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格差と急な連絡

アイシャはルルドがいない2週間の期間で、この国の王様の婚約者になっていたらしい。


さすがに嘘だろう。


ルルドは驚き、アイシャとの接触を試みた、が、失敗した。


アイシャに一歩近づく前に取り囲まれた。

身柄を拘束されて連れて行かれた部屋で説明を受けた。


「アイシャ様に付きまとうのは止めていただきたい」

「僕は彼女の保護者だ。恋人だ」


「きみのような者につきまとわれてアイシャ様は迷惑されている。国益にならない」

「いや、アイシャちゃんと話をさせてくれたら済むだけだ。そもそも、そんな連絡聞いてないし、アイシャちゃんの両親にだっていってないはずだ」


そんな話があったら、アイシャの父から絶対にルルドに連絡がある。でも何もない。


「自分をよく見たまえ。アイシャ様の素晴らしさは分かるだろう。きみがいかに相応しくないか、きみだって分かるはずだ・・・」

「だからって、話もしてないのは変だ。恋人っていうのはアイシャちゃんから頼まれたのに」

「身分をわきまえない男だな」


軽蔑の目で見られてしまったが、納得できるわけはない。

ルルドがアイシャに釣り合わないと言うのは、トンボがいてもいなくても思っている事だけれど。


アイシャと話ができない時点で納得できない。


「アイシャ様はきみみたいな者と口も聞きたくないだろうよ。だから声もかけられないのだ」

「僕は保護者だ。僕に説明をするべきだ」

「今が説明の時間だ。いい加減にしたまえ」


話がかみ合わない。

やっと解放された後、ルルドはやはりアイシャとの接触を試みようとした。


2日後。偶然、アイシャと目が合った。

だけど、アイシャは辛そうに眉を寄せて、フイッと顔を逸らしてしまった。

泣きそうになったらしくて、周囲が慌ててアイシャを慰めている。


一方、アイシャの取り巻きのようになっている少女や少年がルルドを睨んできた。


「一度、アイシャちゃんと話がしたい」

ルルドは大きな声を出した。


だけど皆に囲まれて、まるでルルドから避難するようにアイシャは部屋を去ってしまった。

ルルドが出入りできない、一番高い位置の部屋にある出入り口から。


***


アイシャと話ができないとどうしようもない。

ルルドは学校の授業をサボって、学校の中の人や、町に降りて、いろんな人に話を聞いてみた。


どうやら、アイシャは優秀らしくて、独身の国王陛下、ちなみに18歳、の関心を引き、そのまま婚約になった。そう皆知っていた。


あれだけルルドに執着しておいて?

納得できない。


ルルドは国王の姿を魔法で見せてもらった。


あ。お似合いだ。と思ってしまったのは仕方ない。

アイシャのように、特別な感じのする、整った顔立ちのイケメンだった。


まさか、アイシャちゃんも一目惚れした?


でも、だからといって、ルルドに説明してくれない子では無い。

何があったか、本人から聞かないと。


***


ルルドはアイシャの観察のために学校に行く事になった。


驚いたことに、ルルドと同じ部屋の少年少女からもアイシャの評判はいい。

魔法が使えて優秀だ、という以上の理由があった。


「アイシャ様、僕たちを庇ってくれるんだ」

と、初日に仲良くなった赤い髪のベルドが憧れの眼差しでアイシャを見つめている。


「私たちにも、勉強の機会を等しく与えるべきだって、先生に言ってくれて、椅子がもらえたの!」

と、オレンジ色の髪とトンボのクエラがうっとりしている。


確かに、戻った初日にはそれどころでなく気づいていなかったが、一番低い部屋になかった椅子が、あるのだ。


「僕たちのために、先生とケンカしてくださるんだ。時代遅れで間違ってるって」

他の子も嬉しそうにルルドに教えてくれる。


その話を聞いた次の授業で、ルルドも目の当たりにする事になった。

トンボを持たない人を切り捨てるような発言をした先生に、アイシャが声を上げて怒ったのだ。


「先生、それは酷いです! この学校のお勉強、トンボがいなくても皆希望したら受けられるようにしてほしいのです!」

「そんなわけにはいきません。人には役割というものがあるのですよ。あなたは優秀です。優秀な人を伸ばさないと。教師だって無限にいるわけではないのですもの」

「たまたま、トンボが優れているからってその人まで差をつけるなんて変です! 私はたまたまこの子が来てくれただけだし、お金持ちは親に良いトンボを買ってもらってます! それって本人が凄いのじゃなくてただトンボが凄いだけ、生まれたところが良かったり運が良かっただけです!」

「それが実力なのです。良いですか。トンボも人を選びます。優秀なトンボが選ぶ人間は優秀なのです。だから高い椅子に座れます」

「お言葉ですが、やっぱり変です! だって、ルルドくんは、私よりとても優秀なのに!」


ケンカの中で、ルルドは自分の名前が出て来たことに驚いた。

とはいえ、ケンカは続いていて、教師によってルルドは罵倒されている。

同じ国から来た情があるからそう思うだけです、彼は全く才能が無い、トンボで才能が分かるのです、とか言われている。


確かにトンボの魔法の才能は無いわけだが、ルルドは嫌な気分になった。


本気のケンカ。周囲は口を出せないようだ。トンボ的な身分が皆、アイシャと先生より低いからだろう。


アイシャがついに泣きだした。一生懸命、トンボだけで差をつけるのはおかしい、と訴えながら。

泣いてしまった事で先生は困って、アイシャを宥める方に回ったようだ。


そうしてケンカは終息した。


そしてルルドは感心していた。


確かにアイシャのトンボは凄い。

だけど自分はそれで良いとおさまることなく、ハッキリと意見してくれる。強い。


泣いてしまったけど。でもちょっと、かっこよかった。弱いものを守る勇者みたいだ。


***


それから時折、ルルドはアイシャが頑張っている姿を目の当たりにする事になった。

全て、この国の在り方にたてついている。


その度に、ルルドの周りの少年少女の待遇が改善されていく。恩恵を受ける。

例えば食堂でも椅子に座って良くなった。

図書館で、高い場所にある本も、梯子を使って昇って取り出し、読んでも良くなった。

ちなみに、ルルドは背が高いので、一番高いところにそのままで手が届いていたから、図書館の事はルルドは気づいていなかった。だけど、トンボのレベルが優秀でない者たちは、踏み台を使ってはいけなかったらしい。


アイシャは一生懸命だ。

国王18歳も、アイシャに惚れるわけだ。5歳差だし。


アイシャは、他の国から来たことで、広い視野を持っている。

トンボの魔法の才能は、結局トンボによるものなので、偶然手に入れたものだ。

だからこそアイシャは他人が気になるのだろうし、自分の才能におぼれた様子が無い。


だけど、上の人たちに「その考えがおかしい」といえるのは、本人が上の人たちに認められた者しか言えない、例えばルルドたちが同じ事を言っても絶対に聞いてもらえない。


アイシャはそのことにも気づいているのかもしれない。元々の性格かもしれないし、一番落ちこぼれのルルドと仲が良かったからかもしれないが、とにかく、アイシャが切り込んで戦ってくれているのだ。

怒って涙を流してまで訴えて、少しずつ周りを変えている。


凄い子だったんだな、とルルドは、離れたところからアイシャを見ていて思った。


凄く、強くて、すぐ泣くけど、優しくて、とても魅力のある子だったんだ。


あれ。

とルルドは思った。


遠く離れて見ているうちに、ルルドはどうやら、アイシャに惚れてしまっていたらしい。


***


勿体ない事を、したなぁ。

とルルドは思った。


仕方ないよな。

離れてから、魅力に気づいて惚れるなんてさ。


アイシャとは結局話ができていないが、国王と婚約中なのは周知の事実だ。

スマホで家に確認してみたら、アイシャの両親も皆驚いていたが。


様子を確認してくれと頼まれたが、他の可能性が出て来ない。

つまり、ルルドは振られてたらしい。ルルドなんてお呼びでは無い。


仕方ないよな。僕ってタイミングが悪いよ。


切なくて辛い気分に陥りつつ、ルルドが船で器具の整理をしていた時だ。

アイシャ専用では無い、家族との連絡用の方のスマホが音を出していた。


「あ。ごめん、出るの遅くて。ルルドです」

「ルルドくん!」

「あ、ディアンくん。久しぶり」

「どうしよう! 僕・・・!」


勇者ディアンが混乱している。


「落ち着いて。どうしたんだよ」

「どう、僕・・・!」

「しっかり、ディアンくん! 今勇者の仕事中なのか?」

「違うんだ。今、家に戻ってて」


ディアンが激しく混乱している様子だ。


でも、家にいるの?

じゃあ何だ?


「家、何かあったのか」

家族に何かあったんだろうか。ルルドも不安になった。


「僕」

「うん」

「ドルノちゃんに」


ドルノに。


「どうしよう、嫌われる・・・どうしよう・・・」

「落ち着いて。ドルノと、ケンカしたのか?」

ルルドは聞こえてくる声に集中しようと努めた。


「どうしよう・・・」


ディアンがこんな風になっているのは珍しい。いや、そうでもないか。

幼少時とか、拗ねているディアンはこんな感じだったか。つまり弱っている?


「怒らないで、聞いてくれる?」

「うん」


「さっき、あの、あんまり、可愛くて、で、」


ん?


「気が付いたら、キスしてた・・・」

激しい後悔を感じる声である。


「キス? ドルノと? ディアンくんが?」

「してた。どうしよう」


ん?


「え、ドルノからしてきた」

「違うよ、僕が、気づいたら、で」


「ドルノにキスした? ディアンくんが?」

「うん・・・どうしよう、とっさに、ごめんって、部屋飛び出して、今、どうしよう、合わせる顔が無い」


想像していなかった事態のようだ。

ルルドは驚きながら確認した。


「ディアンくんって、ドルノが好きだったのか?」

違ったらふざけている。


「意識したのは、最近で、それで、」

「ドルノは今どうしてるんだ? 怒ったのか?」


でもドルノはディアンが好きなはずだ。怒るのか?


「分からない、真っ赤な顔で、本当に自分の事に驚いて、飛び出してきて、どうしよう、ドルノちゃんに嫌われたら・・・!」

「物凄く今すぐそこに行ってあげたいけど無理だ・・・」

ルルドは呟いた。


ディアンが泣きそうだ。


しかし待ってくれ。つまり両想いなんじゃないの?


「えー、確認だけど、ディアンくんはドルノが好きなんだよな。で、いきなりキスしちゃって驚いて今電話してきたってこと?」

「うん。僕、どうしよう、最低だ」

「とりあえず、ドルノのとこに戻れ。で、好きだって告白しろよ」

「したら、許してくれるかな。どうしよう。でも、嫌われたくない。顔見たくないって言われたどうしよう」


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