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競争の毎日

今日も陸の船で競争だ。

あまりにもルルドが熱心で操作に慣れて上手いので、父たちの同乗なく一人で動かして良いと許可を貰った。

一方、一緒に練習中のディアンがその会話を聞いて、少し羨ましそうな顔に見える。

とはいえディアンは大人しい。

ルルドなら、泣いて自分もと訴えてきたのに、ディアンは素直に受け入れてしまうみたいだ。


「お父様、僕さ、ディアンくんもうまいと思うよ。僕を抜かしたりするしさ」

とルルドは父親に打ち明けるように言った。

「僕が一人で良いなら、ディアンくんも一人で大丈夫だと思う」


「まぁ、そうかもしれない」

父もルルドの言葉を素直に認めた。

ディアンはまだ練習を始めて3ヶ月ほど。なのに、ルルドと同程度に上手い。

人間としての出来が違うんだろうなと、ルルドはなんだか思ってしまう。


一方、そんな会話を聞いたディアンは目を丸くし、無言のまま驚いている。

ディアンは傍にいる自分の父を見上げた。


「・・・ルルドくんが構わないならだが。ディアン、一人で乗れるか? お父様と一緒が良かったら今までどおりが良い。ただ、大丈夫だと自分で思うなら、無茶はしない約束で、一人で良いかもしれないな」

ディアンの父が少し考えるように告げる。

「良いの?」

とディアン。


「ディアンくん大丈夫だよ。僕を追い抜かしたりするだろ。上手いしさ」

「僕が一人で乗れたら、ルルドくん、嬉しい?」

とディアンは聞いてきた。


「うん。そしたら、一緒に一人で楽しいだろ、きっと!」

「うん!」

ディアンが目を輝かせる。

ルルドも楽しみだったりする。絶対、自分たちの好きに運転した方が面白い。


「じゃあ、ディアンも一人で良い。ただ、無茶しないかは心配だが」

とディアンの父が眉をしかめた。

「ルルド。ディアンくんのお兄さんとしても、危険な遊びに誘ったり絶対にしないように。限界に挑戦とかしないでよ。迷子も事故も駄目だぞ。そのためにも一人で乗る時のルールを決めよう。それで良い?」

「うん!」

「うん!」

ルルドが喜んで頷くと、ディアンも同じに喜んで頷く。


ルルドが、やったな、と手を上げると、まだ背の低いディアンがジャンプして手をパシンと合わせてくる。ルルドとディアンでよくやる動きだ。


「ルルドくんがいて良かったな、ディアン」

「うん」

「ルルドも、ディアンくんがいて良かったな」

「うん!」


ニコニコしつつ、ルルドは尋ねた。

「一人で乗れるようになったら、次は空の船を教えてくれる?」

「うーん。どうしようかな。もっと大きな陸の船か、湖の船か、という選択もあるんだよね」

父が考えている。


「空の船が良いよ!」

とルルドは主張した。

「空の船は、行ける範囲が一気に広くなっちゃうからなぁ。風とか色々考えないといけないし。もうちょっと先の方が安心だ。落ちたら死ぬことだってある。そう思うと、湖の船の方が安心だ。湖は案外簡単なんだよね」

「ふぅん」

「空はもう少し待って。お父様たちも、可愛い息子が危ないことするのは心配だから。小さい時はできなくても大きくなったら出来る事って結構あるから。だからもう少しルルドが大きくなってから空は教えたい」

「ふぅん・・・。分かった」


父に丁寧に言われると、ルルドは納得できる。

ルルドのために考えてくれているんだ、と思うからだ。

とはいえ、ぬいぐるみのクマに教えて貰って、多分空も大丈夫だとは思う。言わないけど。


「あの、ルルド。試しに聞くけど、例えばルルドは湖の船をして、先にディアンくんが空とかしたら怒る?」

「えっ、なんで!?」

「試しに聞いてみているだけ。ルルドは、ディアンくんも一人で陸の船を乗っても良いっていうからさ。どこまでならルルドは、ディアンくんが『待たずに練習できる』のを、良いって言うのかなって思ったんだ」


ルルドは、チラリとディアンを見た。

ディアンはルルドの事を心配しているような気がする。あと、ディアン自身は多分、そんな事は全く考えても無いだろう。


一緒に始めるのは良いけど、先にされるのは嫌だな、とルルドは思う。


「できれば一緒に始めたいけど」

とルルドは言った。


ただ、ディアンは凄い、とルルドは思っている。


なんというか。船に性能があるように、人間にもあるのじゃないかと、ディアンといると思うのだ。

多分ディアンは、自分の行けないところに行ける人だ。

これが兄相手なら悔しくて仕方ないが、ディアン相手なら素直に思ってしまえる。


「ディアンくんは、僕を待っていたら中々進めないからさ。先にやるのは仕方ないと思う」


ディアンの父が驚いた。

寛容かんようだな、ルルドくんは」

「寛容って?」

「心が広いって意味だ。なかなか、8歳ですごい」

とディアンと会話している。

つまり褒めてもらっている。そんな会話にルルドは少し誇らしくなった。


一方、ルルドの父が、ルルドの頭を撫でた。

「ルルドは、お父様とお母様の自慢だな。それにお父様には、ルルドの気持ちもすごく分かる。ルルド、見て。お父様はとても幸せで、立派にお仕事もしているだろう」

父が話しかけてくる。

「ルルドも、思ったことをやってごらん。お父様も周りに反対されたけど新しいことを始めた。お父様はルルドの強い味方でいたい。だけど、もしお父様が反対することがあっても、やりたい事ならやると良い。お父様がそうやって今のとても幸せな暮らしを掴んだからだ」

「・・・うん!」


***


ルルドとディアンは、一人で陸の船を運転しても良くなった。

始めは親の誰かが様子を見ていたが、そのうち大丈夫と判断され、自由に遊んでよくなった。


自由度の増した競争はとても楽しい。

そして、船選びの重要さに気づいたところ。


「船の出来が違うから、どっちがちゃんと良い運転だったか、分かりづらいと思わないか」

とルルドは言った。


毎日、自由な時間はこれで遊んでいるので、どの船が良いか分かっている。

良い船を獲得するために、毎日他の競争をして、勝った方が先に船を選ぶ事にした。


でも、それって船の性能の違いでもう勝敗が決まっている。


「同じ船が2つあると良いのにね」

とディアンが言った。

「良いね。お父様たちに買ってもらおう」

「うん」


というわけで、早速、父たちに直談判にいこう。


***


仕事場には勝手に来てはいけない、と言われている。秘密が一杯だし、色んな物が置いてある。

というわけで、ぬいぐるみに伝令を頼む。手紙を書いて、持って行ってもらうのだ。


反応を今か今かと待っていたら、黄色のインコのぬいぐるみがパタパタと羽を動かしつつ戻ってきた。紙切れを持っている。


『良いよ。希望を聞こう。部屋に来て』


「やった!」

「すぐ行こうよ!」


大喜びで駆けて行くと、部屋にはルルドの父だけがいた。忙しくて、ディアンの父は仕事中。


そんな説明に、時間を惜しみ、急いで、今の競争についての不満を訴える。

だから、性能が同じ船が2つ欲しい! 買って!


すると、父は真顔で頷いた。

「良いよ。丁度、船を売る商売をしている人からの注文がたくさん来てて、こっちも何か買った方が良い気がしてた。タイミングの良さが恐ろしいぐらいだ」


父は机の上の本を引き寄せて、パラパラとめくってから、ルルドたちに渡した。

「昨日届いたところ。取り扱っている船の一覧だってさ。見てこれ。『ご子息たちが、各自の船を持つのもオススメです!』だって」


「僕たちの練習を、お客さんが見たのかも」

とディアンが言った。

「あ、そうか。そうだな」

と父が、頷いた。


「毎日競争してるもんな」

「空の船から見えると思う」

ルルドとディアンの会話に、父はうんうん、と頷いた。

「さすが、商売ってそういうところが上手い人が勝つんだよね。ってことで、値段によるけど、それで欲しいのを選んでご覧」


「やった! ありがとう、お父様!」

「先に言っておくけれど、私だけではなく、ディアンくんのお父さんにも説明が必要だからね。2人で同じ船を2つだろう? 2人で協力して、どうしてその船を買いたいのか、何が他より良いのか、とか、私たちを納得させるように説明するんだよ」

「えーっ」

「それぐらいは必要だ。結構な金額なんだから。アピールの練習だから頑張れ。お父様たちを納得させられたら、お母様たちへは、お父様たちが話してあげるからさ」


***


早速、5階のルルドの部屋にディアンも招いて、二人で本を覗き込む。

とはいえ、本の大半は空の船。


ルルドは絵を見ながらぼやいた。

「空の船、早く練習したいなぁ」

「うん」


「あ、でも、ディアンくん、ぬいぐるみのクマに頼んだら、こっそり教えて貰えるんだ。今のうちに教えて貰っちゃえば?」

「その方が良いの?」


「空の船だから絶対良いって。ドルノが5歳になって、ドルノも湖の底に行くようになったら、こっそり教えて貰うのは無理だよ。今だけだ、チャンス」

ルルドは自分の事のように勧めた。

ルルドが行けないのでディアンも行っていないが、今はディアンだけが湖の底に行ける。


「じゃあ、うん・・・。ルルドくんがそう言うなら、教えて貰ってくる」

「うん! 絶対面白いから」


ルルドの熱意ある勧めに頷いたディアンは、船が載っている本に視線をうつし、

「ちょっといい?」

と手に取って、ページをめくりだした。


「どうしたんだ?」

「うん。ちょっと待ってね」


物凄い速さで本をめくったディアンは最後までいった後、またテーブルに置き、2人で見ていた状態にページを開き直してから、言った。

「水の底から空にいける船って、売ってないんだね」

「ん?」

首を傾げたルルドに対して、ディアンは説明を始めた。


「ここまでが、空の船。全部空を飛ぶ船」

「うん」

空を飛んで当たり前だ。


「ここから陸の船」

「うん」

ちなみに、薄っぺらい。ここからルルドたちは欲しい船を選ぶことになる。


「ここから、湖の船。ここも、不思議なんだよ。あのね」

ディアンが、陸の船ほどの薄さの部分を、めくり始める。

「これ、全部、湖の上に浮かぶ船なんだよ」

「へぇ」


「湖の底の部屋の船って、湖の底から行って、空まで飛ぶよ?」

「そうだな」

「売ってないみたい」

真顔で説明して来るディアンの整った顔立ちをじっと見てから、ルルドは頷いた。

「そうなんだな」


ルルドには、このちょっとの時間で本の全てを読めない。

だけどまぁ、そうなんだろう。


その上で、ルルドは首を傾げた。

「じゃあ、ものすごい船って事だ」

「うん。僕、それもぬいぐるみたちに聞いてくる」

「うん、頼んだ」

「うん」

ルルドが頼むと、ディアンは嬉しそうに笑う。


それから、二人で陸の船を選びにかかった。


***


「スピードが出るやつ! 早いやつ!」

「あまり大きいとお父様たちがお金が大変だから、小さいのが良いと思う」

「これ! あっ、これ、子どもに良いって、これならすぐ買ってくれるよ!」

「僕たちすぐ身体が大きくなるから、大人サイズで良いんじゃないかなぁ」

「そうかな?」

「これはどう? 速くて、自分で色々調整しやすいって書いてある」

「良いな! ぴったりだ!」


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