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泥棒か勇者か

広場に着くと、まだ泥棒たちは声を上げて騒いでいた。よく聞こえる大声だ。

「俺たちに力を貸して欲しい! 勇者なんだよ! 世界を守るために必要なんだ! 」

演説が始まっている。

周囲が困っている様子だ。


近くに行って分かったが、泥棒たちは結構若い。

ルルドたちよりは年上だが、まだ少年少女、と言われても通じる様子だ。

そして、顔がちょっと良い人たちばかり。


ディアンの方が顔も良いけど。とルルドは思った。

騒いでいる彼らが本当に勇者だというなら、じゃあディアンは何者になるのか。

もっともっとすごい勇者? 本物の。


そういえば、妖精は、ディアンを勇者って呼んだぞ。


「ルルドお兄様。良い? あいつらをギャフンと言わせるの」

「ギャフン・・・?」

強い決意を感じさせるドルノの声に頷きつつ、聞き慣れない単語を復唱してみたがそれに対するドルノの返事はない。


「小さな子どもが、泣いて『お前たちの方が悪者だ!』って訴えるの。心理的なダメージを与えてやるの・・・!!」

「お、おぅ」


ルルドはとりあえず頷き、ドルノよりは先に進んでやろうと、手をつないで少しだけ先を歩く。

が、ピタッとドルノの足が止まったのでルルドも止まった。

「ここで良いでしょ」

「おぅ・・・」

ドルノの言いなりだ。まぁ、妹につきあってやろう・・・。


すぅ、とドルノは息を吸い込み、叫んだ。

「あなたたちは泥棒だわっ!! 出て行け、悪党!!」


すげーことを言うなぁ・・・。


ルルドはまたしてもおののきながら、妹にあわせた。

「お前らが勇者なものか! 子どもの大事な船を盗もうとしやがって!」

「大事に使って遊んでいる船なのよっ! 泥棒! 盗賊! 盗人!」


5歳のくせに言葉にバリエーションがある。

もっと、船以外の本を読まないといけない、とルルドは自らの不勉強を反省した。

とはいえ、泥棒、盗賊、盗人、どれか1つ覚えれば困らない気もする。


妹に負けない罵りの言葉を、とルルドは一生懸命頭をひねった。

「僕たちの大事な船だぞ、勝手になんてこと考えるんだよ!」


この後が浮かんでこない。

ルルドは自分を馬鹿だろうかと思った。口が動く準備は出来ているのに、頭が回らない。


「酷い酷い、わぁああああん!!」

「うぉっ」

隣のドルノが盛大に泣きまねを始めたのでルルドは驚いた。

涙が出ていない。しかし声は本気で泣いている風に聞こえる。


敵に回したくない妹だ・・・。


ルルドはさすがに泣き真似までしたくない。男としても嫌だ。

ドルノを宥めるようなふりをして、泥棒たちの様子を伺うことにした。


向こうは、驚き、言葉を失くしている様子だ。


もう、良いはずだ。

ルルドは、激しくしゃくりあげる真似をするドルノを促して、家に戻る事にした。


***


家の中に入ったので、最終的な事は全部父たちから聞いた。

ドルノたちの声を聞いた盗賊たちは、勢いを失くして項垂うなだれたそうだ。


「自覚して良かったー」

ドルノの呟きを、ルルドは聞かなかった振りをした。冷静に呟いている分、怖さがある。


なお、ルルドたちが呼びかけて集まってくれた貴族の中に『自分も、代々大事にしてきたものを荒らされて盗まれた』と声を上げた人たちがいて、それも彼らの仕業か、国がしっかり調べる事になった。

ちなみに、彼らは国が認める勇者ではないそうだ。普通の冒険者。


一方、ディアンが国の勇者として登録される事になった。ディアンが事の経緯を騎士たちに話した結果だ。

「是非王宮に」とも言われたが、ディアンが困って泣きそうになり、ディアンの父がとっさに守って断ったので、「王宮には気が向いたらいつでも来てください」という話に変わったそうだ。


盗賊を捕まえるために来てくれた騎士の中に珍しい魔法が使える人もいて、やはりディアンは普通の子では無いという。

今は小さいが、そのうち有名になり活躍するでしょう、と。


しかしディアンが不安になって父の服を握るようになった。

だから、ディアンの父が、国からの提案を全部断った。


ルルドも、父経由で頼まれてディアンを励ます事になった。

「行きたくないなら行かなくていいよ、僕もその方が遊べて嬉しいし!」

とルルドにとっての事実を、積極的にディアンに告げる。


「行かなくて良い」と言ってもらった事で、ディアンは安心できたらしい。

ルルドをそれだけ信頼してくれているのだろう。


さて。

湖の建物や底の船について、盗賊たちが持っていた地図や、建物そのものを騎士たちが調べた結果。

今はない技術で昔の人たちが作った場所だと分かってきた。


騒ぎから5日経っても、湖の水位は少しずつ下がり、水の建物の方が大きくなる。

魚だっているし、湖が消えてなくなったら嫌だ、と心配になるが、手の打ちようも分からない。


10日経った頃に、変化は止まったようだ。

建物は湖の真ん中に1階建てのままだが、湖のフチの一部に湖を囲むように、3階建ての横に繋がっている建物が出てきたのだ。建物の方が上昇したらしい。


さらに10日ほど様子を見ても落ち着いているので、父たちは、建物の中を見に行こう、と言い始めた。家の傍にあるから、安心して良いものか確認したいそうだ。


ディアンのところにたまに現れるらしい妖精も、是非来て、と言うらしい。


そこで、騎士たちが来て先に中を確認しようとしてくれた。

しかし、途中までしか通してくれないようだ、と戻ってきた。


というわけで、ディアンも行く事に。

騎士たちと一緒に、ルルド、そして希望したドルノ、ディアンの弟で4歳のイーシス、そして2人の父も行く。

なお、他の子と母は留守番。


湖の中央に現れたままの道を通って、建物に入る。その途端、声がした。

『ようこそ。小さき勇者よ』


妖精が現れる。


『この建物も好きにお使いなさい。あなたなら許します。これは地図。必要なら私の名を呼んで。助けにいきます』

ディアンが返事をする前に、ディアンに近づいた妖精は何かささやいて、消える。


そして、ディアンの手には、折りたたまれた紙があった。


ディアンが広げる。

皆で覗き込むので、床に広げる事になった。


紙には、湖とこの建物を真横から見た図が描いてあった。

船も描いてある。1つしかないから、多分、ディアンが乗り、家に置いてある、あの船だ。


騎士がせっせと紙にメモを取っている。

すると、妖精が現れてその紙を怒って破いて燃やして消えた。

騎士たちが困った顔をした。そして、筆記具を片付ける。


「あ、見て! 『勇者の通り道』って書いてある」

ディアンが声を上げ、指差した。

建物の中から、湖へ出て、地面に入って地上に出る細い道。

滑り台の部分だ、とルルドも思った。


「読めるのか?」

不思議そうにディアンの父が尋ねた。

「うん」

キョトン、とディアンがなってから、気が付いた。

「え。・・・あ、本当だ。僕、どうして分かるのかな」


「勇者だからじゃないの、ディアンくんが」

「勇者・・・」

「ディアンくんにピッタリね」

ルルドに続き、ドルノまで褒めるので、ディアンが少し頬を染めた。恥ずかしそうだ。


「ここ、説明文かなぁ。ディアンくん、お願いなんだけど、読んでくれるかな」

ルルドの父が紙を指す。

ディアンは少し恥ずかしそうなまま、読み上げた。

「うん。『勇者の通り道。遠い未来への備え。不届き者から私たちの宝を守ってくれる勇者のみが通る。勇者は勇敢な子どもたちである。この道を通れば、真っ先に宝の元に駆け付けることができる』って」


ドルノが不思議そうだ。

「ここを通れたら、皆、勇者なの? じゃあ、私も? ぬいぐるみも?」

「そうかもね」

とルルドの父が頷く。


「そう思うと皆だ。初めはクロルが見つけて、次はリュイスちゃんだ。ルルド、ドルノもね。一番活躍したのがディアンくんになるのかな」

「クマさんもだよ。一番早く運転できたの、クマさんだし」

ルルドが口を出すと、ディアンの父が笑った。

「その通りだ。ディアンが特別なわけではなかったな」


「ドルノちゃん、あの人たちに文句を言って、すごかった」

ディアンの弟、現在4歳のイーシスが言った。

全くだ。

ルルドは無言のまま、深く頷いた。


「あの時は本当にハラハラしたよ。もう止めて欲しい。何事もなくて良かったけど」

「本当です。逆恨みされると危ない」

父たちがため息をついている。


そんなところに、イーシスが立ち上がった。

「先に進まないの?」

地図を見るのに飽きたらしい。


なるほど。


皆も立ち上がった。


***


中はとても綺麗だ。


「湖の中の宮殿みたいだね」

「えぇ。調度品こそないが、建物だけで美しい。それに、快適な温度だ」

父たちが感心している。


途中で幽霊が現れた。全身甲冑だ。

礼をして、扉の前から脇に退いてくれる。

『ようこそ。お通りください』


扉が勝手に開いた。


「すごい」

皆で口々に言いながら進む。


そして、最後にたどり着いた奥の部屋。

ルルドにも見覚えがあった。滑り台で行ける、夜に遊んでいた大きな部屋。


「ここかぁ」

「ここで遊んで、帰りは船に乗るのよ」

「へぇー、ここで遊んでいたのか」

「一番奥の大切な部屋ということか」


到着を待っていたように、部屋の中央に大きな女性の幽霊が現れた。傍に妖精も現れている。

『勇者様。こちらに』

「ディアンくんだ」

「僕? でも、ルルドくんやドルノちゃんもだよ」

「ディアンくんだと思う」

「何をするつもりか言ってくれないと信用できない」

ディアンの父が声を上げて睨むので、幽霊がひるんだ。


『船の持ち主を勇者様にするだけです。勇者様が呼ぶと、どこでも船が来ます』

「危険は?」


『ありません。便利な、宝物です。信じてください』

「・・・」

「お父様、僕、行ってくる」

疑わしげなディアンの父に、ディアンが取りなすように進んだ。


『助かります。少し、頭をこちらに』

「こう?」


『えぇ。少しそのまま』

幽霊が頷いて、手のひらに出てきた小さな王冠をディアンの頭に乗せた。


『これで、あなたが主です。これからもこの建物と宝を、どうか守ってください』

「おい! 話が違うぞ!」

怒ったのはディアンの父だ。

「勝手に荷を背負わせるな! ディアン、守ってやる義務なんてない!」

『えっ・・・』

幽霊が動揺している。


ディアンが気の毒に思ったようだ。

「お父様、大丈夫だよ。幽霊さん、あの、僕は子どもだからできるかどうか・・・」

『大丈夫です、そのお気持ちだけで・・・』

「なら初めからそう言え!」

「お父様。落ち着いて」

幽霊に怒っているディアンの父を、ディアンが宥める。


「船、呼んでみて」

と言ったのはディアンの弟イーシスだ。


「え、うん。船、戻ってきて」

ディアンが言った途端、ポポン、という可愛い音がした。


部屋の中に、梯子がスルスル降りてくる。

「おぉ・・・」

ルルドは感心して声を上げた。


皆で乗り込む。

操縦席に、ディアンが乗る。家に戻る事にしよう。


***


「ズルイ、私たちも行きたいわ!」

と話を聞いて、母たちが言った。

もう一度母たちも連れて行く事になった。

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