表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

7/24

第七話 人材確保は大変だし、最初からできるヤツなんかいない。

 ■天文一〇年(一五四一年)七月 甲斐国 躑躅ヶ崎館(つつじがさきやかた)


 重臣に大見得切った以上、気合入れて食糧の確保をしないといけないよな。とはいっても、まず、おれには頼りになる部下がいないのが問題。


 とりあえず、信濃小県(ちいさがた)(長野県上田市)の矢沢頼綱さん、矢沢源之助さんだな。この人はおれの記憶でも、真田弾正(幸隆)さんの弟のはずだ。きっと、テレビで観た草刈さんにタメ口きける一族長老風のお爺ちゃんのはず。弾正さんの息子が昌幸さんイコール草刈さんで、その叔父さんだから辻褄あうね。

 矢沢源之助さんは、アニキから呼び出してもらうことにした。お兄さんの真田弾正さんもどうせだったら、一緒に来てほしいのだけれども、今は上野(群馬県)にいるらしいので、後回しだな。


 矢沢源之助さんが来るまでぼーっとしているのもなんだし、食糧確保を考えよう。とりあえずは救荒作物で甲斐で栽培できるはず、と書いてあった蕎麦、ジャガイモ、カボチャだな。

 ただし、ジャガイモとカボチャについては、確か南蛮貿易で手に入れるはずだから、今はきっと無理だろう。となると、蕎麦が第一優先だな。そば切りにしなくても、蕎麦がきや蕎麦餅にできるはずだし、兵糧丸という、行軍食にも使える気がしたぞ。


 とはいえ、蕎麦を栽培しようにもまずは種を仕入れないとな。


「なあ、たろさ。蕎麦を栽培しようと思うんだ」

「ふーん、蕎麦か。うまく栽培できるのかなあ」


 へなちょこアニキはしゃっきりしない返事だな。

 蕎麦を知らないか、読書の邪魔をするなか、おれはいまトンボを観てるんだよ、のどれかだな。当てにならないことこのうえないな。

 とにかく人がほしい。でも、人がいない。そういう時は、アウトソーシングってやつだ。


「たろさ、最近売り込みに来た商人っていないか?」

「坂田さん、って商人が来たようだけど、よくわからないな」

「あー。じゃあ、坂田さん、呼んでくれ」

「うん。わかった。呼んでみるよ。確か西のほうからきた人だ。でも、じろさ、苛めてはいけないよ」


 軍議で重臣を前にして啖呵(たんか)を切ったのが、アニキにとっては強烈だったらしく、どうもおれが怖い人ということになっているようだ。

 本当は違うのだけれども、もうおれは北風と太陽の『北風』でいいや。その方がアニキも本質的にやりやすいだろう。


 最近売り込みに来た人をオーダーしたのは、今の甲府の商人とあまり関わってない方が、新しいことをやりやすいし、きっと頑張ってくれると思ったから。

 それに、これから商人から税金をうまく取ろうと思っていて、手伝いをさせたいからだ。今までは、軍資金が足りなくなったりした時に、臨時で徴収していたみたいだからね。

 むちゃくちゃアバウトだよなあ。


 誰しも武田領内では税金は定期的に払うものだ、って形にしないとな。平成の時だって、大きな会社などは法人税を払っているはずだし、小さな商店などでも青色申告がなんだと言っているから、これまた税金は払っている。

 江戸時代でも、農民以外は払う税金はあまりなかった、って書いてあったはずだ。

 仕組はこれから考えないといけないけれど、みんなから定期的に税金取ります、という方針でいこう。


 お金といえば武蔵(東京都・埼玉県)に近い黒川というところに金山があって、金堀衆という人たちが金を掘っていて、金が上納されてくるのだけれど、どのようなシステムなのかが把握できていないから、呼んで確認しないといけないな。

 いずれにしても、金山からの金は臨時収入で、特別な出費の際に使うように、別枠で考えていたほうがいいだろう。いつ枯渇するかわからないしね。


 とりあえず、人材については矢沢源之助さんとその伝手でお兄さんの真田弾正さんに来てもらいたい。あとは、商人の坂田さんルートで探してもらうのがいいだろうね。

 ほしい人材をゲーム脳で考えれば、それこそ、滝川一益さんや、秀吉さんも気になる。

 滝川さんは、おれと同じ年のはずだが、現在は、甲賀(滋賀県)あたりで六角氏と関係が強いだろう。忍者かどうだかはわからない。もしかしたら、浪人してるかもしれないけれどね。


 いずれにしても、滝川さんに来てほしいと思って、使いをやって接触したり、手紙を送ったとしよう。

 貰ったほうとすれば『何で甲斐の田舎大名の弟がおれのこと知っているんだよ!?』って驚いてむちゃくちゃ警戒するはずだ。六角氏に仕えているのなら下手すると内通を疑われるから無視するだろうね。せめて知り合いの知り合いぐらいの伝手がないと無理だろ。浪人していたとしても、従弟の池田恒興の伝手を頼って信長に仕官するのが自然な流れだろう。あまり期待はできないな。


 現在、幼児の秀吉くんをさらってきたとしても、史実の秀吉並みの活躍ができるはずがない。秀吉は、三十回ぐらい職を変えたっていうし、農民出身なので、今川家配下の仕官した松下家できっと苛められただろう。そういった苦境を乗り越えたからこそ、人心掌握が得意になって実力を発揮できたんだと思う。


 チートなんて、あり得ない。素質はあったとしても氏より育ちというだろう。環境によって、素質に実力が伴って、他人よりずば抜けた能力を発揮できるようになっただけだろ。傑出した人材ってだけだ。


 家康だってそうだ。人質暮らしをしたり、我が武田家との戦いにボロ負けして、脱糞しながら泣いて逃げたから、我慢強くなったり、悔しさで実力を上げたんだと思うよ。


 だから、今は『トンボだあ。夏だねえ』などと暢気に庭を散歩しているへなちょこアニキも、これから一緒に甲斐を何とかしているうちに、実力がついてきて、世に知られる大名になるはずだ。

 いや、本当に頼みますよ。お兄さん。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ