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反撃開始

 白炎は、瓦礫の中に一人の男を見つけた――その男は既に、死んでいるのではないかと思えた。身に纏う服はボロボロで、全身血塗れ、傷だらけ。



 これが普通の人間であれば、白炎は「死んだ者」として放置しただろう。



 だが――この男は殺さなければならない。嫌な予感は、未だに背筋に張り付いている。完全に殺した、と確認するまで油断は出来ない。それなら、自分の手で殺めるのが一番だ。



 野ウサギを背後から仕留めんとする狩人の如く、慎重に、ゆっくりと、白炎は男に近寄った。



 男にギリギリまで近づいたところで――疾走。文字通り、風の如くスピードで駆ける。



 そして、男の頭蓋骨目掛けて――思いっきり、利き足を振り上げた。



 いかなる生物であれ、首を跳ね飛ばせばそれでお終い。



「死ね! 娘の苦しみを味わいながら、存分に苦しんで死ね!」



 白炎は、渾身の想いを込めて、利き足を――天高く振り上げた。



 遅れて、「ぱぁん」、と。



 乾いた音が響く。



 ――しかし。



 天高く振り上げた自身の爪先を見て――白炎は驚愕する。



 足首から先が、無い。



 消え去っている――弾け飛んでいる。



 だとすると、さっきの音は――



「……馬鹿な」



 白炎が、おそるおそる男に視線を向けると――彼の手には。



 握られている。得も知れない肉片が。



 つまり、先ほどの乾いた音は、男の首を刎ねた音ではなく。



 白炎の足首から先が、握り潰された音だった。



「馬鹿な――馬鹿な馬鹿な馬鹿な」



 白炎はその時、再びミスを犯したのだと気付いた。



 本当に確実に殺したいのであれば――狙うのは首を刎ねることではなく。



 極力、この男に近寄らないことではなかったのか――いや。



 それ以前に、この男と関わってしまったことが、間違いだったのではないか。



 今まで体験したことのない現象に、白炎は根源的な恐怖を覚えた。



 今や彼は、死体と変わらない姿の男に気圧されて、身動き一つ取れなくなっていた。



 蛇に睨まれた蛙。



 この膠着状態を表現するのに、これほど適切な表現はない。



 そんなことをしている暇があれば、彼は逃げるべきだった。それが、彼の生き延びる最後の手段だった。



 だけど――それももう、時間切れ。



 ぼろぼろの男は、ゆっくりと立ち上がる。



 そして、決意に満ちた表情で、白炎を見つめた。



「ひ」



 それは、どこにでもいるただの人間に過ぎなかった。



 しかし、男の瞳が映す暗黒は、底知れない深淵そのもの。



「――娘の苦しみを味わいながら、存分に死ね、か。だんだんと悪役が板に付いてきたな」



 男は一歩、また一歩と白炎に詰め寄る。



「それはこっちの台詞だよ、高坂 白炎。お前こそ、燈火の無念を思い知れ。死んでも死ねない、その苦しみを――存分に味わって苦しんで死ね」



 さぁ、反撃の時間だ。




 生き残るための戦いを始めよう。

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