1.気詰まりなお茶会
とある常春の王国の貴族学院。
よく晴れた日の午後、中庭に面したテラスの一角。
騎士団長であるサン・フォン侯爵の三男、やたらガタイが良い赤毛のヴァランタンは無の表情で紅茶を飲んでいた。
テーブルの向かいには婚約者のレティシア。
レティシアも紅茶を静かに飲んでいるが、こちらはいかにも令嬢らしいほんのりとした微笑を浮かべている。
2人の視線は、合っているようで互いに微妙にズレている。
茶請けの菓子が美味いとか、そんな無難な会話はとっくの昔に途切れたままだ。
なにか場をつなぐ話題はないかと、サン・フォンは内心焦っていた。
時間が経てば経つほど、会話を再開するハードルは高くなってしまうのに、なにも思いつかない──
1年くらい前までは、こんな関係ではなかった。
サン・フォンとレティシアが婚約したのは、学院に入学する前、14歳の時だ。
レティシアは、代々財務畑で活躍している伯爵家の次女。
避暑地にある別荘が隣同士で、子供の頃から自然に縁が出来、そのまま話が進んだのだ。
子供の頃のレティシアは、ぷにぷにのほっぺが愛くるしい、ふくふくした女の子だった。
ポニーに乗るのが大好きで、かけっこもめちゃくちゃ速い。
男子の遊びにも、普通に参戦していた。
成長するにつれて、身体を動かす遊びにはさすがに入らなくなったが、冗談を言い合って笑い転げるくらいの仲は続いた。
だから、レティシアと婚約するのはどうかと父に水を向けられた時、彼女となら楽しくやっていけるだろうと、サン・フォンは喜んで同意したのだ。
婚約してからも特に関係は変わらず、幼い頃の「レティ」「ヴァル」から「レティシア」「ヴァランタン様」と少し形式張るかたちになったものの、学院の1年目は、昔の感覚で気安くつきあえていた。
だが、2年生になってから、レティシアはどんどん「令嬢らしく」なってきた。
背も少し伸び、腰が細くなった。
顔立ちも、ほっそりしてきたような気がする。
香水なのかなんなのか、いい匂いもする。
ハーフアップにした、つやのある栗色の髪は、いつも綺麗に整えられ、毛先はゆるっと胸元でカールしている。
翡翠のような緑の眼は伏し目がちで、いかにもおしとやかそうだ。
子供の頃は、木登りやら鬼ごっこでサン・フォンを打ち負かしては、勝利のガッツポーズをキメていたなどと、誰が信じるだろう。
以前は自分のことを「俺」と呼んでいたのを、レティシアの変化に合わせて「私」に変えてみたりしたが、全然追いついている気がしない。
次第にサン・フォンは、レティシアにどう接していいのかわからなくなってしまった。
馬鹿な冗談を言っても、たおやかに微笑んで受け流されてしまう。
人並みに、エスコートするべき時はエスコートし、贈り物をするべき時はしているつもりなのだが、礼儀正しくお礼は言われても、テンションを上げて喜んでくれることはない。
よく考えたら、今の楚々としたレティシアなら、しょせん三男の自分より、もっと条件の良い者と結婚できるに違いない。
もしかして、自分のことは婚約者として物足りなくなっているのではないか──




