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美人勇者とイケメン勇者

ルルドは眼鏡をかけて、午後から学校に行った。

同じ部屋の5人だけはルルドを見てアレッという顔をした。


先生からあまり気にされないのを良い事に近寄ってきて話しかけてくる。

「どうしたの? 眼鏡」

初めに仲良くなった赤い髪の少年ベルドが尋ねてきた。


美人の勇者クライスと、イケメン勇者ムロイから、この眼鏡の性能は秘密に、と言われている。

「良く見えたら良いなと思っただけで、ちょっとね」

誤魔化すのは心苦しいのでルルドは焦った。

まるで授業に興味があるふりをして眼鏡をかけたまま、奥の部屋に視線を移す。


確かに、いつもにはない色がついて見える。

まるでそこだけ絵筆で色を付けたように散らばっている。

椅子の梯子。灯り。緑色に染まっている子がいた。黄色もいる。


ルルドは動揺しながらも、じっとアイシャを見つめた。


何も染まっていない。

どれだけ目を凝らしても。


たまに、アイシャの周りにドッと色んな色がアイシャの傍に浮かぶ。発言した時などだ。

アイシャにまとわりついて、そのうち消える。

他の子がアイシャに擦り寄ろうとしているような動きに見えた。


だけど。アイシャ自身は変わらない。


アイシャが先生に促されて魔法を使った。

アイシャの虹色のトンボが虹色の魔法を使った。

アイシャの周りが虹色に輝く。その光が部屋中を照らす。皆が嬉しそうになる。


部屋のあちこちには虹色が残っても。

アイシャはやっぱりアイシャのまま。虹色になんか染まっていない。


アイシャちゃんは、結局、自分の意志で、僕を避けてるんだ。

魔法で操られているわけじゃない。


思った以上にルルドは動揺していた。じっと見つめた。

だけど、事実は変わりなかった。


僕は馬鹿だ。

魔法で変になってるって期待していた。

でもアイシャちゃんは違った。


ルルドは落ち込みながらも、眼鏡を借りる条件である仕事をした。

色のついている子の名前と色を書き留める。

ただ、ルルドは、遠い部屋、高い椅子の人たちが誰か分かっていないので、同じ場所にいる少年少女たちに、あの椅子に座っているのは誰、と名前を聞いた。

ついでに、彼らの連れているトンボの色も。


どうやら、他の子どもを魔法で支配している様子の子が何人もいる。

それどころか、先生が子どもに魔法を使っている。自分の言う事を聞くようにだろうか?


だからといってどうしたものか分からない。


ちなみに、魔法で他の子に影響を与えている子たちは、この国で地位の高い子たちの様子だ。

いつも偉そうで命令ばっかりしてるよ、とは、同じ部屋の少年少女の言った事。つまり悪口だ。


ルルドはそれもついでに書き留めた。

これを、眼鏡を貸してきた美人の勇者たちに報告しよう。


「僕、今日は具合が悪いみたいだ。これで帰るよ」

すっかり落ち込んだルルドは、立ち上がった。

周りの子たちは心配してくれた。


アイシャは、ルルドの様子なんて気づいてもいない様子だ。


そもそも、壇上の部屋で、背の高い椅子に座っている彼らだ。

わざわざ見下ろさないと、視界に入らないのでは。


失恋か。だよな。

とルルドは改めて思ってから、教室を出た。


***


午前中に行った酒場に再び行くと、美人勇者クライスはいなかったが、イケメン勇者のムロイは同じ席にじっとしていた。

この人何してるんだろう。とはいえ、いてくれて良かった。


ルルドは勇者ムロイの席に向かい、眼鏡と、見たものをまとめた紙を差し出した。


「・・・早かったな」

と勇者ムロイは呟いた。


「クライスさんは? お仕事ですか」

「あぁ。情報収集とかな」


「ふぅん・・・」

「俺で悪かったな」


「そういうわけじゃ無いんですが」

淡々と、お互い興味ないんだな、という会話を交わす。


とはいえ、美人勇者クライスがいなくてガッカリしていた。

なぜなら、できれば恋愛相談に乗ってもらおうと思っていたのだ。ルルドもこの状況に今自分で気が付いたわけだが。


さて、イケメン勇者ムロイはルルドの記録した紙に目を通し、気づいて面倒くさそうに文句を言った。

「きみの恋人が書いてないぞ」


「アイシャちゃんは、何も無かった。色がついていた人だけ書いた」

「きみの恋人は、普通だったのか?」

勇者ムロイは驚いたようだ。

ルルドは無言で頷いた。魔法で行動が変だったら望みがあったんだけど。


勇者ムロイが怪訝な顔で紙を再び見た。

「きみの恋人のトンボは、光り輝いていると聞いたぞ」

「うん。虹色に見えた。眼鏡で見るとハッキリと」


「虹色に染まっている人が無かったっていうのか?」

「魔法の時は凄かったけど、ここに書いた人たちみたいにずっと色が残ってたりしない」


「・・・健全かよ。んー、そうか。アテが、外れたなぁ」

勇者ムロイが困ったように頭をかいた。


「分かった。こっちは状況が分かって助かった。ありがとう」

とムロイが言ってきた。


「うん」

「これは礼の言葉だが、俺としては、国王陛下よりルルドくんの方が恋人とお似合いだと思うぜ」


ルルドは呆れた。

「ムロイさん、国王陛下に会った事あるのか? アイシャちゃんも」

「いや。二人とも知らん」


「適当だなぁ・・・」

ルルドの言葉に、勇者ムロイは肩をすくめた。


「どうせなら体当たりして玉砕してこいよ」

「どういう意味?」


勇者ムロイ、適当に発言してないか。

見た目は真面目そうなイケメンなのに、いいかげんな性格なのか。


「口きいてもらってないってまぁ、なんだ、あれだが」

「・・・」

「でもどうせならズバッと断られた方が、未練なくてカッコいいぞ」

「ムロイさんって失恋したことないんじゃないか? モテるだろ」

「・・・あぁ」

どこか自慢げに勇者ムロイが頷いたので、ルルドは鼻で笑い飛ばした。

話にならない。

この人、他人事だと思って適当だ。なのに、分かっているような口調で言う。


勇者ムロイが、ルルドの態度の悪さを気にも留めず、紙をたたんだ。

「じゃ、まぁ。これで終わりだ」


「クライスさんにも、よろしく伝えて」

「本人に言えば良いだろ」

「今いないから」

「戻ってくるまで飲んでりゃ良いだろ。なんだ、まぁ、失恋のヤケ酒に付き合ってやってもいい」


良い人なのか何か分からない勇者だ。


とはいえ、ルルドは、お言葉に甘えてその席に座って酒を頼む事にした。

誰かと話していないと落ち込んで行くだけだ。


店員が、どうやら何か察していたらしい、

「これ、オヤジからのオゴリだ。まぁ気を落とすなって」

とルルドを気遣いつつ酒を置いて言ってくれた。


あれ、かえって凹むんだけど。


「ありがとう。オヤジさんも」

礼を告げたルルドに、店のオヤジは手を上げ、カウンター席のオヤジどもも、分かったように頷いている。

なんだろう。切なさが増えた。


2人のオヤジがルルドの元にやってきた。勿論、手に酒を持っている。

「失恋だな。分かるぜ。諦めんなと言うが、諦めも大事だ」

首を横に振りながら。


違う話で落ち込んでいるだけかもしれない、とか考えてくれないのか?


当たりだけどさ。


不貞腐れるルルドの肩を、オヤジの一人がガッと抱いてきた。

「人生そういうこともあるさ」

励まされている。


はぁ、としか相槌が打てなかったルルドの傍、勇者ムロイが興味無さそうな態度で呟いた。

「まだ口も聞いてないらしい。どうせなら玉砕しろっての」


冷たい。他人事だよね。


「え! まだ口きいてもらってねぇのか」

「嫌われたもんだな」

オヤジたちの同情にルルドはたまらず言い返した。

「・・・嫌われたかは知らないから!」

「話しても無いんだろ」

とムロイが追い打ちをかける。


ルルドはムロイを思わず睨んだ。

「話しかけても話せないんだ! 遠いし取り巻きがいっぱいいるし」

偶然目があったら泣きそうになって逃げていくしさ。どうしようもない。


「話ができてないってことは誤解があるんじゃないの」

少し離れた場所の女性まで参加してきた。仲間で飲みに来ているようだ。

この狭くはない店の一番の話題がルルドになっている。


ルルドは女性に顔を向けた。女性の意見は貴重な気がする。

「誤解? 誤解して僕を避けてるって、そう思うんですか」

「あるんじゃない?」

とその女性は首を傾げた。

「話ができなくてお互い思い込みでケンカって、あるわよねぇ」

と、その仲間の女性も言った。


「でも話ができないんですよ! 連絡手段も使えないし、学校では格差が酷くて近くにも行けないし!」

「強行突破だ。男だろ」

また傍の勇者ムロイが無責任な適当な事を言った。無駄にイケメンなので、見せかけでは説得力がある。


「ムロイさん適当だな。他人事だと思って! できないから!」


「じゃあ泣いてグジグジ酒でも飲んでやがれ。面倒くせー」

「失恋した事ないって、冷たいな!」


「ちょっと、何騒いでるのよ」

聞いた覚えのある声に視線を向ければ、美人勇者クライスが怪訝な顔でこちらに来ていた。

外から戻って来たらしい。


「こいつが失恋して、グジグジしょうもない。くっだらねー」

「あのさぁ! 何なの、ムロイさんは僕が嫌いなのか!?」

「あー、ムロイが悪いわ絶対、知らないけど。ごめんね、ルルドくん。先に謝っておくわ。こいつ馬鹿なの。顔と声は良いけど」

「良いですね、顔と声が良くて」


ルルドはなぜかムッとしてムロイを睨んだが、ムロイがニヤッと勝ったように笑ったのでさらに腹が立った。

「イケメンは滅びてしまえ」

「おぉ、怖い怖い。呪いの魔法だな」

楽しそうに笑っている。

性格悪いなコイツ。張り合ってケンカしているルルドも同じなのか?


「で、そっちは?」

「ちょっと使い方難しいけどいける」

勇者二人は短く何かの仕事の話を交わして、またルルドに視線を向けた。


「ルルドくん、多分ムロイがごめんなさいねー。私が改めて話を聞くわ?」

美人勇者クライスがルルドに眉を下げて言ってくれた。

「恋愛相談ですよ」

「どんとこい!」


***


結局、店中がルルドの話を聞いていた。どうやら皆、暇だな。

加えて、ルルドの話の重要人物はアイシャ、つまり国王陛下の婚約者だというのも興味を引くのだろう。


アイシャにとって悪い事をしているのでは、とルルドはふと思ったが、他の大人たちは大丈夫さ、と言った。

トンボを重要視するこの国で、トンボを持たない異国出身の自分たちの事なんて、誰も気にしないさ、と。


それもどうなんだろうな。


さて。相談結果だが。


「学校では無理ね。寮に入っちゃってるって事は外出の機会を狙ってアタックしかない」

と、女性が言う。

「3日後にパレードするぜ。秘密ってなってるけど、婚約者の発表もあるって言われてる」

と男性が真面目な顔で教えてくれる。

「私もそれ聞いた。私の友達、お披露目のダンサーなのよねぇ。アイシャちゃんが来るってさ」

「警備任されてるから騒ぎは止めてくれ」

「思うところないのかよ、ドニー。大丈夫だ、お前の担当と違う場所ならいけるだろ」


「連れて行ってあげる。アイシャちゃんのところに」

目の前、美人勇者クライスがニッコリ笑う。

「大勢の前でどーんと散ってこい」

とイケメン勇者ムロイが皮肉気に笑う。


「お願いします」

とルルドは頷いていた。


大々的にルルドが振られるなら王様だって許すだろう。

でも、アイシャがルルドを選ぶなら、そんな王様、恥かかせてやれば良い。アイシャを無理に囲おうとしたという事だ。


ルルドは酒を飲みながらの皆に背を押されて、3日後にアイシャと話をする計画を立てた。


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