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高坂 白炎の心中

 白炎は疑問に思っていた。



 何故、ただの人間に過ぎないこの男は死なないのだろう?


 

 怒りに任せて力を解放し、暴風域に男を閉じこめた時は、それで終わりだと思った。――人間如きを本気を出してしまった、という羞恥すら感じていた。



 しかし五分経っても、十分経っても、男はまだ死なない。死ぬ気配を感じない。



 暴風域の向こう側から、確かにまだ呼吸音が聞こえる――吸血鬼でなければ拾えない程度の微かな呼吸だが、それでも生きているのだ。



 異常だ。あの量の瓦礫が舞う暴風域の中で、それだけの時間を耐えられるはずがない――避けている? あり得ない。あの中には回避不能なサイズの柱や鉄筋も混ざっている。



 だったら普通、死ぬだろう――瓦礫に直撃すれば、かすり傷では済まない。骨や内臓だってダメージを負うだろう。出血多量や激痛によるショック死だってあり得る。



 しかし――現実問題として、男は生きているのだ。



 吸血鬼の本気に晒されて、なお。



「……失策だったな」



 冷静に考えてみれば、一人殺すのにここまで大仰なことをする必要は無い。



 割れた窓ガラスの破片。一枚分もあれば、それで十分。



 なのに、怒りに我を忘れ、制御不能な技を使ってしまうなどと。



 そんなことをする必要は――どこにもなかったのに。



 男の作戦に――まんまと、引っかかってしまったわけだ。



「……引きずり出して殺すのが確実か」



 白炎はそう判断し、風の力を操作する。ゆっくりではあるが、風は徐々に勢いを弱め、それにつれて瓦礫も地面へと落下していく。



 白炎は、冷静さを取り戻していた。



 そして――男を、ただの人間ではなく、「敵」として認識した。



「…………」



 しかし――



 あの男は、本当にただの人間に過ぎないのだろうか?



 これだけ痛めつけて、まだ生きているということがあり得るか?



 燈火が目の前で自殺した、というのもあくまで彼の弁に過ぎない。



 話の内容に説得力こそあったが――証拠がない。



 証拠がない以上、あの男が燈火を殺したという可能性は――捨てきれない。



「……吸血鬼を殺す人間、か」



 そんなものをただの人間と呼べるはずがない。



 化物か、殺人鬼か。



 或いは――妖怪変化の末裔か。



 何でもいいが――娘の死に関わっていることを抜きにしても、あの男を生かしておいてはいけない。そんな予感が、彼の脳裏を過っていた。



 夜の王の直感が、告げている。



 自分は何か、とてつもなく大きな流れに巻きこまれているのではないかという、嫌な予感。


 

 嫌な予感ほど――よく当たる。



「……まさかな。馬鹿馬鹿しい」



 一笑に付しながら、白炎は瓦礫の山へと一歩踏み出した。



 底知れない深淵に覗き込まれている感覚は、拭い去れないままに。

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