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たゆたうもの ~泡沫の召喚士~  作者: くちゅくちゅ
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第4話 意外と獰猛?

学校を出て街に向かう。クラゲはなんとなく僕の服の中に隠れて貰った。


結局、あのあとそれっぽい情報は出てこなかった。今は、閉館です。と司書さんにか細い声で言われ慌てて書庫を後にしたところだ。


有益だった情報はクラゲは肉食で小さい生き物を食べていることと、イソギンチャクやサンゴがクラゲの仲間ということくらいか。彼らを見かけたら仲間だと思って優しくしてやろう。


「うーん・・・この子が食べれるものって何かあるのかな」


独り言ちながら歩く。実際どうなんだろう。釣り餌とかなにか買って帰ってみるかな。

夢中で調べ物をしていたからずいぶん遅い時間になってしまった。もう日はだいぶ傾いて空は夕焼けから夜に染まりつつある。

早いところ買い物をして帰ってこの子がなにか食べれないか調べないといけない。


この子が食べないでいられる時間がどの程度かはわからないが、何を食べるかわからない間はこの不安な気持ちはきっと治まることはないだろう。

クラゲを指先で弄りながら歩く。むずがって小動物が体をよじるような動作が指先に伝わってきて心地いい。


街の中を歩くのは、苦手だ。知っている顔と出会ったら知らないふりをすればいいのか挨拶をした方がいいのかわからないからだ。

もっと言えば挨拶をするならどんな顔をすればいいかわからないし何を言えば正解なのかもわからない。

普段歩いていると知人からも、知らない人からも視線を感じる・・・気がする。さすがにこれは気のせいなのだろうが、どうしてもそう思ってしまう。



――愛情を表してくれていた人たちが僕に関心がなくなる姿と、集団の悪意に精神と肉体が陵辱される苦しみは僕の深いところを傷つけた。

今後家族や彼らとの関係がどのように変化するかはわからないが、もう最初のようには戻れないだろうということだけは理解できる。


努力のしようがない部分で裏切ってしまい、見放される。光明が見えず、手の施しようがない絶望感はあまりにも大きかった。



手慰みにクラゲを触っていたが、一定のリズムで指先で撫でるようにしたら今は身を任せてくれている。

いつも一人で心細かった世界が一人ではないからか、意識がクラゲを撫でることに集中しているからか。今は周りに見られるような不安は感じなかった。

図鑑で見たクラゲは見るからに癒しそのものみたいなオーラを放ってたもんな。クラゲにはきっと人を癒す力が備わっているのだろう。


人通りが多くなり、人が多い場所特有の喧騒が聞こえてきた。

召喚士が魔物を討伐するようになってから、町が魔物に襲撃される事件は激減した。


魔物はある程度知能はあるようだが、基本は単独で正面から攻めてくる存在だったため、二人以上召喚士が組んで挑めばまず勝てる相手だったのだ。

街はいつ魔物が襲撃するかという怯えから解放され、賑わうようになった。


少し余裕のある精神状態で視線だけで周りを見渡してみると、知っている顔は居ないし僕に注意を向けてくる人も居ないように見えた。

クラゲに内心感謝して優しく撫でながら目当ての店まで歩く。

途中色んな店の客引きの姿が見えるがその存在が恐怖なのでなるべく離れて歩いた。


「釣具屋は・・・多分ここかな?」


それらしい店を探し当てた。軒先に釣り竿が置いてあるので多分ここだろう。

主に召喚士が釣りをしたり、懐に余裕のある者が召喚士に護衛をして貰って釣りを嗜むそうだ。

そっと扉を開け中の様子を窺うとあまり客の姿は見えず、安心して店内に入った。

釣り竿には目もくれずエサの置いてある場所に向かうと、エサは虫とか小さなエビとか練り餌といった物が置いてある。

この子の好みがわからないのでできるだけ小さいものを全部買ってみよう。


「お客さん、見ない顔だね」

「あっ、はい。あの、クラゲが食べれる物って置いてありますか」


店の主人のところまで行くと話し掛けられて余裕がなくなってしまう。

店主は服の上からでもなんとなくわかるガッチリした体つきで、健康的に日焼けして色黒な気のいいおじさんといった風貌だった。


「クラゲ?クラゲを現地で釣って餌にするのかい?」

「いっ!?いえ、僕は召喚士なんですけど、クラゲの従魔を連れているので、食べれる物がないかと・・・」


「うーん、クラゲは魚を食っちまう奴もいるけど奴らのことはよくわからないな。ポイントに沸くと釣りの邪魔になるってんで釣り人に好かれてはいないよな。召喚士なら確か専門の店があっただろ?そっちで聞いてみたらどうだい」


そういえば以前授業でそんな店の話を聞いた気がする。釣り餌を買ってからそっちにも向かってみよう。


「あっ、そうですね・・・ありがとうございます。一応これも買いますので、お願いします・・・」

「へい、毎度あり!」


お金は実家から毎月多少使っても不自由はしない程度に送られている。が、まるで手切れ金のように感じてしまう時がある。

釣具屋を後にした僕は、召喚士専門の店を目指して片手に荷物を持ちクラゲを弄りながら歩いた。


「お前の仲間って、小食かと思ったけど結構大食いなんだな」


小さい生き物だけを食べる儚い存在かと思いきや意外に獰猛そうな印象に変わりつつある。毒針は身を守るためだけじゃなくて狩りにも使うわけか。

イメージ的な話だが、儚げな深窓の令嬢が肉食系だったら凄くエッチで興奮すると思う。

この子は小さいから大きいのは食べれなさそうだが、買ってきた物を食べてくれそうで期待が出てきた。


召喚士の店が見えてきた。色々な種類の従魔に関する道具が置いてあるため、かなり大きい。

店員も召喚士で、知識は学校の教師並に深いらしい。


店の扉を開けてそっと中の様子を覗くと、学校の制服を着た連中が結構な人数いた。

今日は召喚の儀式があったから、その影響もあるんだろうな。なるべく視界に入らないように、顔があちらに見えないように意識して歩く。

クラゲを撫でているおかげで心細い気持ちになることもない。


水棲の従魔のコーナーは奥の方にあった。虫やらネズミやらがケージで飼われているようだ。


「召喚士の方ですね。なにかお探しですか?」

「あっ、はい。今日従魔を召喚して、クラゲの従魔だったのですが食べられる物は置いてあるかと思って」


男の店員に話しかけられるが、先ほど釣具屋のおじさんと話していたからか緊張はそれほどでもなかった。

懐からクラゲを取り出して掌に乗せて見せる。


「クラゲ、ですか。滅多に召喚されることがないので具体的な情報が出回っていないんですよね」

「はい、学園でもそう言われました。一応釣具屋に行ったら自然のクラゲは魚を食べるものもいると聞きました。あと、この子が食べれそうなエサも買ってきたんですが」


エサも取り出して見せた。

店員はまじまじと興味深そうにクラゲを見ている。クラゲも多分店員を見返して微かに明滅していて、見つめ合う形になっている。


「うん、それでしたら生きた小魚を与えてみましょうか。試供品ということで今お出ししますよ」

「すいません、ありがとうございます」


店員は小魚を数種類、一匹ずつ取り出して持ってきてくれた。これは・・・ありがたい・・・。

摘んでクラゲの目の前に持っていくと興味深そうに明滅したり感触を確かめるように触れており、僕とは違う感触に好奇心が湧いたようでべたべたと触っている。

が、食べ物だとは認識しないのか食べてはくれなかった。結局全部の魚で熱心に触れて感触を確かめているのだが、どれも食べ物とは認識しないようだ。


「食べませんね・・・」

「うーん・・・では他のものも出してみますね」


店員はその後も虫やネズミも出してくれたが、好奇心のままにスキンシップを取るのみで食べてはくれなかった。

店員はこちらでももっと情報を調べてみますので近いうちにご来店くださいと言ってくれた。

今日は帰って釣り餌を試すけど、期待が薄くなってきた。クラゲは僕の気も知らず好奇心が満たされたのか強くプルプルしている。


その後、思うところがあった僕は取り出しに便利なナイフを見繕って購入し、帰り道を急ぐことにした。

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