死にようがないから
「お前が吸血鬼だってことは分かった。それに、僕が殺したってことも」
「納得していただきましたか」
穏やかな笑みと共に、燈火が呟く。
それを認めるということは、僕が人殺しであると認めることだが――いや、人ではなくて吸血鬼か。
いずれにせよ――僕が命を奪ったことに変わりはない。
殺した張本人ぼくがこんなことを考えるのもおかしな話だが――償いをする必要があるのではないか。そう思った。
「いいんですよ、償いなんて。別に生きたかったわけではありませんし。むしろ、さっきも言った通り――私は、感謝しているくらいなんですよ」
「……なぁ燈火。どうしてお前は、そんなに死にたがるんだ?」
吸血鬼の末裔。殺しても死なない生命力。
せっかくそんな力を持って生まれたのに、どうして自ら台無しにしようと思うのか。僕にはその理由が全く理解できなかった。
「知ってますか? 吸血鬼の死因の九割」
「九割?」
となると、吸血鬼はほぼその理由で死んでいるということになる。
外的な要因で死ぬことはまずない彼らが、死ぬ理由――
「心臓病、とか?」
先ほど燈火が言ったように、吸血鬼の体を司る器官である。その部位が正常に働かないため死んでしまう――という推測は、そこそこ的を得ている気がした。
しかし、燈火は短く首を振るばかり。
「吸血鬼は病気になんてかかりません。生命力が強すぎますからね。肉体は衰えず、強靭な抗体を持っていますから、どんなウイルスも受け付けません」
「それじゃ――死にようがないじゃないか」
「そう。死にようがないから、みんな自殺しちゃうんです」
燈火は、なんでもないことのように言う。
「じ――自殺?」
「そう、自殺です。とはいえ、一人で決行するのは至難の業です。なんせ心臓を破壊したあとに首を刎ねる――ですからね。不死身の吸血鬼といえど一人でそこまでのは無理があります。そこで、家族を頼るんです」
「ちょ――ちょっと待ってくれ」
「まずは銀の十字架を心臓に打ち込みます。これは最近、専用のパイルバンカーが開発されたのですごく簡単にできるようになりました。後は簡易ギロチンテーブルを設置して、準備を整えたらボタンを押せば自動で」
「やめろ。やめてくれ。そんな話は聞きたくない」
朧げながら――嫌な推測が、僕の脳裏を過る。
そして嫌な推測ほどよく当たる。
「これまでに、祖父母と母の自殺を手伝いました。あと残っているのは父ですが、もう疲れちゃいました」
燈火は、穏やかな微笑みを僕に向けた。
「家族同士で殺し合わなくちゃいけない、こんな世界が大嫌い。吸血鬼として生まれたことも、私自身の存在も、何もかもが嫌。いずれ自分も、殺してもらうためだけに家族を作るんだって考えると、吐き気がする。だから――あなたに殺してもらえて、本当によかった」
あなたは私を、吸血鬼の呪縛から解放してくれたんです。
だから――殺してくれて、本当にありがとうございます。
なんでもないことのように、燈火はそう言った。