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 ダイヤモンド王国における師団規模は2500人程度であり、旅団規模が500人程度である。大隊では100人であり、中隊では30人で、小隊では6から8人になる。

 その軍の規模はモンスターにおける師団規模級や旅団規模級という数から決められている。

 そして、近衛は2個師団で各将軍に関しても1個師団を率いている。

 ちなみに、近衛1個師団は王が動かせる者たちと近衛兵長が動かせる1個師団に分けられるが、基本は近衛兵長が2個師団を率いることになっている。


 ・・・・・・


 異世界生活―――21日目―――


 状況を説明するなら一言でいいかもしれない。状況は――"最悪"だ。

 バルルカルガという師団級規模のモンスター討伐中に、ゴゴルという旅団級規模のモンスターが戦場に入ってきたのだ。

 黒翼の旅団を率いる団長のカルバーニは、バルルカルガの堅い足を2本切断して笑みを浮かべている時にゴゴルに襲われて戦死した。


 ゴゴルとは、見た目サイクロプスという一つ眼鬼のような巨体と武器を使うモンスターだ。違いといえば、一つ眼ではなく三つ眼で使う武器が棍棒ではなく丸太のような大木だということ。

 クラレスの余裕は今では消えてしまって、負傷兵を次々と回復させていく彼だったが、団長を失った旅団はその戦力を一気に下げてしまっていた。

 戦場は混乱しているけど、さすがは黒翼の旅団は個々の戦闘力が高いからだろう耐えていた。


「こんなの無理だ…団長を失ってしまった、その上半死とはいえバルルカルガとゴゴルを同時に相手するなんて不可能だ」


 クラレスの言葉はボクには届いてなかったけど、たしかにその通りだと思っていた。

 アイナはバルルカルガとの戦いで引きずる胴の延長から背に登り、白い甲殻の隙間に刃を突き立てていた。

 しかし、ゴゴルの乱入でバルルカルガの動きが変化し、その時にアイナが足を滑らせて落下してしまい着地の間隙を引きずる胴に吹き飛ばされた。


 気を失った彼女を抱いて後方へ運びクラレスの拠点へ置いた後、ボクはゴゴルと対峙していたんだけど。

 大きさは高さだけならバルルカルガをも超え、その機動力は大きな人と考えてもらって構わない。

 戦いながら巨人との戦闘で大切なのは機動性であると理解し、それゆえにボクはまず走り続けたのだが。


「足下を走り回っているだけじゃいつか捉えられてしまうな」


 自分の足下を黒いのが走り回っていたとしてもそのうち踏みつけられるのと同じだ。それより羽虫のように周囲を飛び回った方が捉えられずらいだろう。

 どう考えても人が空を飛ぶのは無理。結果捉えられないためにはその視野を奪うのが最上の手段と言える。


「こんなに早く技を使えるなんて思ってもみなかった」


 気――実際にはエーテルと呼ばれるこの世界に混在するマナを吸収したボクの中にあるエネルギー、それを足に溜めることでまず足をサイクロプス――じゃなくて三つ眼の巨人の丸太に触れさえすればそれでタコの吸盤のように"気"が足と丸太を繋いでくれる。

 理屈は足に溜めたエーテルでモンスターや木の中のエーテルを引っ張る感覚、一度触れれば後は地面を駆けるのと同じだ。普通の人ならその丸太を振るわれるだけで空気との圧で潰れるか吹き飛ぶだろうけど、体を気で強化したボクには無意味というもの。

 三つ眼は予想のままに丸太を振るった。でもたったコンマ零一の距離にある瞳の前に移動するなど容易すぎて笑みが浮かんでしまう。


「まるで弱点が三つ揃えてあるようだね」


 剣を三度振るうと瞳はもうその中に光を取り入れることはないだろう。ま、モンスターなら自己再生くらいあるかもしれないけれど。

 と、ここまでは作戦通りだったけど、そのあとのビンタ――平手打ちを"避けることができなかった"のは予想外だった。

 吹き飛んだボクの体は、痛みはないものの地面を転がり平原の草を抉って50mは吹き飛んだ。


 痛みはないけど――意識がとんだ。たぶん数分だろうか…土を被った体を跳ね上げるとその光が視界に入った。

 紋章によって放たれた光線のようなものがバルルカルガの胴を貫いた。

 見えてはいないけどそれを放ったのはクラレスだったけどその一発で彼は倒れてしまった。


 ゴゴルは?そう思っているとそのバルルカルガの引きずる胴の部分に掴みかかっているゴゴルを見つけた。

 視界を塞がれたゴゴルがバルルカルガに掴みかかった経緯は分からないけど、この状況を好機だと判断したクラレスが奥の手を使ったのだとボクは想定した。

 その結果バルルカルガは――倒れていない。そういえば昆虫は多少胴が傷ついたくらいでは死にはしなかったな。


「アイナもクラレスも気絶した――」


 おそらくだけど旅団の連中も今はバルルカルガから距離をとっているはず。

 たぶん今しか"アレ"を試す時はない。


 今から試すのは"剣撃を飛ばす"という技で、腕に集めた気を剣へと移そうとすると無機物ということが原因なのか気自体が外へと出ようとする。

 その原理を利用した斬撃技というわけだ。成功するかどうかは定かではないけれど。

 なんとなくできるような気がしていた。


 暇な時に発見した剣から気が出ようとする勢いはボクの強化した体でも傷が付いた。

 威力としてはおそらく金属の類でも簡単に切断できる―――はず。


「剣の使い方は思い出したけどやっぱり斬撃を飛ばすなら居合いの構えの方がカッコイイよね」


 興奮して独り言を呟いたボクは剣を居合いのように腰のところに構えた。

 自身でもした事のない全力で"全身"に気を滾らせる。

 その瞬間周囲の草や土や小石がフワフワと浮かんでいるのも気にも留めないほどボクは集中していた。いや、集中"しすぎ"た。


 大気が震えるのにも気がつかないほど集中して溜めたその気を右腕へ、そして右手へ、最終的に普通のその辺にある標準な剣へと、その脆く強化もされてないその剣へと。

 振るった剣は一瞬で霧散し見えない何かへと変化した。放たれた斬撃はボク自身でも見えない速度と軌道で飛翔して行く。

 バルルカルガとゴゴルの傍にいた兵士はその瞬間のことを、「しばらく息ができなかった」と後で聞いたときにそう言った。


 バルルカルガはその胴と足を、ゴゴルはその腕と腰の部分を断裂させて大量の体液と血吹雪きを雨の如く降らせた。

 そして、二匹のモンスターは絶命して平原の奥に見えていた大樹の森と山が一部パックリと斬り口が開いていた―――らしい。

 ちなみに、その時その瞬間ボクは地面に全身を伏せていた。というか気絶していたんだけど…。


 おそらく気を使った結果空腹になってぶっ倒れたのだろう。

 気が付いた時には目の前に差し出されたパンに噛み付いていた。

 パンの持ち主は、「おはよう寝ぼ助さん」と笑みを浮かべるアイナだった。


 彼女はボクが空腹で気絶したと医者に聞いて三人前の朝食を用意していた。そしてその朝食を食べている間にボクが気絶していた間のことをアイナは話してくれた。

 アイナが眼を覚ました時には黒翼の旅団は拠点へ帰還していて、彼女自体は虫と三つ眼の二匹のモンスターの最後も死体も見ていないと言う。

 彼女の認識ではゴゴルの掴みかかられたバルルカルガが自爆した。結果、二匹は動かなくなって運良く戦いに勝利した。


「凄かったらしいわクラレスが紋章で攻撃したらしいんだけど、それが切欠だったんじゃないのかなって私は思うな」


 なるほど、確かにクラレスの破壊光線からのーバルルカルガとゴゴルの絶命…つまり要因はクラレスの紋章というわけだ。

 ボクとしてはそれはそれで結果オーライだったけど、その後のアイナの言葉に少し違和感を感じた。


「黒翼の旅団とクラレスはバルルカルガとゴゴルを同時に討伐した功績を王に賞賛され報奨が与えられ、そして、バルルカルガ討伐を指示した中佐は拘束されたの」


 黒翼の旅団が報奨を受けるのは納得だけど"クラレス個人"って完全に権力入ってるでしょ。

 アイナの説明では師団級の討伐は周辺に他の旅団級以上のモンスターがいないことが必須条件らしく、その調査を怠った責を命じた中佐が負うのは必然らしい。

 ま、あの中佐が軍から追い出されたのはレフィアさん的にいい知らせだった。だが、しかし、それでもクラレス個人が報奨を得るのは納得致しかねるが。


「それに比べて私とアナタはダメダメね…でも生きてるからそれでいいわよね」


 そう言ったアイナはフワッとした笑みを浮かべる。

 彼女の笑みを見て"そうだね"と答えることが、正解かどうかはボクには分からなかった。

 

 その日は拠点で一夜を明かし昼前にボクは平原へと足を向けた。

 バルルカルガの姿はなく、その理由は白い甲殻が高値で売買されていることから旅団が採取していったのだそうだ。

 たぶんだけど、あの中佐もそれが目当てでわざわざ討伐命令を出したのかもしれない。


 ゴゴルの死体はそのまま放置されていたけど、切り口というか断面が異常だと見てすぐに理解した。

 その表面は砂のように崩れ、だけど粒は蒸発してしまっているようだ。蒸発とは言ったけど現象として似ているだけでまったく別の状態なのかもしれない。

 ボクの頭ではそれを特定するだけの知識が足りないけど、多分そういうことだろうということにしておこう。


「にしても臭いなー」


「バルルカルガの体液のニオイだよ」


 不意に話しかけてきたのはクラレスだった。


「キミも気になったのかい?例の"神の業"を見にきたんだろ」


 "神の業"っていうのはボクの剣撃の事だろうか?

 確かにここへ来たのは威力がどれほどだったかみるためだけど、モンスターの死骸一つじゃー何も判断つかないな。


「巨大なモンスターが真っ二つってのはすごいな」


「ん?何を言っているんだい、そんなのは紋章でもできるだろ」


 クラレスは指を指して、「アレ見てみなよ」と言うから何気なく視線をその指の先へと向けた。


「……嘘だろ――」


 眼にした光景はまさに人外の破壊の痕だった。

 6mから10mほどの大樹の森の半分ほど伐採されていて、その奥の山が元々どうだったか知らないけれど、一度ダルマ落としの要領で中腹がなくなった後に山頂が落ちたって感じで不恰好になっている。


「それなりに高い山だったんだけど半分ぐらいになっちゃってるね」


 絶句である。興味本意でしていいことじゃなかったかもしれない。

 人を殺す事を覚悟した時よりもしてはいけないことをしてしまった感覚が強い。


 その時はボクも目の前の事実に驚くだけで疑問にも思わなかったけど、紋章が主流のこの世界で紋章もないボク――アインスがこれほどの力を持っているのがおかしいのである。

 ボクは二度と本気でというやつをしないことを固く決意してその場を後にした。


 後日、その森や山の一部が調査されてクラレスたちは王に報告しに王都へ戻った。

 そしてボクとアイナは新しく派遣された中佐にゴゴルの死骸の焼却任務を受け臭い中で作業して汗を流していた。

 ボクはクラレスが今頃おいしい物を食べていると思うと少しイラっとしながら目の前死骸を焼却していた。


「燃えろ――」


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