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剣豪童女の転生記 ~魔法の世界に生きた侍~  作者: あきなべ
第一章 無刀の剣豪
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木刀を作るための材料を取るための道具を作ろう

「何を……作るって?」


 ランディが頭が痛いと言わんばかりに、額に手を当てて聞き返した。

 こやつ若いくせに耳が遠いのか?


 儂はもう一度、今度ははっきりと聞こえるように言う。


「石斧じゃよ。そうじゃな……こう、細長い台形のような形をした石と、研磨用の石台と、石鑿用に先が尖った手頃な大きさの石があれば良いのじゃが」


 儂が身振り手振りを交えて説明すると、重々しく頭を上げたランディは、色々諦めたような表情を浮かべていた。


「つまり……必要なのは石なんだな? それならさっき、木を探してるときに見かけたぞ。石を削るのか?」

「そうじゃな。手頃な物があれば、それを削って刃を作るつもりじゃ。とりあえず、石を見かけた場所に案内してくれんか?」

「へいへい」


 ランディに連れられて更に森の少し奥へ入ると、石と言うより岩と言った方がしっくりくるような大きさの、苔むした石がいくつも転がっている場所に出た。


「どうだ? 使えそうか?」

「うーむ……」


 ランディに促されて足元を見渡すが、大きさもさることながら刃にするにはどれもこれも丸く、このままでは使い物になりそうもない。

 一度割ってから、形を整えた方が良いだろう。

 そう判断した儂は、両手でどうにか抱え上げられそうな大きさの苔石を選んで、屈んで掴むと持ち上げようとする。


「待て待て待て待て、なにやってんだお前!」


 突如叫び出したランディに腕を掴んで止められてしまった。


「いや、些か大きすぎるから、叩きつけて割ろうかと思ったのじゃが……」

「その格好でか……?」


 ランディが指した指先につられて、自分の身体に視線を落とす。

 当然、起きてから着替えた水色のワンピースと白いエプロンドレスのままだ。これの何が問題なのだろうか。

 発言の意図が読めない儂は、首を傾げながらエプロンドレスを摘んで見せる。


「ちゃんと前掛けは付けとるじゃろう?」

「前掛けって、お前な……それは汚す用の服じゃないぞ」

「なん……じゃと」


 ランディが今日何度目かも分からない溜息をついた。


 まさか汚してはならない前掛けがあるなど思いもしなかったのだ。汚れても問題ないように前掛けを着けるのではないのか。全く女子の服は訳が分からない。


「仕方ない、脱ぐか」


 儂が服をむんずと掴むと、慌てたランディに手を叩かれた。


「脱ぐな!はぁ……もういい、石は俺が割るから、お前は使えそうなの選んでけ」


 良案だと思ったのだが、一蹴されてしまった。

 儂を後ろに下がらせると、ランディは疲れたようにその場にどかっと腰を下ろして、両手を石に当てて静かに目を閉じる。


 ふと、ランディから、ほんの僅かだが圧力のような妙な感覚が漂ってきた。

 驚いて見つめていると、ランディは目を閉じたままぽつりと呟く。


『地よ 穿て』


 すると、手を当てていた石にひびが入り、硬そうだった石はまるで西瓜を割った時のように、幾つかの塊になって割れた。


 地の魔術を使ったのだろう、ということは分かる。しかし、妙な圧力を感じたのは何だったのか。

 今までも父様や母様が目の前で魔術を使った事はあったが、こんな感覚は初めてだった。


「どうだ?」

 

 没頭していた思考から顔を上げると、いつの間にかランディがこちらを見上げていた。先ほどまで感じていた圧力は、今は感じない。


 さっきのは錯覚だったのだろうか?


 疑問の残る思考を、頭を振って追い払う。妙な圧力のことは気になるが、それよりも今は石斧作りだ。


 頭を切り替えると、割られた石の破片を検分を始めた。


「ふむ……これは石鑿に使えそうじゃな。石斧の刃もこれを削れば行けそうじゃ」


 そう言って、先が細く尖った石と、平べったくて片側が広がった細長い台形の石を拾い上げる。後は台形の石の底面側を研磨して、軽く尖らせてやれば刃の部分は完成だ。

 思っていた以上に順調で自然と頬が緩む。


「儂はこの石を研いで刃の部分を作るから、ランディはさっきのイチェの木から握れるくらいの太さの枝を取ってきてくれんか?」


 儂がそう頼むと、ランディは困惑した表情で肩を竦める。


「枝っつっても素手じゃ折れねぇぞ?」

「さっきの魔術で折ることは出来んのか?」


 硬い石が割れたのだ、枝くらいなら割れそうなものだが。そう思って訪ねると、ランディは黙って首を振った。


「さっきのは衝撃を与えるだけだから、枝みたいなしなるもんだと多分無理だな」


 対象を切断するならやはり風の魔術が必要らしいが、無理なら無理で別に問題はない。そのための石鑿だ。


「ならばこの石鑿を使うと良い。尖った方を枝に当てて、背の部分を適当な石で叩いて削るんじゃよ。ある程度削れば素手でも折れるじゃろ。折れたら余分な枝を削いで、取り回しやすい長さに整えるんじゃ。多少曲がっとってもよいぞ」


 人使いが荒いぞ、と文句を垂れるランディに石鑿を渡すと、儂は転がってる石の中で表面が平らに近いものを選んでその上に跨る。そしてポケットから水の魔道具を取り出すと、先ほど作った台形の石の底面側を軽く濡らして、平らな表面に擦り付けた。


 ゴリゴリゴリゴリ


 本当は細かい砂利などがあれば早く砥げるのだが、この近場に川が無いため砂利の調達が出来ないのだ。仕方なく今回は水のみで砥ぐ。


 ゴリゴリゴリゴリ


 前世でも山に籠って一から住環境を整えていた記憶が蘇る、森の空気は世界が違えど、どこも同じようなものらしい。マギアシュタットに四季は無いが、春めいた暖かな陽気に包まれた木漏れ日の降り注ぐ森の中で、木々の息吹を感じながら過ごすというのは、やはり心地が良い。


 ゴリゴリガキッ……ゴリゴリゴリ

 

 表返し裏返し、時に取り落としつつ、水をかけてはまた削る。完全に尖らせなくてもある程度細くなれば木を切ることは可能なのだが、幼子の腕力ではなかなかそこまで細くならない。

 一心不乱に石刃を研ぎ続けていると、やがて柄となる枝を持ったランディが戻ってきた。


「ほれ、こんなもんで良いか?」


 そちらを見れば、二尺(約60センチ)ほどの長さで、儂が握れば指が少し届かない程度の太さの枝を差し出してきた。


 多少手に余るが、この程度なら太さも長さも十分だろう。外皮が付いたままだが、石の小刀を作って削る手間が惜しいので、今回は適当な布を巻いてそのまま使うことにする。

 

「おお、十分じゃ。では、儂は刃を嵌める部分を削るゆえ、交代じゃ。儂の力では石刃が出来る前に日が暮れてしまう」

「お前、ほんと人使い荒いな……」


 なんだかんだ言いつつも付き合ってくれる辺り、ランディは本当に良い奴だと思う。


 ランディから柄と石鑿と鑿を打つための石を受け取ると、石刃の背を柄の先に当てて、柄に空ける穴の大きさを測る。当たりをつけた部分に鑿で軽く削り込みを入れると、ランディに水の魔術具と石斧の刃を渡した。


 一先ずはこの当たりに沿って反対側まで穴を開け、その後、台形に広がる石刃の背に合わせて穴を広げていくのだ。石刃と柄ががっちり噛み合っていないと力が逃げるので、削りすぎないように注意しながら掘り進める。


 カンカンカン

 ゴリゴリゴリ


 暫く石鑿を打つ音と、石刃を研磨する音だけが森の静寂に響いていたが、ふとランディが声を掛けてきた。


「なぁ、イリスは何でこんなこと知ってんだ?」


 突然の言葉に儂は思わずランディを見たが、当の本人は視線を手元に向けたままだし、口調も作業中の雑談をするような軽いものだ。

 ちょっと気になったから聞いてみた、くらいのつもりかも知れない。


 さて、どう説明したものか……


 別段、儂が前世の記憶を持っていることを隠すつもりも無いが、ありのまま話したところで信じてもらえるとは思えないし、さりとて嘘をつくのも憚られる。

 結局、当たり障りのない説明をすることにした。


「以前な、人に教わったんじゃよ」

「リヒトおじさんか?」

「いいや、父様ではないが……儂にとっては父様のような人じゃ。色々なことを教わった。木刀や石斧の作り方なんかもそうじゃ」

「ふうん……?」


 納得したようなしていないような曖昧な相槌を残して、再び沈黙が広がる。

 嘘は言っていない。全部を話していないだけだ。


 七つで天涯孤独の身となった儂は、戦場で一人の侍に拾われた。その侍こそが、儂の剣の師であり、育ての親でもあった。

 今にして思えば、武家の一将軍が戦場で死体漁りをしていた小汚い小僧を、よくも拾おうなどと思ったものだ。儂が風変りなのだとすれば、それは間違いなく育ての親の影響だろう。


「お前のその変な喋り方もか?」


 唐突な質問に目を瞬かせるが、質問をしたランディは相変わらずこちらを見ずに石刃の研磨を続けていた。


 言われるまで特に意識したことは無かったが、言われてみれば確かにそうかもしれない。

 思わぬところで己が亡き師の影を追っていたことを指摘され、少し面映ゆくなった。


「たぶん、そう……じゃな」



 時折、刃を合わせて穴の大きさを確認しながら掘り進めるうちに、石刃の方の砥ぎも終わり、いよいよ組み合わせとなった。


 石刃の背を柄の穴に合わせて、刃の方を石で叩いて押し込む。

 幾度か叩くと、がちっと嵌るような感触が返ってきた。刃がそれ以上奥に進まなくなったのを確認してから、柄を回して刃を下に向ける。石刃はちゃんと固定されていて、落ちることは無かった。


「よし、完成じゃ」

「おぉわったー! あー、腹減った。もう昼過ぎちまってるじゃねぇか。もうちょいしたら昼中の鐘が鳴るぞ」


 ランディが腹を撫でながら項垂れる。


 夢中になっていてまるで気付かなかったが、腹具合から察するに、昼を告げる鐘はとうに鳴ってしまっただろう。森の中では街から遠すぎて鐘の音が聞こえないので、時間の感覚が曖昧だ。

 ランディは大体の時間を把握できている様なので、森に慣れれば分かるようになるのかも知れない。


「すまぬ。昼までという話じゃったのに……」

「あー、気にすんな。中途半端に残して帰っても気持ち悪かったから……」

「恩に着る……いや、ありがとう、ランディ」


 改まって礼を言うと、鳩が豆鉄砲を食ったような顔でこちらを見つめ、ややあってから苦笑いを向けられた。


「お、おう……なんか、まともに礼を言われる方が違和感あるな」


 笑顔で感謝を伝えたのにその感想はいかがなものか。

 

母様はお昼を過ぎても帰ってこないイリスを心配しています。


次回、作った石斧を使います

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