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第二四話 信玄堤を着工しよう。の前に川の流れを変えよう。

 ■天文一〇年(一五四一年)九月 甲斐国 躑躅ヶ崎館


 信濃国諏訪郡(長野県)は楽に攻め取れる見込みがついてはいるが、結局のところは飢餓に苦しむ領民を抱えるだけということがわかったので、来年までは地道にやれることをやっていこう。

 富田郷左衛門さん配下の甲州透破と、真田弾正(幸隆)さん配下あづま衆には、諏訪郡の情報収集と男女問わずに忍びの素養のある人材の、確保というか人(さら)いを重点項目としてお願いしておいた。

 平成の感覚だと人攫いなどは外道のようにも思えるけれど、餓死するよりは絶対ましなはずなので、断じて攫ってきてもらおう。


 ともあれ、月が替わって待ちに待った稲刈りシーズンの到来だ。幸いなことに野分(のわき)(台風)の影響もなく、植えた分の稲はまともに収穫ができるとのことで少し安心だな。

 ヒョロ沼こと青沼助兵衛さんと商人坂田源右衛門さんの活躍で、御料所(ごりょうしょ)と呼んでいる武田家直轄領で収穫された米は、全て甲府の取引所で米座に加盟している商人のみが取り扱いできるように、仕組み作りをしてくれた。


 御料所の農民が今までより有利に米を売れるとなれば、来年には家臣の領地で収穫した米も取引所で扱うようになるだろう。

 領内の農民も高値で米が売れるようになって、いままでよりは確実に余裕が出るはずだから、バンバン仕事と子作りに励んでほしい。領民に余裕が出て子作りをして人口が増えないと、国力が増加せずに行き詰ってしまうからな。


 稲刈りの後は、モミを貸し出すので小麦を播いてね。もちろん、田んぼだけでなく、畑でも小麦を播いてほしい。来年には、自分で作ったほうとうを食べられるはずだ。

 史実で信玄公が信玄堤を造るのに、二十年近く掛かったと聞いて、悠長なことをやっているものだな、というのが正直な感想だったのだけれど、遅いようでまずは領民が満足に米を食べられるようにするのが、先決だということがわかったよ。貧乏脱出大作戦だな。


「じろさ、竜王(山梨県甲斐市)に行かないか? 堤の普請を説明しておかないとね」


 おっと。出不精のアニキが珍しいことを言い始めたぞ。しかし、この流れは堤防工事の責任者はおれになるわけだな。まあ、アニキが責任者として現場に行っても、毛虫だ、芋虫だってキャーキャー騒ぐに決まっているだろうし、暗殺も怖いからな。

 わかりました。おれが堤防普請の責任者をやるよ。


 ■天文一〇年(一五四一年)九月 甲斐国 竜王付近


 まず、竜王になぜ堤防が必要なのか説明しておこう。

 大雑把にいうと、甲斐の大きな川は『Y』字型をしている。『Y』の左側が信濃(長野県)国境辺りから流れてくる『釜無(かまなし)川』といって、右側が武蔵(東京都・埼玉県)国境辺りを源流とする『笛吹川(ふえふきがわ)』だ。

 本流ともいえる釜無川と笛吹川が合流した以降は、富士川(ふじかわ)と呼ばれて、南の駿河方面に流れ太平洋に注ぐ。


 二河川が合流した富士川の甲府盆地出口に、『兎之瀬(うのせ)(山梨県富士川町)』という難所がある。山塊によって、富士川の幅が一〇〇メートル程となる狭窄(きょうさく)部となっているのだ。いざ大雨ともなれば、細い兎之瀬に甲斐の三分の一ほどの面積に相当する地域の雨水が全て集まるので後はわかるよね。ボトルネックとなって、うまく水が流れずに溢れて頻繁に洪水に襲われる。『山梨三大無理な話』や『できない相談兎之瀬の開削』といわれた狭窄部の開削の難工事が完了したのは、なんとおれが生まれる直前の平成になってからのことだ。


 兎之瀬はともかく甲府に近い竜王の話だ。竜王は釜無川が山地から抜け出た辺りの扇状地(せんじょうち)だ。山地で削られた岩が小さく砕かれて砂礫(されき)となる。山地から抜けて河川の勾配が緩くなった箇所に、上流から流れてきた砂礫が堆積してできた地形だな。社会の授業で覚えたね。そもそもが、砂礫が堆積して、河床(川底)が上昇しがちな地形だ。


 平成でも、釜無川の土手上を走る道路は、土手下の家屋の二階建ての屋根よりも、遥かに高い場所を通る部分もある。竜王付近の釜無川は河床(川底)が周辺の平地よりも高くなっている、いわゆる『天井川』地形となっているんだ。


 ただでさえ、洪水となって堤防から水が溢れると大惨事となる天井川の釜無川なのに、竜王付近では西側の山地から流れてくる急流で、これまた天井川となっている御勅使川(みだいがわ)がほぼ直角で合流している。大雨の際には、増水した御勅使川が直角に釜無川に合流すれば、当然反対の東側の堤防が決壊して川より低い平地(甲府盆地)が水浸しになるのが、見え見えだろうが。どうすればこの地形で洪水を防げるんだよ。堤防の(かさ)上げなどでは焼け石に水ではないのか?


「たろさ、この地形で洪水を防ぐのは無理ではないのか?」


「御勅使川の川筋を上流に変えて、釜無川に斜めに合流させるんだ。新しい合流地点の反対側には崖があるからきっと大丈夫だよ」


 なにやら、アニキがスケールのでかい話をさらっと言いはじめたぞ。なるほど。確かに斜めに合流させれば、直角に合流するよりはスムーズに水を流せるだろうし、アニキが指差す合流地点の向こう側にある三〇メートルほどの高さで連なっている崖が堤防となってくれるわけか。


「川の流れを左様に変えることなどできるのか?」

「大丈夫! 金山衆に任せるとうまくやってくれるはずだよ」


 すごいことを考えるのな。へなちょこアニキのことをかなり見直したぞ。


「じろさ、ここにたくさん芋虫がいるよ。殿(しんがり)はじろさにまかせたよ」


 せっかく見直したのだから、芋虫ごときに怖がらないでほしい。芋虫は攻めてこないだろうが。


「たろさ、わにわにしちょし!(ふざけないでくれよ)」


◇◆◇◆◇◆

『わにわにする』で(ふざける、調子に乗る)、動詞プラス『ちょ』で禁止。語尾の『し』は命令を和らげる意味があります。『わにわに』ってかわいい響きですよね。どこかで使ってみてください。(作者)

※療養中のため、2017年10月一杯休載させていただきます。申し訳ありません。どうぞよろしくお願いします。


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