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30くらいはスタックしてる。



 転生――それは人が死んだ後別の世界で別の人や動物に生まれ変わる事を指す。それはボクの日常でもごくごく身近な物語の設定にある事。

 異世界とはロマンであり想像の中だけの存在なのだ。実際にそんな事になれば歓喜するのか悲嘆するかどっちなのだろうか。

 平凡な日常が心地よく感じられないのは、非日常を知らないからだろう。

 だから、実際転生してみれば分かる、元いた世界の平和さを――


 ・・・・・・


 異世界生活―――0日目―――


 かずき君って30過ぎて一人称ボクなんだ、と同僚の女性から言われたことがある。ボクがボクと名乗るのには理由があって、趣味であるVRMMOに重きを置いているからだ。

 仮想現実においてボクはボクと名乗り、現実よりも若い"設定"を演じている。いや、むしろこっちのサラリーマンの方が演じているのかも、ゆえに同僚の言葉には特にそう気になることはない。

 生活において仕事は一割で休みが一割で残り八割で構成されている。残りとは=趣味に繋がり、それさえあれば満足するほどだ。


 異性との交遊や恋愛などよりもネットを通し知り合った友、いわゆるフレンドと仮想世界で過ごす方がとても有意義なのだ。

 そして、ボクはそれの究極と言える世界を手にしていた。VRは視覚と聴覚に仮想世界との接続間があるが、それを超える五感のほぼ全てを仮想世界へと接続するFDVRが漸くこの手に入った。

 FDVRに関しては現在も発展途上で、まだまだ高額でありそれに加え多少のリスクもある。


 リスクとは、現実の脳と仮想の体を繋ぐために必要なインプラント型のデバイスを頭に埋め込む必要があった。その手術のリスクが百万人に一人というものだ。

 仕組みについては詳しくは分からないけど、できるだけ簡単にいうなら脳自体をPCにしてしまうということらしい。本当に詳しくは分からないのだけど、もっと深く言うなら"興味がない"だけど。

 ボクにとってFDVRは単に理想を叶えるための過程であり、結果さえ正しく叶えば多少のリスクなど取るに足らないこと。


 そうして、ボクは真新しいFD用の接続器と繋がった。横になって直ぐに仮想世界へと現れたボクは事前に作成していた見慣れた仮想体と繋がる。

 別のVRMMOタイトルでも同じような外見の仮想体を作ったから見た目二十歳前後、黒髪で筋肉質身長は現実より少し高い。

 FDVRでインストールしてあるタイトルはファンタジー系のMMOだったようなきがする。


 能力選択画面が出てくると見知らぬ文字を見つける。騎士・射手・拳闘士や魔術士といった見慣れたラインナップの中に、紋章騎士・紋章射手・紋章拳闘士・紋章魔術士。

 "紋章"の名の付くジョブは初めて見た。設定はザッと眺めて見ただけであまり覚えていない。

 説明のテキストが表示されているが、"紋章"とは身体や武器に付与しその能力を強化するもので天性系のスキルを持たない者が使うのが紋章らしい。つまり、紋章を使う者は才能の無い者を指している。


 そして、設定上スキルは早熟で紋章は晩成であるらしい。この選択は一度選択すると現在は変更できません、というテキストの下のOKの文字をタップすると視界が一瞬暗くなった。

 いよいよスタートするボクの新しい新世界――


 gggギィggggッギィイイギgggggッギ――


 異音と赤文字の警告文。表示された警告文が歪みpcの電源が落ちるようにボクの意識が無くなった。


 ・・・・・・


 意識が無くなって次に気が付くまでどれくらい経ったかもわからない。肌に感じる寒さはそれほどでもないけど、鼻に通る空気…いや、ニオイは田舎の森を思い出すような木々や草花のものだ。

 目を開けるとそこには土が見えた。体を起こし周囲を観察すると自身が窪みにいるのを理解する。抉れた地面は木の根を露出させ、零れ日が視界を照らして、思考が整理されていく。

 おそらくは仮想世界、そして、そう感じさせないリアルさはFDVRだからだろうか。しかし、この仮想世界は仮想世界と呼ぶには酷く現実感が強い。


「くしゅっ!!」


 クシャミの原因は下を見たら一目瞭然で、ボクが纏う衣類は何も無かったからだ。ゲームのスタートラインにしてはあんまりで、モザイクさえもされてない。

 もしかして女性の体を選択していたら――と一瞬考え、後に来るだろう運営へのクレームに顔がにやける。


「R15指定ですらないのに…これじゃリアルすぎて――」


 気配――空気が草木を揺らすのとは明らかに違う音。


「誰だ――」


 咄嗟にそんなことを言ってしまうあたりは入れ込みすぎとボク自身が思う。単純明解、ゲームで最初に出会う相手はモンスターかもしくは案内役のNPC。

 視線を向けるとそれが後者であると推察したのは白髪老人が弓を片手に立っていたからだ。

 老人はボクを観察して、「どうしたか――は見れば分かるのぉ」と言う。


「盗賊か山賊あたりに会ったというところかの?若いの」


 何を言っているんだこのNPCは?設定が酷すぎる、とボクは肝心な事に気が付く。UIが一切表示されていない、それどころかメニュー画面の開き方すら分からない。

 こういう時、自身の"やれば分かる"スタンスが恨めしい。


「おじいさん、メニューが開けないんだけど」


 NPCならメニューと聞けばそれ相応の返答が返ってくるはず。

 白髪の老人は溜め息を吐き、「余程酷い目にあったのじゃの、ほれついてきんさい」と話すと草むらをかき分けて歩いていく。

 冗談ではない、とボクはまだゲーム感覚で運営にレポートする内容文を考えながら後について行く。


「っ――」


 歩き始めて直ぐにバランスを崩し転倒しそうになるが、仮想体は軽く体を回転させて着地できてしまう。

 しかし、腕を棘の生えた植物に傷つけられて痛みを感じると思考が停止した。その理由は、皮膚が切れ血が滲み流れ出てきたからだ。

 現実ならそれは普通で当然な事がらだが、ゲームではありえない。血の表現は仮想現実では絶対に再現されない項目だからだ。


 血を見て失神は仮想世界、VRでも起こりうるからだ。ゆえに、血の表現の入るタイトルには注意書きとR18指定が表記される。

 それに――体が仮想体であるアバターにしては脆すぎる。棘で皮膚が切れるのなら尖った小石や木の枝で足を怪我しかねない。それだけじゃなく、体が傷ついているのにUIが出るようすもない。

 地形によってダメージが入るとなるとゲーム難易度的にシビアとしかいいようがない。


「ゲーム……じゃないのか?」


 だけど、その判断はまだ確実なものじゃない。でも、そんなことがありえるのだろうか?現実と思えるほどの仮想世界はまだ技術的に…。


「おぉ~ここにおったか若いの、悪かったのぉお前さん素っ裸だったなのを忘れておった」


 老人はその手に靴と服を持って再びボクの前に現れた。

 まだUIすら表示されていないのに最初のイベントなのか?と考えるがNPCにしては会話に自由、いや、先行して会話が始まっているのがNPCらしくない。でも、今時このくらいの会話はしてみせることもあるのかもしれない。


 疑念が渦巻いて思考がまとまらない、けど、まだゲーム以外の可能性は信じたくないせいでボクはゲームとして現状を捉えていた。

 古びた衣類に身を包み、何度も修復して使い古された靴を履くと疑念も忘れて、「ほぉ~」と自身のゲーム脳が活発化する。


「着心地はアレだけど、ファンタジーって感じがして悪くわないな」


 FDVRと思い込めば現実と大差ないし、五感の些細な部分まであまりにリアルで――


「お主…出身はどこじゃ?この辺の者じゃないだろうその髪――おっと、すまんのぉ名前を名乗って名前を尋ねるのが先かの、ワシの名はバルサじゃ」


 老人、いやバルサはゲームにとって肝心な最初のスタートラインにようやくボクを導いてくれた。プレイヤーネームの設定はゲームと言うジャンルだけではなく、SNSや動画サイトのコメント欄、いろいろな場面で最初に起こるイベントと言える。

 今回はどうしようとかこの世界ではカッコイイ感じでとか、まー誰もが一度は思考することであり経験しない人はまずいないイベント。そう言うボクも色々と思考を巡らせるて、いつも使っている名前にしようかそれとも本名をもじるかなんて考えていた。

 本名―――そう、ボクの本名は――


「あれ?……そんな――ありえないでしょう」


 ボクの本名が出てこない。

 脳をグルグルと回して自身の名前を思い出そうとする、が、そんなものは始めからなかったかのように記憶の引き出しのどれを開けてもそれは見つからない。

 

「どうしたんじゃ?…まさか、"名前が思い出せん"のじゃないかの?」


 混乱するボクを見てバルサはそう言う。そして、あぁやっぱりかという風に彼はボクにこう言った。


「悪戯の精霊ファテナにやられてしまったのじゃろうな」


 悪戯?精霊?そんなこと…!そうか!これはゲームの設定!つまりは現実の脳にインプラントされているデバイスによる記憶遮断の効果!

 実際にそれができうるのかはその時の自分を納得させる理由になれば関係なかった。

 全てはゲーム上の設定――そう解釈してしまえばなんてことはない。ただ、思い込めば少し設定の下地や裏地が確りとしているというだけのこと。


 とりあえずまずは名前だ。そう思い立てば自身の現状や自身のこのゲームでの立場を理解してそれを口に出す。

 口元を触り、「はぐれ」とイントネーションを"は"の部分に置いてそう言った。


「なんじゃ覚えておるじゃないか、ハグレ……不吉な名じゃの――」


 不吉?はぐれが不吉と言うのはどういうことか?とバルサに聞くと彼は、「常闇の精霊ハグレというのがおっての――」と丁寧に説明してくれた。いや、プログラム通りにセリフを話しているだけか。

 常闇の精霊ハグレ――十八の精霊の中で一番凶悪でこのゲームでは寝ない子どもに言う事を聞かせるために寝耳に聞かせる。闇で孤立した人を深淵の常闇に引き込むことで有名で、その後深淵に引き込まれた人はただ暗いだけの他になにもない場所で死ぬまで。


「常闇の精霊ハグレ――か」


「ハグレ…おぬし、やはり記憶が――」


 バルサの言葉にボクは、「そうですね、少しばかり思い出せないことがあるようです」と設定を演じてみた。ま、RPGとは本来こういうものだからな。

 そして、どれだけの記憶、いや知識と言うべきなのかな、それを持っているのかを彼に話すことになった。

 歴史、文字、日常的な一般常識の欠如、そして、決定的なのは紋章についてだろうとバルサは言った。ボクの知識では紋章とはスキルの下位互換であり、晩成型の能力で晩成後もその実はやはりスキル下位互換でしかない。


「スキル?なんじゃそれ?聞いたことないのぉ」


 スキルなんてものはこのゲームにはない、紋章とは血統で受け継がれる唯一無二の能力。身体向上が一つ、武具強化が一つ、モンスターを操る方法が一つ。


「紋章はその数で能力差が出るし、加えて何に使えるかで大きく力の差が出るんじゃよ。例えばワシは耳――」


 バルサは右耳に右手をそえると、ファンタジーでありがちな魔方陣のようなものが空中で半透明に浮かぶ。


「ほれ、これでワシの耳はかなり遠い音を聞き分けられるようになって、あと動物やモンスターの動きも目で見るように分かるからの」


 設定が変わってないか?などという話はもう既に細かいことは気にしても始まらないと思って頭の隅に追いやった。

 紋章は代償のない能力、一番効率のいい用途が身体であり次が武具で、モンスター操作などは邪道とされている。一つは使えて当たり前、二つ使えれば強者、三つなら天才と呼ばれ四つは英雄と称され、五つは今の所伝説や伝承の領域。


「努力で伸ばせるのは能力の強弱、つまりはワシのように耳に使う者は耳に関して以外はまったく昇華しないんじゃよ」


 つまり、スタートした瞬間にゴールが見えているということだ。そして、バルサの次の一言でボクは再び頭を悩ませる。


「ハグレよい、おぬしは親にそれを教わっておるか?いや、仮に教わっていたとしても記憶にないのじゃろうて。紋章の言葉すら覚えておらんのじゃからな……そうなると、おぬしがどんな紋章を受け継いでおってもどう発動させるのかも分からんわけじゃ」


 紋章拳闘士どころか一般人というジョブなのではと思うようなその言葉に、「どうにか紋章を使う手立てはありませんかね?」と尋ねてみるが首は横に振られて自身の最初の目的を理解した。

 ボクがまずしなくちゃいけないことは"紋章の発動方法"を探すということらしい。初動で設定が面倒だとユーザーからの不満が多いだろうななんて考えていると、「正直言ってワシの知る限りはないの」とバルサは森を歩き出して一度振り向き、ついて来いと言わんばかりに腕を振った。

 森を出るとそこには小さな集落があった。おそらく三家族が暮らしているだろうその集落はおそらく狩猟で生計を立てているのだろう。熊?の毛皮によく分からない小動物の干物が干してあった。


 見慣れない人に向ける視線は必然的に猜疑心になる。しかし、その視線が和らぐのはバルサが傍にいるからだろう。

 そしてバルサがボクを連れて向かったのは一番大きな家屋だった。バルサが戸を開けると、「ワシの家じゃて別に何かあるわけでもないが話しをするには森よりまだよいじゃろうて」と言う。

 家の中は一人で暮らしているようで、物が少ないが部屋数や机の大きさ椅子の数から家族で暮らしているように感じた。それから、ボクは一時間ほどかけてバルサと会話したがゲームをしている感覚を忘れてしまうほどに彼との会話はプログラム感が皆無で、再び"ゲームではないのでは"という疑問を思考していた。


 今ボクがいるのは大きな大陸の中央近くで、中央にある王が統治する国ダイヤモンド、その東の森林地帯に位置する村。中央にある都市へは陸路のみで歩いて約2日かかる距離。

 南北の方がもっと広いのだろうか?と推察するしかないのは現状地図というものがまだないからだ。バルサも皿などの食器を使って丁寧に説明してくれたが、曖昧で半端だったためやっぱり理解した部分も半端だったけど。

 次にこの国に関して話した。主に紋章に関係する話で、軍隊として紋章を持つ者が大半を占め持たざる者は農民や商人になる。


 紋章もその能力によっては軍には入れないらしい。ゲームの世界観は中世の欧州と日本の江戸の終わりとファンタジーを混ぜたような感じかな。

 中央に権力財力が偏り、圧倒的に貧富の差がでているが、その実モンスターと呼ばれる魔物魔獣の類までいるのだから情勢というものは複雑のようだ。

 話をしている内に眠気がピークになってついついアクビが出る。それを見たバルサは玄関から入って左奥の部屋を指差して言う。


「あの部屋を好きに使うとよい、夕飯は期待せんでくれ冬に向けて蓄えもあるでの」


 さすがに明日の仕事に関わるからログアウトしたいところだったため、ボクはそのベットに横になれば視界にログアウトの文字が浮かぶに違いないと考えていた。


「はーすごくリアルだったからついつい会話に熱が入っちゃったな~、明日会社から帰ったら三連休足す有給の四連休だからな週末はゲーム三昧だな」


 部屋にある鏡を覗きながら、「にしてもイケメンだな、ちょっと、いやかなり設定したのと違うような気がするけど」と仮想体の顔を触る。口の中や鼻の中の毛まで再現されているのは驚いた。

 どんな技術革新があったらこんなに精密な再現ができるのかと思うほどだった。

 さっそくログアウトを期待してベットで横になる。数分経ってもその兆候がなく、やがて睡魔で意識が薄れる。


 ・・・・・・


 ゲームとは娯楽であり、退屈をしのぐための暇つぶしである。だが、時にそれは仕事であり、生活の糧で楽を失うものにもなる。

 ボクにとっては前者であり、日々の糧ではあるが生活の糧ではない。現実は退屈でいて、辛く、厳しく、幸薄いものだが、それを誤魔化す楽が唯一の救いだ。

 そんなゲームがゲームでなくなってしまったなら、ボクはその時素直にそれを受け入れられないだろう。どんなに想い馳せる世界であろうと、現実になってしまえばそれは現実でしかないのだから。


「・・・レ――ゥレ――ァグレ――ハグレよい」


 ハッと目を覚ますとそこには見慣れない老人がいた。


「あなたは……ここは…」


 と周りを見渡した所でようやくボクは思い出した。ここはボクがゲーム、FDVRの中であると考えていた場所であり、目の前の老人はバ…バ――。


「バルタンさん?」


「バルサじゃて」


 すぐに突っ込みが入るもボケている訳ではない。ボクは単にNPCだと考えていた老人だったため覚えようとしていなかったのだ。

 ログアウトできない。その事実にボクは混乱しバルサに口早に聞く。


「ログアウトできないんだ!仕事もあるのに…どうなってるんだよ!運営にどうやって連絡すればいいんだよ!」


 突然騒ぎ出したボクにバルサも困惑し、「どうしたんじゃ、落ち着くんじゃハグレ」と宥めようとする。


「ハグレ?!違う、ボクは――ボクはっ…!一体どうして――」


 そして、唐突に思い出したFDVRでの強制ログアウト方法を口にする。


「緊急ログアウト!緊急ログアウトだってば!!」


 その言葉は部屋に響きその後の静寂がボクに絶望を与えた。そうして、ボクは部屋の隅で立ち尽くし、数十分後にはベットの上で膝を抱えて座っていた。

 ボクの声で異変を感じた近所の人がバルサを尋ねてきて、「精霊に――」と説明する彼の声が部屋にまで聞こえてきた。

 その後はしばらく呆然と座り続け、夕食時に声をかけてくれたが食欲など皆無に近かった。


 電気のない闇に月明かりだけで肌寒い体が余計に気持ちを落とさせる。ふと思いついて立ち上がったのはまだ試していないことがあったからだ。

 ボクが初めてこのゲームと思っている世界で目覚めえた場所、森の中のあの窪みの中心に行けば。

 はっきりした記憶を辿りその場所へ向かうと、夜だからだろうかやたら不気味で加えて微かな希望が消えてしまう恐怖に足取りが重い。


 月明かりしかないにもかかわらず、森の中はやたらとはっきり見えるのはこの体の眼がいいからだろうか。

 窪みへ降りると視界にUIを探し、手を左右上下に振ったりしてメニュー画面を探す。そして呟く最終手段は森の中の静寂に消え去っていく。


「コレはゲームなはずだろ?どうしてボクがこんな目に――」


 と窪み手を突いた時だった。すべて納得させる真実をボクは見たのだ。

 頭に痛みが走って意識が薄れそうになる。ほんの一瞬、刹那の間に映像が走馬灯のように流れた。


「これは――」


 『聞いたか?この仏さんインプラントの漏電で死んだらしいぞ』と右側の男が言う。すると、『インプラントってあのフルダイブの頭に埋め込む奴か?あんなの入れる奴本当にいるんだな』と左側の男が言う。

 これはボクの記憶なのか?そう理解して二人の会話を聞き続ける。


 『仏さんの親が葬儀まで霊安室で保管してくれだってさ、薄情だろ?規則上制限はないけどあんまりだろ』と右の男が言う。左の男は苦笑いで『ま、仏さんの詮索しすぎないことが吉だよ』と言う。

 仏さん?霊安室?ボクは死んだのか?インプラントの漏電で?確立一千万分の一を引いたのか?


 ドラマなんかで見た霊安室のその狭い箱の中に収められるその瞬間までボクの意識はそこにあったんだ。そして、次の瞬間には別の記憶が再生される。


「一体どうなってるんだ?」


 『あなた、ほら見て!なんて可愛らしいのでしょう!』と綺麗な女がボクを見下ろして言う。すると、足下の方から顔を覗かせた男が『当たり前だろ?ボクらの子だぞ、ほらこの辺なんかボクそっくりだ』と言う。

 それからアルバムでも見せられているかのように映像が移り変わり、再び二人の声が聞こえた時だった。


 『体調には気を付けるのですよ』と女、『ボクが教えられることはもうないかな』と男。そして、ボクが「行ってきます父さん母さん」と言うと二人は『アインス――行ってらっしゃい』と言った。


「そう…だった――ボクは"こっち"で育ったんだ。両親がいて、学校で学び、友もいた――かもしれない」


 そうして思い出した記憶のかけら、始めからゲームなんて物はなかった。こっちでの記憶が何かしらの原因で消失し、その後生まれ変わる前――転生前の記憶が戻った。なんということだと頭を抱えるのが当たり前の事実。

 いつの間にか倒れていた体を起こしその場に立ち尽くす。


「これは罰なのかい?ボクがリアルより仮想世界を優先していたから?善いことをしたと神が思っているのなら――あんまりの仕打ちだ。ボクはあの平和な世界で憧れに想い焦がれる方がまだ性に合っているんだ」


 ゆえに――この記憶は邪魔でしかないもので本当の意味で相応しくない。

 ボクはただ単に視聴者でユーザーでプレイヤーで良かった。キャラクターにもクリエイターにもゲームマスターにもなるつもりもなかった。


「まして物語の主人公みたいなこんな…」


 流れる涙は日常の終焉に捧げられたもので――


 口元に刻まれた笑みは真実に落胆した明かしで―――


 握り締めた拳は震えているのは武者震いか不安感か――――


 ただ言えるのは、この世界は必然的に運命的に圧倒的に―――現実(リアル)―――でしかないということだ。



毎日投稿できればなー(面白いかどうかは分からないけど、読みにくいかも――素人だからね)

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