1万円ボタン
適当に書いてみた作品。設定等ガバガバです。
超短い世にも奇妙な物語風小説.....のつもりです。
外回りを終え、会社へと戻る時だった。その「スイッチ」を見つけたのは。
『↓押したら1万円!!↓』
メモ用紙のような白い紙に、殴り書きのようにして書かれてた文字。矢印に従い下を見遣れば、ギャグ漫画によくありそうな、銀色の箱に赤く丸いアレがが添えられた、起爆装置のようなスイッチ。
どこへ繋がっているのかは不明だが、いかにも怪しげなそれは、電柱にぶら下がるようにして添え付けてあった。
1万円。押したら貰えるのか、はたまた黒いスーツの暴漢がやって来て、1万円を奪われるのだろうか?ただ1万円としか書かれていない用紙を見つめながら、私は変な妄想を働かせていた。
炎天下で頭がやられていたのか、私はそれを押した。赤い部分に手を添え、ぐぐっと力を入れると、「ポチッ」という間の抜けた音とともに、赤色の突起物は凹んだ。
それから十数秒が経過したとき、
「.....何も起きな...」
ピロリロリン!『アリガトウゴザイマシタ!』
沈黙に耐えきれずボヤいていた私の耳に届いたのは、ゲームをクリアした時のようなファンファーレと、実に機械的な感謝の言葉。
カシャッ!
そして、銀色の箱の部分から、紙のようなものが出てきた音。
「一万円だ...」
手に取らずとも半分だけ見えたそれは、天に上も下もないと豪語した偉人、福沢諭吉そのものであった。
恐る恐る手に取ってみると、透かしもあり、ナンバーにも怪しげな部位は見当たらず、れっきとした本物のお札だ、ということが朧気に理解出来た。
誠に不気味であるが、何の苦もなく1万円を手にした私の顔は、少しだけ綻んでいたと思う。
ああ、昼飯を買う前ならば良かったのに。カツ丼はうな重へと昇格していたに違いない。
そう考えながらも、私は会社へと戻った。なんのスイッチだったのかは検討も付かない。モヤモヤは残るが、それよりも夏の暑さが上回った。思考するべき疑問は太陽に焼かれ、涼しさを求める焦げ目に。手中にある万札を握りしめつつ、陽炎棚引くアスファルトの上を、いつも通り歩く。
うだうだ考えるのはやめだ。ただ目の前の幸福を謳歌しよう。
今夜の飯は何にしようか。
呑気な思考を働かせる男の背中を、赤い瞳が捉えていた。
───────────────────
「──十三時三十五分、確認」
「おう、案外早かったもんだな」
「人間、好奇心には勝てないもんですからね」
「相変わらず、悪魔みてぇな思考してんな、お前さんは」
「まあまあ、知らぬが仏とはこういうものですよ。実際、
あなた方の負担もかなり軽減できたことでしょうし」
「.....ま、事実だけ見りゃそうだがな」
「次はカフェにでも設置してみましょうかね、デートに来たカップルが、せーので押すやもしれませんし」
「.....好きにしてくれ」
見送った背中からは感情の無い機械のような、無機質な雰囲気を感じた。
「.....悪魔的だ、死刑執行を一般人の手に委ねるなんて...」
踏み付けた煙草からは何故か血なまぐさい臭いがして、思わず灰皿へと加えていたものを吐き捨てた。