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船に夢を詰める

ルルドとディアンで相談して、父たちに一生懸命に説明して説得し、購入して貰えた船が来たのは、2ヵ月後。

ルルドとディアンは、待望の船に喜びまくった。


ただ、ディアンの母が出産間近で、新しい船を乗り回すのはもうちょっと待って、と父たちから言われてしまった。

新しく買った船だから、父たちも同乗し、本当にルルドたちだけで大丈夫か確認したいからだ。


やっと来たのに、と不満に思いつつも待つ事にした翌日の事。

ディアンに妹が生まれた。


ディアンの父により、アイシャ、と名付けられたその赤ん坊を見た時に、皆は悟るように思った。この子は絶対、美人に育つ。母親似だ。

ちなみにディアンも母似だが、ディアンは男でこれだ。母似で女だったらそれはもう美人。


ルルドには妹が2人いる。生まれた時も見た。

妹たちの時の印象と比べ、この生まれたての子は何か違う。

なんていうのかなぁ。生まれながらにしてルルドにそう思わせる存在はいる、ということだ。

そして、他の家族もそれと似たようなものを感じる様子だ。


とはいえ、どんなに美人で特別だったとしても。

ディナンが仲の良い弟分であるのと同じに、アイシャも仲の良い妹分になれるといい。


***


さて、出産で家が少しバタバタしたが、それも落ち着いた頃。

やっと、新しい船に乗って遊んで良いと許可を貰った。

父たちも数度同乗して、本当ルルドたちだけで大丈夫なのかどうか確認される。


というわけで久しぶりに、隣に父が乗っている状態で、ルルドとディアンで競争だ。


ちなみに、審判は黄色いインコのぬいぐるみ。

昔に、ルルドを慰め力づけるためだろう、滑り台を使う時に膝の上に乗ってきたぬいぐるみだ。キイロちゃん、という名前がついている。

どうやら向こうもルルドが放っておけなくなったようだが、ルルドもこのぬいぐるみが特別になった。一緒に動く事が多くなった。


「じゃあ、行くよ」

「うん!」


「3、2、1、スタート!」

二人で一緒にカウントダウンして船を走らせ始める。

ちょっと動かすだけでグンッとスピードが上がった。

凄い。

隣でルルドの父が、

「うぉっ」

と驚いて呟いている。


ルルドとディアンの船は、ほぼ同じスピードだ。

今回は、危険を減らそうという事で一直線の道に、一度Uターンを行って家まで戻るというコース。


ターンする時にルルドの方が上手かった。

その差のままに、帰路も飛ばす。


ゴール。

しばらく走らせて速度を落とし、それから広場に戻って止まる。


船を止めた途端、隣の父は真顔でルルドを向き、告げた。

「お父様は、二度と乗らない」

「えっ、もう駄目ってこと!?」

ザァッと青ざめるようになったルルドに、父は首を横に振った。


「駄目じゃない。ただ、お父様はこんなスピードの船にもう乗りたくない。きちんと見えていて操作できているのは分かった。安全装置は積んであるし。次は、家の窓から確認する」

「う、うん」

「向こうがどうするかは分からないけど」

「うん」


降りたい、という父のため、一度船から降りる事になった。

すると、同じように戻ってきたディアンたちも船から降りた。とはいえ、向こうの父は普通にしている。


「どうしました!」

ディアンの父が驚いて駆け寄ってきた。

「ごめん。私は休む。スピードについていけない。後はよろしく・・・」

「いえ、部屋までお送りします」

「ノアは子どもたちを見てて」

「この子たちなら放っておいて大丈夫でしょう。安全装置を盛り込んでいますし」

こんな会話をして、父たちはルルドたちを残し家に戻っていった。


「遊んで良いんだよね?」

「たぶん・・・」

ルルドとディアンが困って、審判役の黄色いインコのぬいぐるみを見る。

黄色いインコは、ゆっくりと頷いた。

ルルドとディアンも、ゆっくり頷いた。


よし。遊ぼう。


***


新しい船は、自分たちで好みに機能を変えられる。

到着まで2ヶ月あったので、ルルドもディアンもこの船の説明書を何度も読み込んでいる。

さっそく、自分たちの船として、それぞれ好きに変えていこう!


とはいえ、始めは確認し合って一緒にやった方が良い。

2人で、まずはディアンの船に乗り込み、中から底を開ける。


ディアンが確認のように言った。

「ここが船を少し浮かせてるところ」

「うん。合ってる」

間違いない。ルルドも頷いた。


「このレバーで、浮く高さを調節できる」

「でも低い方が速いんだよな」

これは、船の店の人に聞いて確認した情報でもある。


「うん」

「じゃあできるだけ低く。でも石コロにぶつからないような高さ」

「うん」

「あ、でもさ、ディアンくんはさっき曲がる時の速度が遅かった。ディアンくんが僕よりまだ力が弱いせいじゃないかな。ハンドルを少し軽くしたらどう?」

「うん! そうする!」


不味いほどに楽しい。時間の経過を忘れる。

ただ、一度に多く改良するのは危険で止めなさい、とお店の人からも教えて貰った。

何かを変えたら走って自分の感覚もきちんと掴みながらしてください、と。

普通の説明書の一番上にも手書きの紙がつけられていて、同じことが書いてある。お店の人からの、ルルドとディアンのための注意書きだ。ルルドとディアンに物凄く好意的で応援してくれている。


だから、とりあえず1つずつ変える。

ディアンのはハンドルを少し軽くして、ルルドのは窓を大きくした。もうちょっと空が見えた方がルルドは運転がしやすいと思ったのだ。


***


もともとルルドとディアンは一緒が多かったが、大体が競争していたので、ある意味別々でもあった。

しかし、相談して船を改良する時間ができて、話す時間が圧倒的に増えた。


だから、船とは違う事も良く話す。

まるで、互いの父たちみたい。


そんな中で、ルルドはディアンに兄貴ぶってこんな話もした。

「僕たちさ、もっとたくさんの人と会うべきなんだ」

以前、父がルルドのために言ってくれたことの受け売りだ。

「うん」

ディアンは素直にルルドの言葉を聞く。


「僕さ、14歳になったら、他の子と会うために、別の国に行くかも」

「えっ!?」

ディアンが酷く驚いた。珍しく慌てたように聞いてくる。

「それ、僕も一緒に行ける!?」


「えー・・・。分からない。ごめん」

「一人で行ったら嫌だ。僕、ルルドくんと遊ぶのが楽しいから、一緒に僕も連れて行って欲しい」

「うーん」

ルルドは唸った。

ディアンがものすごく不安そうだ。


父は、14歳の時にと言っていた。つまり、ディアンも14歳でないと行けない気がする。

ルルドとディアンは3歳の年齢差。そうなると、ディアンが行きたいと思っても、3年待たないといけない。


うーん。困ったな。

兄たちに置いてきぼりにされて嫌な思いをしてきたルルドだ。ディアンがそうなったら駄目だと思った。


悩むルルドに、焦ったようにディアンが話す。どうもルルドを説得し引き留めたい様子だ。

「たくさんの人と会うためなんだったら、他に方法は無いの? 僕、行っちゃうの嫌だよ」

「うん。分かった」


ルルドは頷いた。

ディアンは途端、ホッとした。


こんなに慕ってくれてる弟分を不安にさせてはいけないよなぁ。


「ちょっと考えとく」

とルルドは言った。


父に相談しよう。


***


そんなある日、ディアンが気づいた。

いつもの競争場所にて、ルルドを見やり、

「お客様が、家から僕たちを見てるよ」

と言う。


見れば、確かに。

父たちの商品を買いに来てくれている貴族の人たちだ。


ルルドとディアンで、ぶんぶん、と両手を振った。

向こうも振り返してくる。


「小さい子がいる。髪が長いから女の子だよ、きっと」

「本当だ! 僕たちを見てる!」

「うん」


ルルドの気分が上昇した。思いっきり手を振る。

そして、思い出した。

「僕たちが競争して遊んでいるのが、ちょっと話題になってるんだって。お父様が言ってた。買い物に来て、僕たちが競争してたらちょっと見学してるんだって」

「そうなんだ?」


「これ、僕たちが競争するの、待ってるかもしれない」

「そう、かな。じゃあ、始める?」


「改良はまだだろ?」

「うん。まだだから、前のままだよ」


「僕もだ。じゃあ、すぐ競争を見せようよ。楽しみに来た人かもしれないし」

「うん」

ルルドの提案にディアンは頷く。


「今から競争しまーす!」

多分届く事は無いと思うけれど、家の中、自分たちを見ている人たちに大きく手を振って宣言してから、それぞれの船に向かう。


「キイロちゃん、トピィ、審判お願いしていいかな?」

黄色いインコのぬいぐるみと、真っ白いトラのぬいぐるみが頷いたり手を動かす。


なお、真っ白いトラのトピィの方は、また湖の底に行くようになったディアンと仲が良い。

キイロちゃんはスピードが苦手らしいが、トピィはスピードを楽しめる性格らしく、ディアンと一緒に船に乗ることもある。


「真っ直ぐ行って、1番の大岩でターンして、また戻ってくるコースで良いよね」

「うん」


慣れたように自分の船に乗り込む。改良前なので、状態は前と同じで変わりない。

そのことをサッと確認して、船を動かして隣に並ぶ。

黄色いインコと真っ白いトラが立っている場所が、スタートライン。


審判慣れした黄色いインコが、旗をゆらめかせてから、バサッと大きく振り上げた。

スタート!


***


ルルドが勝った。

やっぱり、3歳年上というのは大きいのかも。それに、大人用の船だから、きっとディアンにはまだ色んなパーツが大きすぎて使いづらいのだ。


ディアンへのアドバイスに、部品を小さいものに変える事を提案しよう。

そんな事を思いつつ船から降りると、パチパチパチ、と音がした。


振り向けば、1階の窓が開けられて、お客様と女の子がルルドたちに拍手をおくってくれている。

「素晴らしい! 面白かったよ!」

「すごかったです」


ルルドとディアンで驚いて顔を見合わせてから、嬉しくて笑った。

「ありがとうございます!」


「ルルドくん、ディアン。戻っておいで。一緒にお茶をしようとおっしゃっている」

ディアンの父が声を張り上げ、ルルドたちを呼んだ。


また顔を見合わせてから頷き、それぞれのぬいぐるみを小脇に抱えて家に向かって走り出した。


***


一生懸命遊んでいた上での競争だったので汗だくだったが、お客様は気にせず、むしろ、

「良いね」

と機嫌よく褒めてくれた。


ルルドは、キッシュ=イリージウムと名乗った女の子に、満開の笑顔で褒めてもらった。

「あなた、とっても凄いわ。格好いいのね!」

「あ、ありがとう、ございます」

ルルドは嬉しくて少し言葉がもつれたが、御礼を言えた。


次に女の子はディアンを向いた。

「あなたも小さいのに凄かったわ」

「ありがとうございます」

ディアンは控えめに礼を言う。人見知りだ。


この女の子はルルドの方が気に入ったらしい。

「また勝負を見せてね! 応援していますから!」


そう言いながら、親と一緒に帰って行った。

空に昇っていく船を、両手を振って見送りながら、これだ、とルルドは気づいた。


これだ。

女の子たちに、ここに来てもらえば良いんだ。

今みたいに。

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