗を拭い、水筒の水にありついた。飲み終えると顔色に精気が差した。少し元気を取り戻したようにみえた。
「まだ三キロも歩いてない。こんな所でヘバってどうする。今日はかなり歩くぞ」
そういうと稲垣も上を向いて水筒を傾けた。
「まあこの暑さだ。まめに水分は補給しないとな。人助けどころじゃない、逆にこっちが参っちまう」
佐藤は黙って頷いた。
稲垣には軍曹としての立場もあるが、人情から行動することの方が多かった。
「それを寄越せ」
と稲垣は顎をしゃくった。
「その重いライフルを持って歩くのは、お前には無理だ」
稲垣は肩に二丁のライフルを担いだ。
「さあ行くぞ、休憩は終わりだ」
「すみません、軍曹殿。不甲斐ないぼくのために……」
佐藤は体格には恵まれず、痩せた貧相な男だった。運動神経もよくない。目標に向かって努力するのも苦手だった。佐藤は恐縮し、稲垣の後についていった。こんな時は鬼軍曹の広い背中が頼もしくみえた。
佐藤は自他ともに認める劣等兵である。軍隊に入ってからというもの苦難の連続だった。生き残るための訓練なのは分かっている。だが稲垣にしごかれ、軍隊に入ったことを後悔していた。
「軍曹殿、質問があります。どうしてぼくなんかがチームに加入したのでしょう? どう考えてもぼくなんかは足手まといです」
稲垣は哄笑した。
「じゃあなんでお前は入隊したんだ?」
「うっ……」
佐藤は反問され言葉に詰まった。
「どうせ軍に入れば、安全に保護してもらえるとでも思ったんだろう」
自分の思惑を言い当てられてしまった。姑息な考えなのは分かっていたが、上官にそうはっきり言われると立つ瀬がない。佐藤は気まずく下を向いてしまった。
だが稲垣には、佐藤を責めるつもりはなかった。
「まあ、気にするな。卑怯で臆病と感じる必要もない。いや、むしろ、お前の選択は間違ってないはずだ」
恥じ入る気持ちは変わらず、佐藤は暗い目で稲垣を見つめた。
「軍に居るのが安全なのは確かだ。お前も一通り訓練を受けプラズマライフルの扱いを学んだはずだ」
稲垣は肩の銃を構えた。
「この武器はスゲェ。これこそまさに人類の切り札だ。こいつがあればロードキラーも目じゃねえ」
プラズマライフルは画期的な新兵器だった。ロケットランチャー並の破壊力を誇り、電子銃だから銃声のような音が出ない。発射後の反動もない。何より連射が可能で、敵を圧倒し戦局を優位に変えた。非力な佐藤でも、十分戦力として考えられていたのだ。
「なにぶんお前の配属は上が決めたことだ。詳しいことは俺もわからん」
稲垣はプラズマライフルを持つよう佐藤に促した。
「いいか、よく聞け、新入り。今お前に必要なのは、戦いで経験を積んで自信をつけることだ。AIとの戦いはまだまだ続く。日本中どこにいたって危険と隣り合わせだ。自分の命は自分で守れ」
佐藤は前にのめった。稲垣が喝を入れ背中を叩いたからだ。
「大丈夫だ、安心しろ。まさか新入りのお前を前線に立たすような真似はしない。今日は俺か連隊長の後ろについてろ。玲奈はチームの誰も失うことをゆるさない」
佐藤と同じく、稲垣ももともとは民間人である。すると、AI対人類の戦争に巻き込まれたともいえる。
世界的にも名の知れた半導体製造業を経営している家に、稲垣は生まれた。誰もが羨む金満家庭に育ち、彼は惣領の御曹司だった。稲垣は何不自由なく成長した。小、中、高、大学と受験要らずの系列校を卒業し、一流商社に就職した。その商社とて社会勉強に過ぎない。稼業を継ぐためのいわゆる腰掛けに過ぎなかった。稲垣の人生は生まれた時から決まっており、愚直にそのレールの上を行けば、才能も努力もなく彼は勝者になり得た。
だが稲垣は、その道を進んでドロップアウトした。
それは商社時代、出張先のトルコで出会った玲奈の存在が大きい。当時稲垣は自分らしく自由に生きる人生を模索し、くすぶっていた。自分には半導体のお堅い仕事など性に合わないと思っていたところ、玲奈の豪快で男まさりの気概に触れ、冷水をかぶったように目が覚めた。同年齢もあり、すぐに二人は意気投合した。
時あたかも、AIの反乱が世界各地で勃発し、稲垣は驚くべき事実を知る。実家の半導体企業が、AI兵器開発のサポートメンバーに名を連ねていたのだ。ロードキラーの反乱は身内が起こしたのかもしれないと、強い怒りに身を焼いた。
それから稲垣は強引に家を飛び出すような形で、兵に志願した。反対する家族の声にも耳を貸さなかった。正義感と義憤に駆られ、また贖罪の気持ちもある。それが三年前、稲垣が二十五歳の時だった。
哨戒中のロードキラーに遭遇したのは、生存者の捜索を始めて二時間ほど経過した時である。玲奈たちのチームは倒壊寸前の商業ビルに潜んで、探知されるぎりぎりの距離から、つぶさにその動向を探った。
ロードキラーは六本の足を持つ、蜘蛛のようなフォルムをした無人兵器だ。周囲を警戒し、番犬のように並んで二体動き回っている。
全長は四メートルほどあり、ボディの頂上部に全方位型のレーザー砲を備えている。その威力は凄まじく、コンクリートのビルであろうとも賽の目にカットしてしまう。兵たちの装甲などひとたまりもない。
玲奈は舌打ちした。忽然と現れ、特に近頃はエンカウント率が高い。正直、人に会うよりも多かった。実際この捜索活動も猫一匹見つからず、出動した甲斐なく、無駄足を踏んで帰る羽目になりそうだった。
玲奈はあらためて思い出した。ロードキラーは動くものには何でも襲いかかり、入力されたコマンドは“見敵必殺”だ。
「くそっ……見てろ、ぶっ壊してやる」
玲奈は小さく怒鳴るように呟いた。思ったことがつい口をついて出た。
青年海外協力隊で活動していた玲奈は、シリアの医療現場で働いていた。政情が不安定なため内戦状態が続き、街は荒れ果て、住人は逃げ惑い、銃声の聞こえない日はない。病院では日夜怪我人が運び込まれていた。
人手が足りないと応援の要請を受け、玲奈は都市部の病院に派遣されることになった。そこは特に治安が悪く、建物は荒廃し、医療設備も限られている。それでも怪我を負った人々を見過ごすわけにはいかず、医療スタッフは懸命に治療に当たっていた。玲奈も野戦病院と化した現場で、必死に力を尽くした。
ある日、そんな病院が襲撃された。戦闘員が入り込み、銃撃と爆発音が響き渡った。好むと好まざるに関係なく、玲奈はアサルトライフルを手に取った。負傷者を守るため戦う覚悟を決めた。
狭い廊下を進んでいくと、突如、煙と火の海が広がった。そこは小児病棟である。武装グループの姿は見えないが、侵入者の気配を感じることができる。血のついた足跡をいくつも見つけた。玲奈は警戒しながらゆっくりと進み、隅々まで目を凝らして敵兵を探した。
彼女の目におぞましき光景が飛び込んできた。それは無惨に息絶えた子どもたちの姿だった。小さな死体が横たわり、血と肉片が部屋中に飛び散っている。助けを求め、かろうじて玲奈の足にすがりついた男の子は、「いたいよ……死にたくないよ……」そう言い残し、息を引き取った。
病院内でも武装グループは、無差別な攻撃を仕掛けており、虐殺は子どもたちにも及んでいた。
玲奈は怒りに震えた。ライフルを構え、テロリストへの反撃を開始した。狙いを定め敵を撃つ。驚くほど冷静で、人を殺す罪悪感は無かった。戦闘本能に突き動かされているようだった。彼女の射撃は精度が高く、敵を一人ずつ仕留めた。その腕は仲間を驚かせるほどで、武装グループはおののいて退却するしかなかった。アサルトライフルを抱え、勇ましく戦う玲奈の姿は、戦場の英雄のように見えた。
それから玲奈は、自ら銃を取らざるを得ない環境に身を置くようになり、いつしか民兵に転身した。日本人でありながら国籍をも捨て、傭兵として紛争地帯で生きていく道を選び、中でもスナイパー然とした射撃の腕を請われ、ゲリラ戦を得意とした。
それからAI戦争が勃発し、敵はテロリストからロードキラーに変わっただけで、玲奈が戦う姿勢を変えなかったのは当然の成り行きと言えよう。稲垣に説得され、日本に帰国しようと思った時から、自分の居場所は軍隊と決めていた。
この辺りもロードキラーに一掃されたと思うと、玲奈はやりきれず、その胸は激しく騒ぎ立った。
速やかに敵を排除すべく、玲奈の指示でチームは二手に別れた。逃げ場がないよう十字砲火を浴びせる作戦だ。相手は殺戮と破壊だけが望みで、感情を持たない悪魔の兵器だ。冷徹なAI相手に卑怯もない。奇襲をかけ、叩くなら先制攻撃こそ最善の策といえた。
「いい、配置についた。一気にカタをつけるわよ」
玲奈はヘルメットの無線で連携を確認した。次々と躊躇のない返事が返ってくる。稲垣などは、楽勝を見越し「たった二匹じゃ準備体操にもならねえ。十秒持てばいい方か」と、ガムを口にくわえ不敵に笑っている。
玲奈は安全装置を外した。まるで重さを感じさせず、プラズマライフルを構えた。抜かりなく準備は整った。
「斉射、始め!」
玲奈の号令とともに、建物の影から全員飛び出した。
プラズマ弾が一斉に火を吹く。集中砲火によって、鮮やかな黄金の帯ができた。兵たちはロードキラーに向かって前進した。押し包むように距離を縮めた。制圧も時間の問題と思われた。だが、ロードキラーは以前機能を停止させない。
「おいっ、玲奈! 変だ」
撃ちながら稲垣は大声で叫んだ。
「なんてこった、プラズマ弾がきかない!」
光線がロードキラーの直前で屈折している。バリアーのような薄い膜が、プラズマ弾を撥ね返しているのが分かった。兵たちは足を止めた。撃ち方もやめてしまった。
青い眼のセンサーが点滅し、不気味な電子音を立てている。二体のロードキラーは兵の位置を捕捉している。レーザーは照準を定めた。空気がピーンと張り詰め、兵たちはゾッとし息を飲んだ。
「まずい! 射ってくるぞっ!」
稲垣が言うや早く、赤い光がはしった。
瓦礫ごと兵士のからだを引き裂く。
呆気なく兵たちの腕、脚、首が飛んだ。
隊長の玲奈は、驚きと狼狽をみせた。
「に、逃げて! 急いで地下に隠れてーっ!」
皆、地下鉄の出入り口に駆け込んだ。かつての東京メトロ丸ノ内線だ。玲奈は被害の報告を受けた。動ける者は負傷した仲間を抱え、どうにか避難したが、死傷者は半数に達している。
玲奈に怪我は無かった。それでも仲間の血を浴びて、全身真っ赤だ。頭から被った鮮血が目に入ってきて、玲奈は顔を拭った。
「そ、そんな馬鹿な。あれはロードキラーじゃない?!」
予想外の結果とショックで頭が回らない。
「おい、玲奈。通信兵もやられた。これじゃあ助けも呼べない」
放心状態のまま稲垣の声を聞いた。
チームは壊滅状態だった。薄暗い階段の中、生き残った者は、慌てて止血と治療に負われている。玲奈はそれをただ、呆然と見つめているだけだった。
女だてらに戦闘兵に志願し、勇猛果敢に戦場を駆け抜けてきた。あたえられた任務は完璧にこなし、リーダーシップを発揮して、仲間たちからも信頼されている。一人も犠牲者を出すことなく、チームをまとめてきた。
しかしこのザマはいったいなんだ──?!
苦しむ仲間たちをみて、玲奈は嗚咽を漏らした。目は光を失い、唇をわななかせている。背中を流れる冷たい汗がずっと止まらない。玲奈はかつてない窮地に立たされ膠着してしまった。
「隠れても逃げられる相手じゃねえ! どうすんだ、おいっ、玲奈!」
そう言われても、男勝りの姿はどこにもなく、連隊長は完全に戦意を失ってしまった。それどころか、殺されるのも時間の問題で、目の前を死がちらついている。
穴から外を見て、稲垣が何かに気付いた。
「あっ、あのバカ」
新兵の佐藤が逃げ遅れていた。あろうことか殺人兵器に挟まれている。佐藤は腰が抜け、座ったまま右往左往していた。
稲垣は壁を叩き、歯ぎしりした。
「くそっ! なんてこった。なぶり殺しにされちまう!」
「ああああーっ!」
佐藤は叫び声をあげた。
二体はレーザーを発し、じわじわからだを刻み始めた。直ぐには仕留めない。ロードキラーは佐藤の耳を切り落とした。残虐を理解し、またそれを楽しむように急所は外している。小間切れに解体され、佐藤は泣き叫んだ。
「痛い、痛い、助けて! 死にたくないよーっ!」
その声で、玲奈は我にかえった。
不意にシリアでの光景が脳裏に蘇った。
今まさに怒りに駆られ、闘志が再燃した。
「ちっきしょうー!」
玲奈は目の色を変えた。プラズマライフルを連射しながら飛び出していった。落ちていた仲間のライフルを拾って両脇に構えた。トリガーに指をかけ、憎き殺人マシンに向かって撃ち続けた。
勝算は関係ない。玲奈は頭に血がのぼり、策もクソも無かった。殺される恐怖も吹き飛んでいた。
「よおーし、連隊長に続けえーっ!」
檄を飛ばし、稲垣も突撃していった。
「俺たちの戦いは、まだまだこれからだ!!」
読んでくれてありがとうございました
また次の作品でお会いしましょう
(P.S.非情な打ち切りメタフィクションでした)