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2話

ラウド・マキュリー公爵様に、本来なら、男爵令嬢である私は身分違いだ。


どんな方だろう、と不安半分、楽しみ半分で、馬車のなかで読書をしている間に屋敷の前に到着した。

 ラウド様のお屋敷があるのは、実家のある王都周辺地域から、さらに地方へ進んだ、海辺のヤディ地区と言われるところだった。この辺りに入ったときから、少し雰囲気が変わった気がした。なんというか、なんだろう、腕っぷしが強そうな人が多いというか。

 馬車から荷物を下ろしていると、屋敷から二人の侍女さんがでてきた。

 

「あらま、あなたもしかして旦那様の婚約者の!」


 年配の侍女さんが、目を丸くしている。

 

「かわいらしいお嬢さんでよかったです!」


 ハツラツとした若い侍女さんが笑った。

 

「出迎えありがとうございます。私、ルーン・チュリアと申します。チュリア家の長女です。どうぞ、よろしくお願い致します」


 緊張ぎみだが、学園で習った通りに、少しドレスの裾を持ち上げて挨拶した。

 

「あたしはパイン! ここの侍女長だよ、よろしくね!」

「わたくしはフォルと申します。慣れない土地で不安かと思いますが、いつでもなんでもお申し付けください」

「一応、このフォルがお嬢様のメイドとしてつきますからね!」

「よ、よ、よろしくおねがいします」


 家に侍女の方なんていなかったのに、いきなり自分つきのメイドさんだなんて、大層おそれ多い。さすが公爵家……。

 

「さあ、荷物を下ろすわよ! フォル、男も呼んでおいで!」

「はーい!」

「あの、大した量もないですし、ほとんど本なので、わたしも下ろしますから」

「あらまあお嬢様なのに、ありがとうねえ」


 大事な本を下ろしながら、使用人の方々がいい人そうでとりあえずほっとした。

 

「荷物を下ろしたら、ラウド公爵様にご挨拶したいんですけれど」

「旦那様なら、いまお仕事で外出中なの、悪いわねえ。……もしかして、まだ会ってないのかい?」

「そうなんです」


 パインさんは、少し目を伏せて「この子も逃げ出さないといいけれど」と小さく呟いた。


「にげだす、とは」

「なんでもないのよ! とにかく会ってみないとわかんないから、緊張しないことだね!旦那様は見かけによらずいい人だよ!」


 そんなに恐ろしい見た目なのかしら……。

 少し楽しみにもなってきた。



私の部屋だと通されたのは、大変立派なお部屋だった。

 元々用意してくださっていた大きなベッドと大きなクロゼットの他は、実家から持ってきた家財や本を置かせていただき、ふう、とため息をついて一段落したところで。

 

「お嬢様あけますよー」


 フォルが「失礼します」と入ってきた。

 

「まもなく旦那様がお戻りです。それで、旦那様がレストランで食事はいかがかと」

「すてき! 海が近いから、海鮮が食べられるとうれしいです」

「旦那様イチオシの魚介料理店です。さあ、着替えていきましょう!」

「……このままじゃだめかしら、いや、そうね、だめなのよね。着替えます」


 いつもの、動きやすい丈の長い青いドレスだったが、着替えることにした。トロング侯爵様のときの失敗を繰り返さないようにしないと。

 

「ラウド公爵様は、何色が好きでしょうか」

「……海の、深い青色がお好きです。私、余計なことを言いました。お嬢様、そのままの姿でいいかもしれません」


 フォルはにっこり笑った。

 

「ありのままのお嬢様を見ていただかないと」

「……そ、それでいいの、ならば」


 拍子抜けしてしまった。

 フォルと共に、最低限の準備だけして、用意された馬車に乗り込んだ。馬車に揺られながら、ラウド公爵様のことを想像していた。

 

 見ただけで令嬢が逃げ出す恐ろしい方。屈強な大男で、鬼のようなお姿なのかも。案外、そんな方が小動物には優しかったりするのよね。


 小説に出てきた鬼を思い出して、くすくす笑ってしまう。フォルは私が怪しかったのだろう。不可解そうにこちらの顔を覗きこんでいた。


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