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小さき勇者

両親は起きてくれた。

泥棒が来て、ディアンが危ない、と一生懸命訴えた。


結果、ぬいぐるみたちの協力もあって、ルルドの父、ディアンの父、ルルド、それからキイロちゃんたちで、湖の広場に向かう事になった。母たちは子どもたちと家にいる。


出てみると、やはり湖はいつもと違う。

「遺跡なのか」

とルルドの父が呟いた。


「空の船で地下まで入れないか試します」

ディアンの父が言った。

滑り台は小さすぎて使えない。


「早く行こう!」

ルルドがせっつく。

「ノア、空の船に、小さな陸の船と湖の船を積んで行こう。中がどうなっているか分からない」

「確かに。ルルドくんの陸の船使っていいか」

「うん、良い!」

「湖のはいつも使っているのにしよう。使い慣れている方が良い」

「えぇ」


皆が焦っていて早口だ。

すでに広場に出ていたが、急いで戻り、家の出入り口を大きく開ける。


その時、大きな影が落ちた。皆が振り返り、上を見る。

大きな船が空に浮いていた。


「あ、湖の底の船だよ!」

ルルドは声を上げて、ふとディアンが乗っている気がして呟いた。

「ディアンくん?」


いや、でも、だけど、まさか、泥棒かも。


広場に、ゆっくりと船が降りてくる。

着陸かと思ったけれど、浮かんだまま、家への出入り口の前で止まった。


「ディアンか?」

ディアンの父も声をあげた。


「あ、窓! 手を振ってる! ディアンくんだ!」

「ディアン!!」

「家に入るのか? ノア、ルルド! 道を開けてあげよう」


入口から脇に退くと、ゆっくりゆっくり、船が家に入っていく。

大きい船だ。ディアンの父が急いで、出入り口を広げる。ルルドも反対側を。ルルドの父も加わる。


最大まで開けた出入り口に、船はゆっくりすすんで入り、通路にあたる何も置いていない場所に着陸した。


ポン、とディアンの姿が、それからぬいぐるいみのクマが現れる。

揃って船を振り返り、

「大丈夫みたいだね」

とディアンがクマに言い、クマがウン、と頷いた。


「ディアン!」

ディアンの父が駆け寄り、すぐに膝をついて視線の高さをあわせた。

「何があった!?」


ディアンとクマが頷いて、それからルルドたちを見て、ほっとした顔になる。

「泥棒が来たって、窓を見たら、5人、湖にいて、魔法を使って建物が出来て、入って行ったんだ」

「どうして一人で。すぐお父様にどうして知らせなかった」


「急がなくちゃと思って・・・。窓の外に、小さな、絵本で見たままの妖精が浮かんで、僕に『宝物を守って』って言ったんだ」

「妖精? 宝物? 泥棒には会ったのか!?」


「ノア、落ち着こう。ディアンくんは、まず無事なんだね」

「うん」

ルルドの父が声をかけると、ディアンが頷く。


「泥棒には会ったのか?」

ディアンの父が少し落ち着いて尋ね直す。

「ううん。僕、トピィとクマさんと、滑り台で湖の底に行ったんだ。まだ誰もいないと思ったんだけど、でも、扉がたくさんあるところを通ったら、そこは、幽霊とあの人たちが戦っているのが見えたんだ」

「え、あの、ドアが12コあるところ?」

「うん」

ルルドが口を出すと、ディアンは頷く。


「なんだか、近くにあるんだけど薄らしてて、でも戦っているのが見えた。でも違うところにいるみたいで、よく分からないんだけど、見えたのは、湖で見た人たちだと思ったから、あの人たちが泥棒だと思って、急いで、でも僕は会ってないと思う」

「・・・」

ディアンが一生懸命整理しようとしながら話す。


「地下ではぬいぐるみと話せるから、トピィとクマさんと相談して、湖の底の船が宝物だって思ったんだ。この船は凄いんだ。湖の底から空の上までいけるなんて、船の本にも、無かった」

ディアンが父たちに話しながら、同意を求めるようにルルドを見る。

「うん」

とルルドは相槌を打った。


「だから、クマさんと一緒に運転して、飛んだんだよ。いつもは『格納』ってボタンで湖の底に船だけ元に戻すんだけど、まだ『格納』ボタンは押してなくて、着陸できた。大丈夫みたい」

「この船の事だな」

「うん」

ディアン親子の会話に、ルルドの父も呟いた。

「この船が欲しくて、人が来たって事か・・・?」


「あ! あの妖精だよ!」

急にディアンが宙を指す。

目を凝らすと、次第にそこに小さな人の姿が見えてきた。背中に羽がついていて、本当に絵本で見る妖精だ。


妖精は口を開いた。小さな可愛い、ちょっと響いているような声がしてきた。

『宝を守ってくれてありがとう。私たちは、悪用されることを望みません・・・』


スィッと近づいてきて、ディアンの傍に留まる。


「これからどうしたら良いの?」

『船はあなたが使ってください。その方が私たちも嬉しい・・・』


「待ってくれ。あなたは何だ? 泥棒というのはどこだ」

ディアンの父が聞いた。


『私たちは昔にここにいたものです。私は守るためにこのように現れただけ。けれど残したものを悪く使われることは耐えられません。未来を知ったアピステクナが私を作り、このように残しました』


「意味が分かんない」

ルルドが呟くと、妖精はクスリと楽しそうに笑った。


「泥棒はどうなるの?」

とディアンが妖精に聞き直す。


『元来た道を戻るまで、あのままです。船はもうここに逃げたので。あれらには道を戻る以外に戻る方法はありません』


「ということは、まだ湖の中に泥棒がいるってことか」

『えぇ、その通り。衛兵が戦っています。けれど船を無事に逃がせたので、彼らも手を引かせましょう・・・』


やっぱり意味が分からない。


『あとで、あなたがたが見るべきものを、見れるようにしておきましょう。それでは、小さき勇者。私たちは心から感謝しています・・・さかえあれ』

妖精はディアンにキスをするような仕草をしてから、ほわわん、と消えた。


「泥棒、まだ湖の下にいるんだったら、騎士様たちに連絡しないと。お父様」

ディアンが言った。

「・・・あぁ。そうだな」

父同士で顔を見合わせ、頷き合う。


「ディアンは、本当に何とも、無事なんだな」

「うん。大丈夫だよ」

「良かった・・・」

やっとホッとした様子のディアンの父が、ディアンを抱きしめると、ディアンは嬉しそうに、安心した笑顔を見せた。


***


すぐに空の船で、この国の治安を守ってくれる騎士のところに知らせに行った。

それから、お世話になっている貴族のところにも。

少しでも力になってくれる人がいた方が良いと父たちが判断したのだ。


ルルドも、一緒に空の船に乗り、陸の船の競争で仲良くなった人たちに知らせることになった。

ルルドが知らせたのはたった2人だけだけど、そこから他の人にも連絡してくれるそうだ。

真夜中なのにみんなすぐに対応してくれて、心強いと思った。


そして、日が明けて、昼に。


未だに湖はいつもと違う様子だ。

湖の中にできている道に騎士たちが空の船から降り立ち、武器と荷物を持って徒歩で建物に入っていく。


湖の上には空の船。湖にも船が浮かぶ。


ディアンは皆に頼まれて、ディアンの父とルルドの父と共に、湖の底の船から持ってきた船に乗っている。他の船は、やはり、空から水の中へなど行けないらしくて、この船が必要な事態があるかもしれないからだ。


ルルドは、家の中にいるように、と言われてしまった。仕方なく、母や弟妹たちと一緒に家の窓から様子を見ている。


動きはすぐにあった。

縄で手を縛られた状態で、湖に出来た水の建物の入り口から、5人がぞろぞろと騎士に囲まれて出てきたのだ。


彼らは周囲を見て驚いた。大勢が取り囲んでいるからだ。


そして、一人が急に声を張り上げ叫んだ。

家の中から見ているルルドたちにもよく聞こえた。

「俺たちは勇者だ! 濡れ衣だ! 世界を救うために船が必要で、取りに来ただけだ! 正当な権利だ!」


「・・・馬鹿じゃないの」

ルルドのすぐ傍、呟き声に驚いた。ルルドの妹、ドルノだ。

ドルノの表情を確認すると、5歳児とは思えない、冷めた顔をしていた。


ドルノはルルドたちが見守る中で息を吸い込んだ、と思うと、

「泥棒のくせにー!!」

と、湖に向かって大きく叫んだ。

「私たちのを、盗もうとしたー! 酷いわ、泥棒ー!!」


母が慌ててドルノを抱き、窓から離す。

「危ないでしょう! あんな人たちにケンカを売らないで!」

「お母様。勇者なんて自分で言うような人は、無邪気な子どもに言われないと分からないのよ。グサッと来るように言ってあげるの」

冷静に指摘するような口調だ。

「もぅ、この子は・・・」

母が困っている。


ドルノこぇぇ・・・


ルルドは常にディアンと一緒で、ドルノと一緒にいる時間は少ない。

大人しい控えめな性格だと思っていたが、こんな鋭いナイフみたいな性格だとは。


動揺しているルルドに気づいたのか気づいていないのか、ドルノがスッとルルドを見る。

「ルルドお兄様。一緒に下にいって、ののしりましょう。私たちにしかできないダメージを、泥棒にあたえないといけないと思うの」

「はっ!?」

行くの!? 文句を言いに!? あいつらの前に!?


「ド、ドルノって、5歳なのに、難しいこと言うんだな」

「どういう意味? ルルドお兄様がご本をあまり読まないからじゃなくて?」

胸に刺さる言葉に、ウッとルルドは言葉に詰まった。


「行きましょう。ルルドお兄様は悔しくないの? あの船をとられたら、私たちもう、湖の底から家に戻れないわ。これからイーシスくんも、ノルラも、アイシャちゃんも遊びに行くのに! 全部ダメになるところだったのよ。訴えないといけないわ」

「お、おぅ。そう、だな」

ドルノににらまれるように詰め寄られて、ルルドは頷いた。

母は困り顔だが、止める気を失くしたようだ。普段からこんな感じなのか。


母たちもついて来ようとしたのを、ドルノが止めた。子どもだけの方が威力があるから、という理由だ。

ドルノに連れ出されるように部屋を出る。

「ルルドお兄様、いざという時は、私を守ってね」

「え、あ、うぁ」

「頼りないですわ。ディアンくんなら、任せてって言ってくれると思うのに」

「ドルノ、ひょっとしてディアンくんが好きなのか?」

「言うはずありません」

「そ、そっか」

「ディアンくんはとてもカッコイイわ。でも、私は釣り合わないって思うの」

「え、あ、そうか」

「見ているだけ」

「ふぅ、ん」


妹の初めて知る性格に動揺を抑えられないまま、ルルドはドルノと湖の広場に向かう。

心配そうにぬいぐるみたちもついてきた。



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