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盤面をひっくり返して

 何度も腕を引きちぎり、心臓にダメージを負った状態の白炎を殺すことは容易いだろう。



 あとは、心臓に銀に十字架を埋め込み、首を刎ねればそれでお終い。


 

 撃退や説得なんて方法で白炎を生かすことに意味はない。



 全ての家族を失い、自らを殺す方法を失い、絶望感と喪失感を抱えた彼は、結局自殺する方法を求めて彷徨う亡霊となるだろうから。


 

 そんな話のどこに救いがあるのか――と燈火はいう。その点については僕も同意だ。


 

 しかし――それで彼を殺す、という手段を取ってしまえば、「吸血鬼の呪縛」に敗北したことと同じだ。生きている限り救いはない、吸血鬼と関わった物語にはバッドエンドが憑き物なのだと――認めるようなものだ。

 


 燈火の真の願いは、「白炎を救う」こと。それが達成できれば、彼を殺す必要はない。


 

 それこそが――本当に「救いのある物語」ではないのだろうか?



「……」



 とはいえ、だ。



 ここから、そんな展開にまで持ち込めるのだろうか。



 舌先三寸、口八丁。



 これまで僕が得た情報を繋げれば、一応、それなりの公算はある。



 だが――肝心の白炎が、それを聞き入れるかどうかは分からない。



 そもそも、燈火を殺した僕の言葉に聞く耳など持つだろうか?



「……どうした。早く殺せ。それとも、まだいたぶり足りないか?」



 喋るのもやっと、という状態で、白炎が僕に問いかける。



 高坂 白炎。吸血鬼の末裔、燈火の父。



 妻と父母の自殺に係る手助けを、燈火に押し付けた男。



 その罪を彼自身が背負っていれば――燈火は自殺願望を抱くこともなかったかもしれない。



 生きてさえすれば――やり直すことだって出来たはずのに。



「……ん?」



 決定的な違和感を覚えて、思考が立ち止まる。



 だって、その台詞を言ったのは――白炎ではなかったか。



『お前さえいなければ――お前さえいなければ! 確かに私は間違いを犯したかもしれないが、それだって生きていればやり直せたはずだ! 違うか、この殺人鬼が!』



「……」



 もしも都合のいい方向に想像力を膨らませるとしたら――



 盤面をひっくり返して――もう一度、考え直すとしたら。



 刹那的な閃きが連鎖し、情報と結びつき、一つの仮説が浮かびあがる。


 

 どうしてその可能性にもっと早く気が付かなかったのだろう。


 

 もし、その仮説が真実だとすれば――



 僕は、間違いを犯したどころの話じゃない。



 吸血鬼の呪縛に囚われているのは、僕の方だ。



「……あなた、トドメを刺すのなら今しかありませんよ」



 燈火が、僕の背後で囁いた。



「今は弱っているとはいえ――すぐに、心臓に蓄積したダメージも回復してしまいます。そうなればまた、父は暴れ出すでしょう。再生力が強いということは、体力も無尽蔵ということです。このまま戦いが長引けば、不利になるのはあなたの方です」



「いや――もう、その必要はないんだ」



「え?」



 燈火の驚く声を聞きながら、僕は白炎の目を覗きこむ。



 試みるのは対話ではなく――答え合わせ。



 探偵は僕。犯人は僕。被害者は、吸血鬼の親子二人。



 盤面をひっくり返した先に、そんな結末が待ち迎えていようと――



 当事者である以上、目を逸らすわけにはいかない。

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