話をしよう
さて。
クライスとムロイたちに礼を告げて別れ、ルルドたちは一旦自分たちの船に戻った。
そして、よく話合った。
お互い連絡を取ろうとしたのに、アイシャの虹色トンボの妨害で繋がらなかった。
ルルドが睨んだ覚えは無いけど、アイシャにはそう見えた。
ルルドは近寄って来なくなった。アイシャからはとても向こうにいけない状態だった。
目が合った時に泣きそうになって逃げたのは、もうすっかり嫌われていると思っていたから、ハッキリそう言われると思うと辛くて無理だった。
そこは頑張ってほしかったけど、どうも周りがアイシャにルルドの事を色々吹き込んで、連絡もできないしアイシャもそう思うようになってしまったらしい。
何がどう悪かったのか自分たちでも分からないと思ったけど、お互いごめんなさい、と謝り合った。
それから、笑った。
良かった。誤解のままにならなくて。お互いに失恋したままにならなくて。
なんだ。両想いだ。
「もう本当に大事にするから。魔法も僕が使うし、行きたい場所には連れて行くし、もう良いよねって僕が結局一回しか行かなかった湖の底の部屋も何度だって付き合います」
とルルドはアイシャの両手を握りしめて宣言した。
「嬉しい、大好き、大好き、ずっと傍にいてね。嫌いにならないでね」
とアイシャが笑いながらどこか心配そうにルルドの顔を覗き込む。
「嫌いにならないと思う。僕が頑張る方だと思う」
「嘘! 今まで相手にしてくれてなかったもの」
アイシャの方がルルドの気持ちを信じてくれないようだ。
仕方ない。
でもこれから時間はちゃんとある。
「8歳差は埋められないけど、埋められるようにいつも話をしていこうよ」
「うん・・・」
「今更ながらだけど、あの国王陛下より僕の方が好きなんだ」
「うん」
アイシャがルルドを見つめつつモジモジしている。可愛い。
アイシャは趣味が変わっているんじゃないだろうか。
それでルルドは嬉しいけど。
あ、あの国王、顔は良いけど頼りなさそうだった。
アイシャは中身を見てくれているのか。有難い。
「あのさ。これからだけど。どうする。学校、もう行きづらくなったぞ」
「トンボ、私もルルドくんもいなくなっちゃったわ」
トンボは途中でいなくなっても学校にはいけるはずだ。
だけど、トンボがいなければやる意味が無い勉強ばかりだ。
「アイシャちゃん、せっかく頑張ってたのにな。ごめんね」
「ううん」
とはいえやはり残念そうだ。
「・・・一番うれしい魔法って何だった? 僕とのことは置いておいてさ」
「きれいなお花を出す魔法。キラキラして、皆も見て喜んでくれるもの」
なるほど。確かにあれは凄いと思った。
「じゃあ、約束する。何年もかかるかもだけど、アイシャちゃんが使えるような、またきれいな花を空中に出せる、魔法の道具を作ってあげる。いや、一緒に作ろう。僕もあの理屈がよく分かって無いしさ」
「え、うん! ・・・でも私も魔法の理屈は分からないわ。こんな魔法を使って欲しいって、トンボにしっかりお願いするだけだもの」
「そっか。そうだね」
ルルドは苦笑したが、アイシャは嬉しそうだ。
「大好き、ルルドくん。大好き」
「ありがとう。良かった。嬉しいよ」
「・・・でも。あのね、学校を途中でやめるのは仕方ないけど、皆にお別れの挨拶をしたいわ」
とアイシャが悲しそうに言った。
ルルドも頷きつつ、正直なところを言った。
「そうだね。ただ、僕、捕まらないか心配だ。事件を起こしたわけだし」
二人で無言で見つめ合い、そもそも、自分たちを学校に紹介してくれた人に話を通しておかなければ不味い、という事にも思い至った。
***
結局、ルルドにはお咎めが無かった。驚いた。
『想い合っている恋人に国王が横恋慕して、権力にものを言わせて奪おうとした』という悪評が出ていて、大勢がルルドとアイシャの事を美談にしてしまっている影響もあるのかもしれない。
一方、奪われた虹色トンボを奪い返した、という大金持ちの娘が現れた。
その娘は、あっという間に傷心の王様を慰め、王様と婚約した。
驚くほどにトンボの影響力が強い国だ。
トンボさえ凄かったら惚れるのか?
ちなみに他の国は、トンボがいるからこそ育つ草で作られる布が欲しくて、その結果、トンボを大事にする人たちを大事に、つまり、外から見ると不思議なこの国を見守っているそうだ。
さて、そんなこの国から、アイシャに見事な大量の布が贈られた。
実はこの国は、アイシャの花嫁衣裳のために名物の布を大量に買い込んでいた。一部はすでに縫い込まれている。
しかし、アイシャのために購入したものを、次の娘に使うのは許されない。ということで、お詫びとしてアイシャに全て贈られる事になった。
アイシャは慰謝料としてそれらを全部受け取った。
アイシャも怒っていたからだ。
アイシャは婚約を断ってきたのに、無視され続けたという。
トンボが凄すぎて、王様のお妃様に相応しすぎて、誰も破談を認めなかったようだ。
船に大量に積まれた布は、確かにとても見事だ。手触りがとてもよくて、見る角度によって色を変える。
布について詳しくないルルドが見ても珍しい貴重な品物だと分かるほど。
「何に使うの?」
とルルドは聞いてみた。
ちなみに正直、布は見事だけど、これは王様の花嫁衣裳としてアイシャに用意されたものだ、という事情を知ってしまっているので、なんだか微妙な気分になる。そのうち忘れるかもだけどさ。
聞かれたアイシャは、ルルドのちょっと困った様子に気づいたのかどうか、やはり不満そうな顔をした。
「すごく邪魔ね。ごめんなさい、ルルドくん。綺麗な布だから貰っちゃったけど、なんだか」
アイシャは、ドレスとして縫われ始めていた布を見つめた。
「すごく嫌な気分。売ってもいい?」
「え。売るの。せっかくもらったのに」
「売ってもいい?」
「うん。アイシャちゃんが良いなら」
「売って、他のもの買いましょ? 何か良いもの」
「うん」
と、揺るぎないアイシャの意思で売る事になった。
でもどう売れば良いだろう。
家に連絡した結果、ルルドたちの兄と姉である、クロルとリュイス夫婦に売りさばいてもらおうという話になった。
兄夫婦は、父の作った道具を外国で売る手段を持っていて、任せておけば良い値段で売ってくれるだろうという判断だ。
確かに。ルルドは兄クロルに対して嫌な思いしかないが、アイシャと恋人になれたからか、商売の手腕については認められる。
ルルドだって船の商売を成功させていると思うけれど、ルルドは所詮、自分自身の技術を、理解のある同志相手に使って商売にしているだけだ。
一方のクロルたちは、自分自身が作ってはいないものでも、見知らぬ人たちに上手く売る事ができるのだ。それはクロルたちの才能だ。
ところで、アイシャが、家族にも王様との婚約について連絡していなかった理由だが。
冷静に考えてみれば、アイシャには家族との連絡手段が無かったのだ。
手紙は送れたはずだ。
けれどスマホのような連絡手段は無い。
アイシャが唯一持っていたのは、ルルドとだけ話せるスマホ。
普通なら、家族と話したい時に、家とのスマホを、ルルドとアイシャで貸しあえば良かった。
だけどルルドと連絡が出来なくなったことで家とのスマホの貸し借りもできなくなり、アイシャは家族とも連絡できなくなった。
手紙という手段は、嘘か本当か、アイシャのトンボにはできない魔法だと言われたそうだ。
アイシャはまだ手紙の出し方を知らなかった。
困って相談した友人たちには、手紙についての答えは貰えず、代わりに、ルルドがアイシャを大嫌いだって言っていた、と嘘を吹き込まれた。
なぜそんな事を吹き込んだのかルルドには分からない。
単純に、落ちこぼれルルドが優秀なアイシャに相応しくないと思っての事かもしれない、とは考える。
とにかく、アイシャも色々辛かったそうだ。
特に、ルルドに嫌われて愛想を尽かされたと思っていたから。
パレードの時に来てくれて、本当に良かったとアイシャは笑い、ルルドも、本当に良かったとアイシャの笑顔を見て心から思った。
さて。
連絡をとり、ルルドたちを紹介してくれた人に、詫びと事情、途中だけど学校を終わる、という事を伝えることができた。
わざわざ会いにきてくれたその人に、何か得るものはあったか、と聞かれた。
二人とも、はい、と答える。
アイシャが、
「お友達が出来て、魔法がちょっと使える気分が分かって、ルルドくんが好きだと言ってくれるようになった」
と言うのでルルドはちょっと照れた。
「僕は、あれですね、酒って偉大だなって。知らない人が仲良くなれるんですから」
相手は楽しそうに笑い声を上げた。
「あと、恋人ができました。ありがとうございます」
「そりゃよかったよ」
***
その2日後。
ルルドとアイシャは学校に改めて行った。皆に別れの挨拶をしたい。
ルルドは、同じ場所の5人に再会し、挨拶をした。
皆が、自分よりできないルルドがいなくなることを心から惜しんだ。
その惜しみ方はどうなんだ。まぁ良いけど。
「あのさ、今日、午後、学校をさぼって僕の見送りに来ない?」
ルルドは悪い誘いを5人にした。
えっ、と皆驚いている。
「この国で一番落ちこぼれの僕だけど、僕が大好きで仕事にまでしてて、皆から凄いって言われるものがあるんだ。見せたくて。来てくれる?」
「・・・うん!」
5人それぞれが期待に顔を明るくして、学校をさぼる事を約束した。
ルルドは悪い大人である。
でも、仲良くなったからこそ、違う場所のものを見て欲しい。
それから次に、アイシャの友達に近づくため、アイシャがルルドと並んで壇上に向かおうとした。
しかし一段登った時に、先生に怒られた。授業中ではないが、いつもの壇上の席にいる。
「トンボを連れてもいないのに、登ってくるなんて!」
「おぉ」
ルルドはむしろ感心した。ぶれないな。アイシャをあれほど可愛がっていたのにさ。
一方のアイシャは酷くショックを受けている。当然だ。
「大丈夫。僕がついているから。良いじゃないか、もうどうせ一足先に卒業なんだしさ、近づかないと話ができないよ」
「うん、でも・・・」
「僕がアイシャちゃんのトンボだ。行こう。なんなら抱えて行ってあげる」
「え、それは」
驚いているのを抱き上げた。
そうでなければ、背の高い椅子に座っている人たちとの距離だってありすぎる。ルルドは背が高いけれど、それでも上に座っている人たちを見上げなければならないのに。
「来てはいけません!」
怒る先生に、ルルドは自分の魔法で灯りをともした。
「灯りの魔法。それから、水の魔法。音楽の魔法。えーと、なんだっけ、風、雨、草の香り」




