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決意と決行

結構マズイ計画だ、と、気づいたのは、帰宅して眠る直前だった。

しかし酒をたくさん飲んで騒いだ疲れによる眠気に抗えず、気づいただけで寝た。


翌朝、頭がガンガンした。飲み過ぎたらしい。またはルルドに合わない酒があった。

とりあえず無理だ。

よろよろと水分補給はして、船の中でじっとしていた。勿論学校は休んだ。


その翌日、やっと学校に行ったルルドを、同じ部屋にいる5人が物凄く心配していた。

思い返せば、ルルドは前々日、午後ちょっとだけ眼鏡をかけて現れ、体調が悪い、と帰ってしまった。その翌日は一日休み。

皆をとても心配させてしまったらしい。


その日、大人しく授業を受けた。


結局、ルルドは、酒場で建てた無茶苦茶な計画に縋っていた。

王様のパレードに参加するアイシャの元に行って、会話を試みる、という計画に。


なぜなら、ルルドには他に打つ手が無い。

学校で過ごすと、よりその思いは強くなる。アイシャと接触のしようがない。


とはいえ、パレードに乱入だ。冷静に考えれば非常に不味い。馬鹿のすることで、やるべきじゃない。

捕まって牢屋にいれられる。


ただ、ルルドはこの国の人間では無く、自分自身が魔力を持つ。そのような場合、国外追放になるだけだという。これは酒場の何人もが断言している。


それなら、ルルドはアイシャと話すことを選びたい。

この国に二度と来れなくても良い。


本当に、アイシャが国王を選んで、結婚するというなら。仕方ない。失恋だ。確定だ。


だけど、アイシャは親にもその話を伝えていない。

ルルドにも、アイシャに話を聞いて、家族に説明する責任があるし、アイシャ自らが家族に説明するように指摘しなければならないと思う。


とはいえ、明日の一度だけが、話せる機会になる予感がしていた。


だからこそ、言いたいと思う。

話せない状況になって、遠くから見て。アイシャの魅力に気づいて、好きになったと。

もう一度考えて欲しいと。


勇者ムロイの言う通り、玉砕覚悟で。


年齢とか、自分は冴えないしとか。

そんな説明必要ない。だってアイシャ自身が気づくから。


ルルドは、きっと短い時間に伝えなければならない。言いたいことを。要点を。


ルルドは黙っていても良い側じゃない、言わなければ振り向いてもらえない側だ。

だからこそ、話しかけなければ。

自分から行かないと。


一方、まだ完全に望みは捨てていない。だから行動できるのだ。


妹ドルノの事や、アイシャの父の事がルルドを力づけていた。


ドルノだって、ディアンと両想いになった。冷静に考えれば、釣り合わないはずなのに。


アイシャの父も、別格と思わせるアイシャの母と結婚できた。むしろアイシャの母の方から迫られたと言っていた。


奇跡だ、と言った。ルルドは。

だけどそれでも、事実として、ドルノも、アイシャの父も、相手と両想い。幸せになっている。


だからといってルルドも同じ、なんて甘い事は思わないけど、期待はできる。

自分にも奇跡が起こるんじゃないか。


今のままでは絶対に奇跡は起きない。


そして、もしやっぱりはっきり断られたら。まぁその可能性の方が高いけど。

いさぎよく、ルルドはいなくならなければならない。


ルルドは思いを自分の中で確認しながら、授業でのアイシャを見つめていた。

難しい事ができて嬉しそうに笑ったのも、他の人に必要以上に褒め称えられてちょっと困っている様子も。


年齢を理由にアイシャを断っていたのに、今では年齢なんて関係なく好きになってしまっていると思った。

甘えるだけじゃなくて、他の人のために考えて怒って主張して、周りを変えるぐらい頑張れる子。

そして、すごく可愛い。見た目と仕草も。声もか。笑顔が可愛い。


アイシャは13歳で、ルルドは22歳。

年齢差はいつまでも変わらない。辛い。仕方ない。


好きになったら、失恋するか、頑張るかの2択だ。


大丈夫、失恋しても、自分ならまた戻れるって分かっている。

失恋ばっかりしてるからさ。


***


翌日。学校は午前だけ。昼からパレードがあると先生が告げた。

アイシャは休みだ。


ルルドは、同じ部屋の5人から、一緒に見に行こう、と誘ってもらったが丁寧に断った。

自分はこれから騒ぎを起こしに行くのである。


そう考えれば、もうこの5人には会えない。

ルルドは思い至って、丁寧にいままでのお礼も伝えた。


「僕、隣の国から来て本当に分かっていない事ばかりだった。きみたちがいてくれて良かった。とても親切に優しくしてくれてありがとう」

ルルドの言葉に、少年少女が少し不思議そうだ。


「僕の国は、トンボとかいなくてさ。だから、その、僕だから言いたいんだけど、トンボがすごくなくても、きみたちはたくさん良いところあるよ。僕に優しくしてくれたところ含めてだ。あのさ、トンボがいなくても、僕にもきみたちにも、出来ることも面白いことも楽しいことも、たくさんあると思うんだ。つまり、ここだけが世界じゃないから、トンボだけに目を向けなくて良いと、僕はほかの国から来たから、思うんだ」

「うん・・・」


「もし来て良いなら、隣のドルド国にも来て欲しいな。きみたちなら喜んで案内する。手紙をくれたらちゃんと返事するから」

「うん」


みんな、元気でね。

と、ルルドは皆と別れた。


***


指定の場所に向かう。

美人勇者クライスとイケメン勇者ムロイと合流しようと思ったが、見当たらない。


キョロキョロしてたら、袖をつままれた。

「みーっけ! ルルドくん」

「え、あ! びっくりした!」

二人の勇者は変装している。口元の覆いをとると、美しい顔立ちが見えた。隣の上から目線がムロイのようだ。


「覚悟は良いわね」

「勿論」


「こっちよ」

美人勇者クライスに袖を掴まれて、誘導される。


「おい、ルルドくん」

勇者ムロイが上から目線で声をかけた。

「悲劇のお姫様を連れ出して脱出する、良いんじゃないか?」


「何言ってるんだ、ムロイさんは」

ルルドは真顔で答えた。相変わらず変な勇者だ。


***


その場の皆が、まるで凍り付いたように時を止めた。実際、酒場の誰かが魔法を使ってくれると言っていた。

だけど見せかけで。


ルルドは投げるように押し出されて、パレードの人たちの中に踏み込んだ。


すぐ、もうあと5歩の距離。

この国の国王陛下18歳のイケメン、その少し離れて隣に、並んでも決して見劣りせずお似合いの美少女アイシャ。


二人ともが驚いてルルドを見た。


「アイシャちゃん! 話をしよう! 一度だけで良いから!」


キャァ、と時を取り戻した誰かが悲鳴を上げた。


「ルルド下がれ!」

勇者ムロイの怒鳴り声がした。

ルルドは一歩、よろめくように下がった。その場に剣が振ってきた。


虹色に光っている。


「止めて、マキューイ!」

アイシャが悲鳴を上げてこちらに駆けだす、その動きを見ながらルルドも自分の魔法で剣を防いだ。


デブではないけど大柄だけど。動けるんだよ。


ギィン、と剣が振り下ろされる。人の姿が現れた。虹色だ。

ルルドの魔法の方が弱い、不味い、と瞬間に思った。


目の前が真っ黒になった。


比喩では無い。


え、と瞬きのうちに、ピシッとひびが入って砕けた。

向こうで、虹色の剣を構えた虹色の人が一歩下がる。


「ルルドくんのトンボが!」

悲鳴はアイシャのものだ。


え。トンボ。ルルドの。

黒。


瞬間色んな情報を受け取りながら、ルルドはアイシャに向かって声を上げた。

「話をしよう! 今、お願いだ、アイシャちゃん!」


虹色の剣がまた振り上げられる。その剣と同じ虹色をした人の形が、

「アイシャは釣り合わない!」

ルルドに叫ぶ。

ルルドはとっさに体当たりする事で攻撃を防いだ。


「マキューイ! 止めて! ルルドくんを攻撃しないで、お願い!」

「チッ」


アイシャが駆け寄ってきた。

「邪魔しないでっ」

そう言われて、マキューイと呼ばれた虹色の人が動きを止める。


向こうで、18歳の国王は茫然としている。とっさに動けないでいるのか?


「ルルドくん!」

「久しぶり。アイシャちゃん。酷いよ。何も言わずに、僕を捨てて、恋人って、酷いよ。話して欲しかった」

「酷くないわ!」


周りを、警備の者たちが囲んでくるのが分かる。


ルルドは膝をつき、アイシャと対峙した。

「あのさ。突然だけど、惚れたんだ。アイシャちゃんに。僕と恋人になってほしい」


アイシャが目を丸くした。


ルルドの腕を、警備の者たちが掴んできた。

「待って、一生かけて告白したいだけなんだ。結果を待ってくれ、頼む」


ルルドが警備の人たちに声を上げると、すかさず、

「待ってやろうぜ」

とどこか小さく怯えつつ声が上がった。

多分、酒場にいた一人だろう。


「ルルドくん」

アイシャも状況に怯えたようになりながら、ルルドの手を握ってきた。

「私の事、大嫌いって、聞いた。迷惑だって」

「言ってないよ! 誰、僕そんな事言ってない!」


アイシャが目を丸くした。涙が浮かんでいく。


「好きだ、恋人になって。お願い。別れるなら説明するって約束しただろ!」

「うわあああああん」

アイシャが飛びついてきた。


あれ。

なんだこの展開。


「逃げろ!」

と勇者ムロイの声が上から聞こえた。


「お、ぉう」

ルルドはアイシャを抱き上げた。

が、周囲を警備の人たちが囲んでいる。逃げられない。いや、強行突破だ。


ふ、と気づいてルルドは下に視線を向けた。

黒いものが落ちていた。


え。僕のトンボ?


「私との、婚約は、どうするつもりだ」

青い顔で、国王陛下が近寄ってきた。かなりショックを受けている。


その声に、虹色の人がため息をついて、残念そうに首を横に振る。


そんな中、アイシャがルルドに抱えられながら訴えるように声を上げた。

「お断りしています。トンボが勝手に契約したのに。私は断り続けているのに、駄目だ契約した、って私の話は聞いてくれない! 今日はちゃんと聞いてくれるっていうから、来たのに」

泣きそうだ。


「王様、ひどーい!」

と、聞いたことのある女性の声が上がった。間違いなく酒場で。

「無理やり、婚約者にしてたの!? がっかりー!」

とたん、周囲がざわついた。


「王家との婚約はきみの義務だよ」

と虹の人がアイシャを見ていた。

「嫌よ! 私、ルルドくんと両想いにしてって、あなたにお願いした! どうして違う事をするの!?」

アイシャが泣きそうだ。


そんな事願っていたの?

え、この虹の人、誰? 虹って時点でアイシャのトンボは想像してるけど、まさか変身できるの。


「虹色トンボ、マキューイ! この私がもらい受けたっ!」

突然、変な大声があたりに響いた。

とたん、虹色の人の姿が揺らぎ、トンボになる。あ、やっぱりトンボだ。


「え、マキューイ!」

「ほほほ、残念ね、お姫様!」

真っ赤なマントをたなびかせて、顔に真っ赤な仮面をつけた小柄な女性が馬車の上に立っていた。


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