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案外お似合いだ、でも

「詫びるにしても会わなきゃできないよ。ドルノの他に誰かいたのか?」

「いない。一人で。全然、家に誰もいなくて、ドルノちゃんだけ僕を出迎えてくれて、それで、可愛くて、好きになってて」

「あのさ、兄の直感なんだけどさ」


別に直感でもないけどさ。


「ドルノだって絶対ディアンくんを嫌ってないから、とにかく話して、もう好きだって言った方が良いって。ドルノ一人で放ったらかしだろ。誰かが来る前に早くした方が良いって絶対」

「でも自分が信じられない。嫌だって言われた時どうしよう。さっきだって気が付いたら動いてたんだ。僕が危険人物なんだ」

「・・・うーん」


そう言われると分からないな。


「だけど、飛び出して放置は不味だろ」

どう考えても。

ルルドにそういう恋愛経験は一切ないが。それでもだ。


「うん・・・」

「大丈夫だと思うんだけど。万が一断られても諦めずに粘ってみればどうだろう・・・。本当に無理だったらドルノから僕に相談が入る。その時にディアンくんを止めてあげられるしさ」

「・・・嫌だ。どうしよう。嫌われたくない」


ディアンは今でこそ勇者として活躍中、つまり輝かしい人物だ。

しかし、本来はどっちかというとクヨクヨと悩む性格だとルルドは思う。

今、その性格に嵌ってしまっているようだ。


「ディアンくんが心配してるのって、断られた時に自分が勝手な行動をしちゃうこと? それで告白が無理なのか?」

「うん・・・」

「動きを遅くする魔法とかなんかそういうの、無いのか?」

「あ。ある」

「それだ。そういうのかけてから告白しにいけよ。ドルノに絶対危害を与えない魔法とか。そしたら勝手なことしないんじゃないか」

「そっか、うん・・・」

と頷く様子の、ディアンの声はもう泣いている。


とはいえ、多分大丈夫だとルルドは思うわけだが、現実的で辛口なドルノだ。

ディアンにどう答えるのかルルドにもちゃんと分からない。

自分は無理と、ディアンの告白を断る事だって、ドルノならやりかねない。ドルノの割り切り方は、ちょっとルルドたちとは違う。


「頑張れ。責任とって告白しろ」

「うん・・・!」


会話はそこで終わった。


ルルドは結果連絡をジィッと待った。

あー、気になって仕方ない。


だけど待つしかないだろう。


***


夜遅くまで船の仕事をしながら待ったけどディアンからの連絡は無かった。

ドルノや他の家族からも無い。


どうなってるんだ。


翌朝。ルルドは待っていられずにディアンにスマホを使った。

「あ! ルルドくん!」

「明るい声してるなー、ディアンくん!」


声に悲壮な感じがない。つまり上手く行ったらしい。

じゃあ連絡してきてくれ! 昨日本当に気になってしかたなかったのに。


「どうなった? ドルノに告白したの」

「両想いになれたんだ!」

実に嬉しそうに返事が来る。


そうか。それは良かったな。すぐ教えてくれよ、ホントに。


「ルルドくんに電話して良かったと思った。一人で放ったらかしてて、本当に僕、駄目だった。あと、動きを妨害する魔法を一杯使ったよ、アドバイス本当にありがとう。でなきゃ、また勝手にキスしてたと思う」

「・・・ふぅん」

なぜ自分は面白くないと思っているのだろうか。

なんだかおもしろくない。


心配だけさせて勝手に幸せになってやがって、的なムカつきか、これ。


「ドルノちゃん、すごく可愛いんだ。これからも僕を待っててくれるって言ってくれたよ」

「へー」


「本当は、一緒に連れて行きたいんだけど」

ちょっとだけディアンの声が落ち込む。

「勇者の旅って危ない事も多いし、目も付けられるし、怖くて。家だと安心だし・・・。ドルノちゃんも家で僕が帰るのを待っててくれるって」

「ふーん」


「ドルノちゃんだけは、いなくなってほしくないって思ったんだ。家に戻っても、誰もいなくて」

「お父様たち、普通にいるだろ?」


「仕事してるし、僕も顔を出すぐらいしかないよ。もう、リュイスもクロルくんも、ルルドくんも、アイシャも家にいない。イーシスとノルラちゃんは湖の方の建物で、家にいない」

「お母様たちはいるだろ?」


「いるけど、でも、ドルノちゃんだけが、来てくれて、『おかえりなさい』って、言ってくれるんだ。どんどん誰もいなくなっていく家で、ドルノちゃんだけいてくれて」

「・・・」

親はあまり重要視してないのか? とりあえず聞こう。


「ドルノちゃんも、いつかいなくなるのかと思ったら、急に怖くて。どうしても傍にいてほしくて。それで・・・」

途切れた言葉が再び始まるのを待ったが、途切れたまま無言になった。


じっくり待ってから、ルルドは言った。

「そっか。両想いで良かったな。ドルノってちょっと変わってるけどさ、優しいやつだからさ」

「うん」

たった一言が非常に幸せそうだ。


なぜだろう、砂を噛んだような気分になった。

ルルドの心が狭いのか。


「ま、ドルノも幸せになって、兄としても良かった。案外お似合いだって思ってたしさ。じゃあえーと、また何かあったら近況とか連絡してきてくれよ」

「うん。本当にありがとう、ルルドくん!」

「うん、ドルノにもよろしく」


会話を終えて、ルルドは少し無言でただずんでしまった。


意外にも、「良かったな、おめでとう!」という気持ちにあまりならない。

ディアンが結果報告をしなかったせいである。


そして、多分。

自分だけ、幸せじゃないからだ。


***


これから学校が始まる時間になるが、今日はさぼりたい気分だった。

今日は酒を飲もう。町に降りよう。


ふらふらとルルドは町を歩いた。

まだ午前中。人々は生活の買い物をしたりと忙しそうだ。


ルルドは目に着いた酒場に入った。

「おや、見ない顔だね」

と野菜を運び込んでいた、多分店側の関係者に目を丸くされた。


「色々あって、飲みたい気分なんだ。この店って悩みを聞いてくれたりするのかな」

「あー。そういうことなら、3軒向こうの店の方がお勧めだね。冒険者がよく飲みに行く店で時間問わずだれかいる」

「そっか。ありがとう、じゃあそっちに行くよ」


親切な店に礼を告げて、教えられた店に入る。


「おぉ」

とルルドが思わず感心したのは、こんな時間から賑わっていたからだ。

とはいえ、荒れているわけではない。地図を広げたり武器を見せ合ったり。


ルルドは自国で大人たちと付き合いがあるし、店に連れて行ってもらったこともある。

ルルドは店側の人を見つけて、相談事に載ってもらいたくて来たんだけど、と打ち明けた。


「あぁ、じゃあ占い師はそっち。金がいるぞ。単に騒いで飲みたいなら・・・話は何だ? 金に関する事か? 事件か?」

「恋愛」

「ブハッ」

面白そうに店側の男性は吹き出してから、ルルドをジロジロ眺めた。


「あれ、トンボがいるな、兄ちゃん」

「うん。羽が1枚っていうのでひどい扱いを受けてるけどね。僕は隣のドルド国から来たんだけど、なかなか難しいよ」


「へぇ。でもトンボがいるだけで凄い事だぜ」

「そうなのか? 原っぱに行って見つけたトンボなだけなんだけど」


「恋愛相談だったか?」

「うん」


「ちょっと待ってろ。荷物片づけたら俺が聞いてやるよ。カウンターで待っててくれ。礼は酒で良い」

「分かった。じゃあ待ってるからよろしく。お酒の種類とか金額とかはどこで見れば良い?」


「オヤジに聞いてくれ」


周囲もルルドたちの会話に興味を持ったらしく、ルルドに注目している。

そんな中をカウンターまで行って座って、店の人のアドバイスも貰いつつ、美味しいという酒を頼んだ。


***


ルルドが、約束通り来てくれた店の男性に抱えていたモヤモヤを話す。

他の人たちも気になるようで次第に集まってきた。


ルルドは、名前や立場はぼかして、ディアンとドルノの話を、そして自分が隣の国から来たこと、そしてアイシャの事を話していた。

名前は言わなかったというのに、あっという間にアイシャの事だとバレてしまった。アイシャはすっかり有名人のようだ。


ただ、この店の人たちは、皆ルルドの話に首を傾げた。アイシャが話して来ないのは変だな、と言ってくれたのだ。

ルルドは意外に思った。皆がルルドの話をそのまま聞いてくれている。


「いや、俺たちは元々この国の生まれじゃないんだ。トンボだっていない」

「この国は珍しい草が生えてて、それから変わった布が作られる。高値で取引される。その商売の関係で、俺たちみたいなのも暮らしてるんだ」


知らなかった話だ。


「ねぇ、向こうで話を聞いちゃったんだけどさ」

一人、小柄な美人がルルドたちの会話に混じってきた。

ルルドは驚いた。

何か特別だと思わせる、顔立ちの整った女性だったからだ。


「ちょっと来て。気になることがあってさ」

「え? はい」


皆の注目の中、女性が元々座っていた壁際の席に連れて行かれる。

一人、やたら顔立ちの良い男が座って待っていた。


なんだろう、この人たち。


男性はルルドを見て少し肩をすくめて見せてきただけで、無言だ。


女性が名乗った。

「私はクライスって言うの。こっちのムロイと一緒に勇者をしてる」

「え、勇者! すごい」

「シーッ。大きな声では言わないでね」


あ、すみません。


クライスと名乗った女性は、椅子に置いていた荷物を探って、一つの丸い眼鏡を取り出した。

「お願いがあるんだけど。ルルドくん、きみ、学校の生徒なんでしょ。この眼鏡かけて、見てきて欲しいの」

「なんですか、これ」


「私たち、この国のトンボに違和感を持ってて。人間の方がトンボに操られてるんじゃないのかっていう話が来て、調べてるの。でも私たちには、トンボのいる人たちが大勢いる場所にいけなくてね。困ってたのよ」

「草原にいったら捕まえられますよ、トンボ」

そしたらこの勇者の二人もトンボが持てる。行ける場所も増えそうだ。


「駄目なんだ。この国のトンボは、自分より弱いやつの前にしか出て来ない」

「え。アイシャちゃんはすごいトンボが」


「彼女、ルルドくんより強いの?」

「いや、僕の方が強い。僕の方が年上だし男だし、体も大きいし」


「魔力は?」

「僕はありますよ」


「彼女は無いんじゃないか」

「まぁ、はい・・・」

「やっぱり」


ムロイという男性はまた肩をすくめて、それで黙ってしまった。

クライスという女性が、代わりに説明してくれる。


「多分、ルルドくんがトンボを持てたのは奇跡的よ。私たちは駄目。近寄って来ないもの」

「そうだったんだ・・・」


トンボよりルルドの方が強い。なんだかそれに納得した。

大体のトンボの魔法は、ルルドに簡単に出来る程度なのだから。


「だから、トンボを持ってるルルドくんにお願いなの。この眼鏡、トンボの魔力にかかっている人はそのトンボの色がついて見える代物なの。見たら分かるはずよ。ルルドくんはこれでアイシャちゃんを確認できるし、私たちも助かるわ!」

「・・・」


「色がついて見える人を全員、名前と、ついている色を書き留めてきて欲しいの。あなたはタダでこの眼鏡を使って恋人の様子が見れるし、私たちも魔法の事を調べられる。どう。お願いできる?」


アイシャが実は魔法に影響を受けて、普通じゃないかもしれない。なんて。


まさか。でも。


さっきまで腐っているような気分だったのに、ひょっとして、なんて希望を持ってしまった。


ルルドはその頼みを引き受けた。

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