表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
9/29

年月

数年の月日が流れた。


3年の修業を終えて兄、クロルが戻ってきた。そして、ルルドの初恋相手のリュイスと駆け落ちしてしまった。

リュイスの父、つまりディアンの父が、「まだ早すぎる。待て」と言い出したので、リュイスの方が怒ってしまったようだ。

リュイスは13歳。クロルは15歳。

『幸せになります。スマホを1つ置いておきます』と書置きがあった。


なお、スマホというのは、遠く離れた場所でも連絡ができる道具だ。

父たちが、手間暇をかけてやっと作り上げた試作品。ルルドも開発を手伝った。

それを、3年間離ればなれのクロルとリュイスに、連絡はできるようにと結局子どもに優しい父たちが貸し与えていた。

その試作品の片方を家に置いていったのだ。つまり、家族と連絡は取れるように。


リュイスの父が、家出にショックを受けて泣いているらしい。

ディアンが目撃して、秘密だよ、と言いつつルルドに教えてくれた。


結婚は、母たちに言わせても、少し早いと思うらしい。まだ子どもの年齢だと。

ただ、駆け落ちという予想はしておくべきだった、と言っている。

3年の修業も結局待たせるための策で、それも終わったのだから、もう引き延ばすのは無理、仕方ないと思う、ということだ。何より、もう出て行ってしまったので、無事を願うほかない。


ちなみに、リュイスはしっかり者で少し気の強いところがあるが、兄クロルは楽天家で深く考えずに行動する。細かい事を気にしない。

駆け落ちした割に、結構まめに、兄クロルからスマホを使った近況連絡が入る。


「今、ウエリの町に来たんだけど、すごく暑い国で、扇風機が大人気なんだ。あっという間に全部売れたよー。またたくさん作っておいて」

とか。かなり能天気に売上報告をしてくる。普通に他国に向けて行商中だ。

なお、こまめに連絡して来るのは、きっとリュイスの事を心配している、とクロルが察しているからだ。


リュイスの母は、クロルくんと一緒なら安心だわ、と言っているらしい。

リュイスの父は隠れて泣くほど悲しんでいるらしいが、クロルで良かったとも思っている。単純に、結婚が早すぎて嫌なのだ。


こちらの父と母は、リュイスの父には気まずそうにしつつも、まぁクロルだから大丈夫、と思っている。そもそも、課題の3年の旅のために、両家の親が色々と教えた。3年の旅を終えて戻ってきた時の状態もとても良かった。


さて。

ルルドについては、陸の船の競争を続けているので、高い人気を維持している。

一方、ディアンの人気が急激に出ている。

正しく言おう。女性たちが、ルルドからディアンの応援へと急激に切り替えている。顔が良いから。


顔で応援相手を変えるなんて酷い、とルルドは悔しく辛いが、ディアンは大事な弟分。

それに、彼女たちの見る目は正しいとも思ってしまう。


ディアンは間違いなく自分より才能がある。

加えて、ディアンが国に勇者と認められた事はすっかり皆に広まった。


そりゃ、皆が注目するよな、勇者ディアンに。


とはいえ、数的にはルルドの方が人気者だ。男ばかりだが。

大人には本気で勝負を挑まれる。人数が多く、順番待ちまでしてもらっている。

同じ年頃の男の子たちは、ルルドに憧れて陸の船の練習を始めた子も多い。


男に囲まれてワイワイやっているのは非常に楽しい。好きなことについて好きなだけ話し合える。

が、あれっと気が付けば、昔に『女の子に来てもらうために陸の船で』と考えるきっかけになったあのご令嬢さえ、すっかりディアンの応援に回っていた。


これは、結構なショックを受けた。ついに彼女まで、と。


いや、彼女が特別に好きだったとかではない。

ただ、彼女は初めから、ディアンよりルルドを気に入っていたし、一番古いルルドのファンだったのだ。


ちなみにここに至るまで、つまりディアンの方に女性たちがいってしまう前に、特定の女の子と特別に仲良くはなれなかった。

皆、「すごいですわ」と応援してくれる。声援をくれる。

しかし、それ以上近づいては来ない。


恥ずかしいのかな、と思っていた。加えて、ルルドもどう近づいて良いのか分からなかったから、ずっとそのままの距離だった。特別に気に入るほどに近づいてくる人もいなかった。


しかし、今。

ディアンへは、明らかに恋愛感情の入ったアプローチが繰り広げられているのを目撃する。

つまり、どうやら自分の時は恥ずかしかったとかではない、とルルドは分かってしまったのだ。


え。じゃあ何なの。あの「キャー!」「素敵―!」は何だったの。


この話はディアンには言えない。

ルルドは、友人と呼び合える大人たちに聞いてもらった。打ち明けた。

すると、皆、ポン、とルルドの肩を叩く。

そして言うのだ。

「俺たちにはスピードがあるじゃないか!」

「かんぱーい!」


どうやら飲むしかないらしい。


というわけで、ルルドは酒を積極的に飲みだした。そうしたら父に怒られた。

まだ成長期に酒を飲むと体に良くないと言う。

そんな考えも決まりもこの国には無い。あったら、友人たちもルルドに酒を勧めないだろう。


だけど父は声を荒げた。

「お酒は20歳になってからだ!」


温厚な父は、怒る時も冷静なまま、ゆっくり言い聞かせる叱り方をする。声を荒げない。

なのに、父が普段になく怒るので、ルルドはそのまま頷きそうになった。


ん?

待て。

今、13歳。

え、あと7年近く待つの!?


ルルドは、年齢を下げることを訴えた。

頑張った結果、15歳は無理だったけど17歳で互いが妥協した。


書面に残そう、と互いに言い出し、父とルルドのサインが入った書面が額にいれて部屋に飾ってある。

つまり、まだルルドは酒を飲んではいけないが、17歳で大っぴらに飲んで良いという事だ。


この話に、大人の友人たちは気の毒がって、代わりに肉を土産に持って来てくれるようになった。


お陰でルルドは太った。

もともと、ぽっちゃり体型だったのが、完全に膨らんだ。身長も伸びたが。


母がこれは太りすぎよ、と眉をしかめた。太り過ぎは健康に良くない、短命になると。

ルルドは母に、毎日走るように命じられた。

しかし、太っているが、ルルドは走れる。体力はあるのだ。

つまり走る事に問題はないが、痩せもしない。


一方、太っていくのと比例して、ルルドの周りから女性ファンがさらに減っていく。男のファンは増え続けるが。


丸い体型になっていくルルドを見かねたのは母だけではない。

多分、母たちの話に影響を受けたディアンの弟イーシスが、本当にルルドが早死にするのではと心配するようになった。


8歳児のイーシスは湖で魚を釣っては焼いて、

「肉より魚の方が良いと思う」

とルルドに魚料理を振る舞ってくれるようになった。


『体に良い料理を作れるようになりたい』というのが、今のイーシスの目標だ。

イーシスは、兄ディアンと同じに、ルルドが大好きな様子なのだ。


「お父様も世話好きだものね」

とは、ニコニコしているイーシス、つまりディアンの母の言葉。


ディアンの母は、ディアンの父の、態度は冷たく見えるけど実は優しくて世話好き、というところに惹かれたそうだ。惚気のろけか。


とはいえ、確かにイーシスは容姿も性格も彼の父に似た様子だ。

顔つきは鋭いのに、せっせと一生懸命毎日ルルドに魚料理を作ってくれる。


ごめん、イーシス。全然痩せなくて。


痩せない理由には実は気づいている。

友人たちからは肉や食ベもの、飲み物を。

その上で、イーシスが、ルルドのために料理を作る。

男限定でモテ期。

ルルドは、善意の塊のこれらを断れない。しかも両方とも美味しいので、その意味でもルルドに食べないという選択肢は無い。

つまり、動く以上に食べている。だから太る。


とはいえ、船の操縦が難しくなってきたので、本当に痩せようと思い始めている。

指が太くて操作がしづらいのだ。

ルルドが本気で痩せる、と言えば、皆がその応援をしてくれるだろう。


うん。本当にそろそろ何とかするべき。


さて。

女性が周囲にいなくなっていくルルドだが、勿論例外は居る。妹たちだ。


言葉が鋭い妹ドルノには、良いように使われつつも、兄だと認めてもらっている感じ。

買い物の運転手をよく頼まれるのだ。

ドルノだってある程度運転できるが、ドルノは言うのだ。

「ルルドお兄様の方がうまいのだもの。駄目?」


駄目? と聞かれると断れないルルドである。そもそも運転が大好きだし、頼られるのは好きなのだ。


一方、ドルノの3歳年下、6歳になっているもう一人の妹ノルラは、非常に甘え上手である。さすがアドミリード家の末っ子。

「ルルドお兄様、イーシスくんと一緒にお船に乗りたいから、一緒についてきて?」


ノルラはルルドに可愛くおねだりする。しかし、狙いは、ルルドに魚料理を作ってくれる弟分イーシスである。

つまり下心ある可愛さだ。

良いけど。


なお、イーシスは明らかに自分を慕っているノルラにとても甘い。

クッキーとかを特別に焼いて、ノルラに渡す。だからますます懐かれる。

すでに両想いということか。良いなぁ。


さて、もう一人、妹分がいる。ディアンの妹のアイシャだ。アイシャは4歳。すでにルルドに懐いている。

いつもアイシャが一緒に遊ぶドルノとノルラがルルドを頼るので、アイシャも抱き付いてくるのだ。


「ルルドくんのおよめさんになるー」

と13歳のルルドに言ってくれる。

かわいい。


しかしそこにアイシャの父、つまりディアンの父がいた場合、ものすごく鋭い目で睨まれる。

アイシャの姉リュイスは、幼い時はずっと「お父様と結婚する」と言っていたそうだ。しかしアイシャはすでに父よりもルルド。


だからって睨むの止めて欲しい。怖いから。

あと、本気で心配しなくても大丈夫だから。本気にしてないから。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ