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第一一話 透破の頭領とニュースが二つ。

 ■天文一〇年(一五四一年)七月 甲斐国 躑躅ヶ崎館


 念願の忍びについては、めでたくおれが管轄できるように調整がついたので、さっそく情報収集をお願いしたい。少しばかり、偉そうなお兄さんがいたので、頭領になってもらおう。富田郷左衛門(ごうざえもん)さんというんだって。期待してしまうな。


「郷左衛門、頼むな。期待しているぞ!」

「はっ」


 よかった。さすがに怯えていないな。


「いろいろと教えてほしいんだ」

「何なりと」


 短い言葉での応答が『できる男』という感じで小気味いいね。郷左衛門にいろいろと忍びについて教わることにしたよ。仕事を依頼するにも、何ができる、何ができないか、わかっていないとね。基本的には情報収集が一番得意。僧侶や行商人などの旅の人の格好で他国に潜入するのが殆どだそうだ。噂話を広めるというのも情報収集の担当者が行なうので、かなり手軽にできる仕事らしい。

 あとは、手紙やちょっとした物を届けるなどは簡単お手軽だな。おれの仕事もやりやすくなるね。


 敵の城に潜入するのはちょっと大変みたいだ。確かに城の仕事に採用されるなどの下準備が必要だから、しばらく城の近くに住んだりしないといけないからね。

 敵将を暗殺するなどは、難易度特Sといった趣きだ。相手も警戒しているから、返り討ちにされて、熟練の技術者を失うケースがあるので苦い顔をしたよ。やめてくれ、と言っているようなものだな。


 現在は六〇名ほどの透破さんがいるそうだ。とりあえずは、駿河国、相模国、信濃国の諏訪郡、佐久郡、伊那郡、小県郡、上野国あたりの隣国の情報が常に手に入れられるようにお願いしたよ。


 武田家の歩き巫女という、巫女さんの格好をした女性忍びのことは聞いたことがあったので、訊ねてみたら、


「ふふふ。典厩様も良きところに気づきましたね。女性ならではの効果は大いに大いに期待できるのですが、人手が足りんのです。使える手は現在は一人しかいません。遠方におりますので、戻りしだい、典厩様に引き合わせましょう」


 ですって。

 まだ歩き巫女は組織化できていないみたいだ。効果が期待できるのならば組織化しないとね。重要課題だな。くの一さんもだが、透破さんは待遇が悪いので、何とかしてほしいということと、人手不足が深刻だそうだ。これは早急に何とかしないとな。


 やっぱり各地で現在進行形で発生している戦災孤児を、引き取って育てる孤児院を作るべきだろうな。

 とりあえずのところ、場所はお寺でいいだろう。必要だったら建物を建ててあげる。

 孤児院で見込みのある者は、内政官を含めた武士や忍びに取り立てればいいし、全く見込みがなければ、金山や治水工事などの土木作業をやればいいだろう。

 これは、アニキに相談して、というかアニキを言いくるめて、予算を強奪しよう。


 諏訪郡に時期未定で出兵予定というのは、すでに武田家の規定路線なのだが少々説明しておこう。

 甲斐から南へメインルートは、駿河の今川領。当主のマロには姉貴が嫁いでいるので友好国。生活必需品である塩の輸入ルートでもあるので、そのまま友好的な関係を続ける方針だ。


 東へのメインルートは、小山田氏が治める甲斐東部の郡内地方を経て相模の北条領だ。こちらは、小競り合いはかつてあったが現状は小康状態。

 北条氏は今川氏とも河東(富士川の東の駿河国)で紛争中でありながら、関東管領山内(やまのうち)上杉氏、扇谷上杉氏とも争っている。国力は我が武田家よりかなり上だから、真正面からぶつかりたくない。下手すると郡内地方の小山田氏が北条方に寝返る恐れもあるしな。友好関係をできれば結びたいところだ。


 北のマイナールートの信濃国佐久郡は、今月山内上杉家に奪われてしまった。関東管領である山内上杉家は権威だけでなく勢力も馬鹿にならない。特に今回佐久郡に攻め入った上野国箕輪城(群馬県高崎市)の長野業正(なりまさ)が強力だ。これまた、真正面からぶつかるのは得策ではない。


 残る西のメインルートの信濃国諏訪郡は、甲斐からは他のルートよりは楽な道だ。平成で山梨県西部の小淵沢(山梨県北杜市)の人などは、スーパーが一つしかないこともあって、県境を越えて富士見町や茅野市、諏訪に買い物に行く事があるというくらい、甲斐西部と諏訪郡は密接な関係でもある。


 重要なのが、諏訪郡を押さえると、小県郡、筑摩郡、伊那郡、木曽地域へのルートができる。

 諏訪郡は交通の要衝というわけ。しかも、領有している諏訪氏は、勢力としてはさほど大きくない。単純比較でいえば、武田家単独でも圧倒できそうなほどだ。

 あとは、確たる名分と兵糧問題さえ片付けばゴーサインだ。


 そのようななかで、ニュースが二つ。一つは確実に朗報で、もう一つは朗報か凶報か、いまいちわからない。


 まずは、わからないほうのニュース。


『北条氏当主北条氏綱死去』


 外交関係が少々変わってくるのかもしれないな。だが、とりあえず礼儀としてお悔やみの使者を出して様子見だろうか。


 そして、確実な朗報。


『矢沢源之助(頼綱)経由のラブコールにより、真田弾正幸隆が、武田仕官予定とのこと』


 やったあ! 真田弾正さん、来てくれるとはね。


 どうやら幸隆さんは、山内上杉家が佐久郡だけでなく本領の小県郡まで出兵するのを期待していたみたい。ところが、佐久郡を得ただけで引き上げてしまったのが、気に入らなかったみたいだ。

 武田家での大活躍を期待してしまうな。

 それこそ、諏訪でも得意の調略でうまく落としてくれちゃうかも。

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