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人生の絶頂期かもしれない

さて陸の船スピード大会の日が来る前に、ルルドの妹ドルノが5歳の誕生日を迎えた。

ドルノも陸の船の練習が始まったのだ。


そして、湖の底の部屋へは、ディアンとぬいぐるみたちが連れて行った。

ドルノはやっぱり頬を上気させて喜んだ。


ちなみにディアンは、空の船の操縦をクマに教えて貰い終わっている。

ディアンは日中色々やることもあるから、この部屋には多分あまり来ない、とドルノに言った。

しかし、ドルノが一人であの部屋に行くことを寂しがり、ディアンに一緒に行って欲しいと訴えた。


というわけで、ディアンもやっぱり湖の底の部屋に行き続けることに。


まぁ、行った方が、ぬいぐるみたちと話もできる。


ちなみに、ぬいぐるみたちに湖の底の船について聞いてみた結果だが、ぬいぐるみにとっても偶然見つけたものなので、あれは何とか全く知らないそうだ。


***


さて、いよいよ陸の船スピード大会の日が来た。


本当に大勢の人が集まった。初めての企画なので、皆が興味を持ってくれたのだ。

地上に降りている人も多いが、空の船から見ている人たちもたくさんいる。


「ルルド様ー!!」

ルルドは、女の子たちの黄色い声援を受けていた。

笑顔で手を振ると、キャー、と歓声が上がる。


すごく幸せ。

じぃん、とルルドは感動した。


加えて、ルルドのファンには、ご老人や小さい子もたくさんいる。

「るるどくーん!」

親が慌てて、「ルルド=アドミリード様でしょ」と言葉を直そうとしている。

ごめんなさい、「るるどくんで良いよ」って、僕が言ってしまいました。


そして。ルルドに向けて、大人のお客様の一人が握手を求めてきた。

自分で調整した陸の船を持って来ていて、ルルドと本気の勝負がしたい、と願い出てきた一人だ。本気の遊びだ。

今から、この人と競争だ。


ちなみに、ルルドと競争したい人ばかりで、今日のルルドは連戦になる。言っても10人なので、大丈夫だけど。

ディアンはサポートしてくれている。船の調子が悪くなってないか、とか見てくれる。


***


勝利。

ルルド様ー! と歓声が上がる。


勝利。勝利。勝利。勝利。


歓声がその度に上がる。ルルド、ルルド、と連呼している。


10人。

全てルルドは勝った。


歓声がもう溢れておさまらない。

なんて良い日なんだろう。


このお祭り気分を是非、ずっとサポートにまわっているディアンにも。

ルルドは話しかけた。

「ディアンくん、最後、一緒に競争しない?」


今日、ディアンは一度も競争に出ていない。

だけど、ディアンは少し迷う様子だ。


「ディアンくんは今日のお客様よりずっと上手いし、お客様も見ごたえあって楽しいと思うよ」

「そう、かな」


「嫌なら無理にとは言わないけど、せっかくのお祭りなんだから、ディアンくんも楽しもうよ!」

「・・・うん」

あれ? なんだか控えめだ。

と思ったけれど、準備のためにディアンは離れて行ったので、やるという事だ。


父が作ってくれた声を大きくする道具で、ルルドとディアンで競争する、と皆に告げる。

ワァッとまた歓声が上がった。


船を出してきたディアンと相談して、今日使わなかった難しい、グネグネして坂道があるコースで競争する事にした。


審判は、いつもの黄色いインコのぬいぐるみ。


船に乗り込む。旗の合図を待つ。


スタート!


***


コースが複雑なので、追いつかれ追い抜かされ、追いつき追い越しを繰り返した。

後で父たちに、見ごたえがあったと褒めてもらった。


どっちが勝ってもおかしくなかったけれど、ルルドの方が先にゴールした。

ワァッと歓声があがる。


「ルルド様素敵―!」

という歓声に顔がにやけそうになったが、船から降りてきたディアンの様子に驚いて真顔になる。

ディアンが、俯いて悔しそうだ。


「大丈夫か」

駆け寄ると、ディアンは視線を逸らせた。

「どうしたんだよ。船、壊れてた? 何かあったのか?」

心配して尋ねるルルドにディアンは次に困ったようになってから、ポツリと呟いた。


「負けちゃった。ルルドくんに勝てないよ・・・」

「・・・」


いつもと違う。

ルルドは心配になった。そして真面目に言った。

「ディアンくんは僕の3つ年下だからだよ。ディアンくん運転上手いよ。同じ年の僕だったら絶対負けてる」

「・・・でも、ずっとルルドくんに勝てない」

ディアンは泣きそうだ。


不思議だ、とルルドは思った。

どうして、ディアンには分からないのだろう。

ディアンは必ずどこかの時点でルルドを超える。間違いなく。

そのことをどう言ったら良いだろう。


「・・・僕の方は、ディアンくんは凄いって分かるからさ。僕を追い抜かして色んなところにいっても友達でいて欲しいって思ってる」

ルルドの言葉に、ディアンはキョトンとした。


「ディアンくんは、自分が凄い事が分かってないよ。いつか俺は負けちゃうんだ。今は勝たせてよ」


ディアンが不思議そうに瞬いた。泣きそうな気配は消えていた。


「僕、ルルドくんに勝てるの?」

「そうだよ、多分」

「こんなに、色んなことができて凄いのに?」

あ、褒めてくれている。


でもさ。違うんだよなぁ、とルルドは思う。

「今だけだと思うよ。ディアンくんが僕を追い抜かしてどんどん先に行っちゃっても、僕とは友達、親友でいて欲しいと思ってる」

伝え方が分からなくなったので、ルルドはそう言った。


ディアンはまだ驚いている。

それから、コクリと頷いた。

「ルルドくんがすごくても、僕とずっと親友でいて欲しい」

「うん。僕もディアンくんの親友でいたい。これからも親友でよろしく」

手を差し出すと、握手になった。


会話は聞こえていないはずだけど、そんな二人の様子また大きな歓声が上がった。


***


陸の船スピード大会は大成功だった。

お店の注文的にも大成功だったらしい。

それから、動かないぬいぐるみも売れたらしい。小さな子どもやご婦人が来ていたからだ。


さて、手が回らないのが大変だ、と父たちが困っていて、ルルドとディアンは、

「船の改良にも役立つから、店の道具作りを手伝ってくれないか」

と真面目に頼まれた。


「うん。良いよ」

と答えた。

船の改良に使えるなら嬉しいし楽しい。

それに、魔法の練習にもなるらしい。


しかし、結果として、船の競争の時間を削らざるを得なくなった。その代わりに、他の競争も積極的に楽しみつつ過ごす事にした。どちらが早く食べられるかとか、重いものを持てるかとか。


そんな毎日になったけど、いろんな人と話せるのは楽しい。

店の手伝いも、結局、陸の船の改良に役立つのでやりがいがある。


そして、相変わらずルルドの人気が高い。競争で一番になったからだろう。

あと、ディアンは人見知りで話しづらいのかもしれない。


そのディアンが、なんだか拗ねている。


心配になってルルドが聞き出してみると、年齢差もあるので、ルルドは自分より他の人と仲良くなってしまうのでは、と、どんどん不安になってしまっているらしかった。


ルルドは驚いた。

「大丈夫だよ。ディアンくんが一緒にいて一番楽しいよ」

「本当に?」

「うん。競争も本気出せるのディアンくんだけだし。あ、大人のお客様は5人ほど本気で競争してるけど」


けれど、ディアンが涙を滲ませた。慌てたように拭った。

「だけど、クロルくんとリュイスだって、結婚するからって、もうクロルくんが旅に出る、けどさ」

「え、あぁ、うん」


ちなみにルルドの3つ年上のクロルと、ルルドの初恋相手、1つ年上のリュイスは、「まだ早すぎる!」という父親の抵抗をものともせず、結局結婚予定だ。


正直、ルルドは、兄とリュイスの話題は今でも微妙な気分になってしまう。モヤモヤする。


そして、クロルとリュイスは、まだ12歳と10歳。だから、クロルに課題が与えられた。内容は、修行の旅を3年間すること。そのクロルの出発は、もうすぐだ。


「ルルドくんも好きな子が出来たら。僕なんて置いて行かれるんだ」

泣き始めたディアンにルルドは困った。


どうやら、クロルの出発、姉リュイスの結婚予定、それで隠れて泣いているらしいリュイスの、つまりディアンの父、そしてルルドの人気、と色々重なって、ディアンは不安になっている感じである。多分。


うーん。


「あのさ、僕たちのお父様たち、親友だろ? 僕たちも親友だから大丈夫だよ。僕たちも大人になってもあんな感じだよ。お父様たちだって年齢差2歳ぐらいだろ」

「・・・」

まだディアンは悲しそうだ。


「それに、僕よりディアンくんの方が、絶対凄いから。絶対、モテるから」

「そんなこと無いよ。ルルドくんは凄くカッコいいけど、僕は全然だ」


「ディアンくんは、まだ自分の凄さが分かってないんだ。顔だってめちゃくちゃいいしさ」

「これはお母様に似たからだ・・・」


「似てて良いじゃないか。とにかく、絶対大丈夫。親友だろ」

ちょっと説得方法が分からなくなってきたので、親友、を繰り返し、安心させようと思う。


うん。とディアンは頷いた。


「親友の握手」

「うん」


握手すると、落ち着いたみたいだ。


本当に、心配しなくて良いと思うんだけど。


***


さて。兄クロドが、リュイスと結婚する条件である、3年の長旅に出て行った。


正直、恋敵である兄を、ルルドはあまり好きではない。

行ってしまえ、的な微妙な気分で見送りをした。


しかし、家の中に、兄の気配がさっぱり無いと実感してしまった時に急に心配になった。


3年も旅なんて大丈夫なんだろうか。

そう思うと無事を願うばかりである。やっぱり家族なのだ。

いたらいたでムカつくんだけど。


***


毎日が過ぎていく。


そんなある日。

夜中に、ガンガンガン、と酷く大きな音が近くでして、ルルドは飛び起きた。


見れば、黄色いインコのキイロちゃんが、ルルドが部屋に持ち込んだ船の部品を持ち、ガンガン打ち鳴らしている。


何!?


キイロちゃんはルルドが起きたのを見て取ると、ポイッと部品を投げ捨てた。

窓の方に走り、机の上に乗り、ルルドを振り返り、手をバタバタさせる。


何?

窓の外?


「あれ」

窓の傍に行く前に気が付いた。妙な明るさがある。時計を見る。夜中だ。


あれ? 音もしている。


窓の外を覗くと、湖の様子がおかしかった。

変な色に光っているし、渦巻いている。水面が下がり、きっと普段は水中にあるのだろう、湖の中に道がある。道の先、水が建物のように盛り上がっている。


キイロちゃんが机の上のペンを取り上げて、一生懸命文字を書こうとしていた。

動かしやすいように、ペンの上部を持ってあげると、ペン先が動かされて文字ができる。


“泥棒、来た。ディアン、行った、助けてって”


「えっ!?」


“皆を呼んで欲しい”


「お父様達に助けを求めろってこと!? ディアンくん、湖!?」


キイロちゃんがうなずく。

キイロちゃんを脇に抱え、ルルドは走り出した。


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