9.レティシアの思い
というわけで、無事騒動は落着した。
カタリナは魔導研究所でさまざまな検査を受けたあげく、近年稀に見る強大な霊力の持ち主だと判明した。
例の手稿は、どうやら非モテを強烈にこじらせた大昔の生徒が作成した、中二病的な妄想ノートだったらしい。
やたら霊力が高いカタリナが、それなりに正確な発音で読んでしまったために、本当に発動してしまったのだ。
王太子を巻き込んで怪しい術をかけたのだから、本来なら厳罰に処されるところではあるが、研究所によって一種の事故だったことが証明され、アルフォンス達の口添えもあって不問に付すということになった。
その後、カタリナは、なんでかティアンの癖の強さにハマったらしく、学院から研究所に日参して、霊力の研究を口実にゴリゴリと交際を迫っているらしい。
国王は、偏屈すぎて手に負えない末弟が結婚する最後のチャンスだと圧倒的にカタリナを応援していて、令嬢の相手なんて面倒だと逃げ回るティアンの外堀を埋めにかかっていると、アルフォンスがこっそり教えてくれた。
「それにしても、どうしてレティシアは呪いに巻き込まれなかったんだろう。
一番近くにいたのに」
アルフォンス達と昼食を食べた後、中庭のテラスでお茶を飲みながら、サン・フォンはふとつぶやいた。
「えっと、レティシア様も霊力が高くて効かなかったんじゃないかって話になって、研究所で検査を受けられたんですよね?」
ジュリエットがレティシアに訊ねた。
「ええ。でも、結局私には霊力は特にないみたいで……」
自分でもわけがわからないレティシアが、困り顔で答える。
ふとジュスティーヌが微笑んだ。
「あの時、急にサン・フォンが好きで好きでたまらないような気持ちになって、わたくしも令嬢らしからぬ振る舞いをしてしまったけれど……
レティシアは、普段からサン・フォンへの強い思いを抑えるのに慣れていたから、大丈夫だったのではなくて?」
「強い思い??」
サン・フォンはぱちくりした。
「だって、レティシアは、サン・フォンの好き好きポイントを、放っておいたら百連発くらいわたくし達には語ってくるのに、肝心のサン・フォンの前ではそんなそぶりはちっとも見せないのだもの。
頑張ってダイエットしたのだって、サン・フォンのためでしょう?」
「さすが姫様!
それですそれです!
レティシア様、サン・フォン様のこと、大大大好きでいらっしゃるって、女子の間では有名ですもん」
ジュリエットも頷いている。
なんだそれ。
どういうことだ?
サン・フォンがレティシアの方を見ると、茹でダコかという勢いで、首から真っ赤になっていた。
「そそそそそんなこと、あるわけがないじゃないですかッ
気の利いたこと、なんにも! ほんとになんにも! 言ってくださらないしッ」
レティシアはものすごい早口で叫ぶと、椅子をなかば蹴倒すようにして立ち上がった。
「あ! でもそのッ
かばってくださった時は嬉しかったけれどッ」
サン・フォンから顔をそらし、明後日の方を向いたままレティシアは叫ぶ。
「レ、レティ??」
面食らったサン・フォンが、思わず腰を上げて止めようとするが、レティシアは「失礼しますうううう」とびゃーっと逃げ出した。
ジュスティーヌが「あらこれ言っちゃいけなかった?」とおろっとするが、もう遅い。
「サン・フォン、すぐ彼女を追いかけろ!」
「好意は口に出さないと、伝わらないぞ!」
色々察したアルフォンスとノアルスイユが慌てる。
「こここ、好意!?
いや、子供の頃から普通に好きだ、けど……」
「それ、彼女に言ったか?」
「……言ってない!!」
サン・フォンは、慌てて婚約者の後を追った。
その眼に決意がみなぎっていく。
なにはともあれ、学院は今日も良い天気である。
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この作品は、「王太子アルフォンスが雑な扱いを受ける短編とか中編」シリーズの16作目にあたります。
今回はサブキャラとして、うっかりサン・フォンに告って叔父にしばかれただけで済んだアルフォンスですが、
・4人の婚約者候補全員に逃げられる
・せっかく結婚したのに3ヶ月も同衾を拒否られる
などなど、さんざんな目に遭いつつ、ハピエンゲットに向けてけなげに奮闘しております。
顔はいいのに残念な王子がお好きな方は、お正月休みのお供に是非…!