第1話 旅立ちと出会い
俺の名前は華澄麼繼龝。15歳で、あと一週間もしたら高校生である。地元を離れて都会の大きくてキレイな高校へ通うことになっている。
ここで俺のスペックを紹介しておこう。
身長は176cm 体重は68kg で、まあ低くはない。
太ってはいないが細いわけでもない。
・・・・・・顔は、ブ、ブ、ブサイクではないッ!!!と言いたいところだが、残念な話、イケメンでもない。強いて言うなら中のちょい上ぐらいだ。まあ、どこにでもいるような学生である。
ラノベ愛読家で、自慢ではないが作中に出てくる台詞を完璧に覚えているシリーズもある。
一週間後には高校生かぁ~。新しい学校、教室に入り自分の机を探し、席につくと周りには美少女が座っていて、だんだん仲良くなり、そしてハーレム状態に・・・・・・・・って、そんな青春ラブコメを題材にしたラノベみたいな話があるわけないだろッッ!!
そう、俺はラノベは大好きだが、二次元と三次元との区別はできている。だから、俺は高校生活をそんなに期待していない。どうせ、高校三年間なんてあっという間に過ぎていく。だが、“男の娘”がクラスにいてくれたら最高だッッ!!“男の娘”はラノベを読んでいる学生達の夢であるッ!!!学生なら誰もが妄想したことがあるはずだ!!同じクラスの男の娘と毎日仲良く過ごす日々をなッ!!!!
何が言いたいかというとだな・・・・・
『現実は青春ラブコメを題材にしたラノベほど甘くはないッッ!!!!!』
そう、俺がこれまでに体験した出来事を考えれば、この結論を導きだすのは当たり前のことである。
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俺は読み終えたライトノベルを本棚に戻し、何か大きな決断でもしたかのように真剣な表情で自室を後にした。
階段を降りてリビングに行くと、我が妹である小春が、目に涙を浮かべながら俺の方へと寄ってきた。
「おにぃ~~!!!」
鬼?おいおい、俺ってそんな妖怪みたいな顔してたっけ!?
心の中で定番のツッコミを返すと、小春の話に耳を傾けた。
「どうした?小春」
「どうしたじゃないよぉ~!!今日から家を出るんでしょ?小春、おにぃがいないとさびしいよぉ~!!」
なんて、かわいいんだ!!!!!!!まるで13歳とは思えない!!さすが我が妹!!それに俺のことをこんなに思ってくれているのはお前だけだ!小春!いや、女神こはるん!!!!
今日から家を出るっていうのに母さんは仕事で家にいない。姉貴は友達と旅行中。おいッッ!なんなんだよ!俺のことどう思ってんだよ!!見送りぐらいしてくれたっていいだろ~~~!!
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小春と話をしていると、あっという間に出発する時間になってしまった。かわいい我が妹とお別れかと思うととても悲しいものである。
「おにぃ、ひとりで朝起きれる?ごはん作れる?友達作れる?小春なしで生きていける?」
小春が心配そうに聞いてきた。
「俺を誰だと思っている!!俺にできないことなどない!!」
小春を心配させないように強気で言ったが、最後のはちょっときびしいかもしれない。
「何かあったら小春に言ってね!だいすきだよぉ!!おにぃ!!」
小春のやさしさに涙が出そうになりながらも、気づかれないように笑顔をつくった。もしかして俺ってシスコンなのかなぁ?いや、違うよね!?これはセーフだよね!?
「おう!ありがとう!俺も大好きだぜ!小春!!じゃあ行ってくる」
そう言って家を出ると、華澄家の前にある家の「水内」と書かれた表札が目に入った。しかし俺はそれを見てみぬふりをして駅へと歩き出した。
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長かったがようやく俺の通う高校がある町に着いた。まず最初にこれから三年間生活することになるアパートへ向かうことにした。
え??ここに着くまでに何か面白い出来事でも起きなかったって???残念だが、自分でも驚くぐらい何も起きなかったぞ!!だが強いて言うなら、新幹線で俺のとなりの席に座っていたおじさまと着ているパーカーが被っていたということだ!気づいたときの焦りは尋常じゃなかったぞ!!どおりで周囲から何か視線を感じると思ったんだよ!!別にペアルックとかそういうのじゃないからね!!家族とか知り合いというわけでもないからね!!くそッ!!何で今日に限ってこんな高校生が着そうにない服を選んだんだよ!!俺ッッ!!!
アパートに着くと、20代後半ぐらいの歳に見える女の人が手を振りながら近づいてきた。
「はじめまして。大家の紗奏響子です。あなたが来るのを楽しみにしていましたよ」
「・・・・・・・・さ、さかな、魚?」
あまりに聞き慣れない名前に俺はつい聞き返してしまった。
「そうですよ!めずらしい名前でしょ!!」
「ええと、お、俺は、か、華澄、モ、モツアキです」
響子さんの大きな胸に、目の行き場に困りながらもなんとか答えた。
お、お、俺はコミュ障なんだよ!!しかも、あんなに大きな胸を見せられたら、危うく暴走してしまうとこだったぜ!!
「はい、あなたの部屋は305号室よ!」
そう言われて鍵をもらい三階に行くと、五つの部屋があった。俺は305号室だから一番奥だ。
ドアを開けて部屋に入り、荷物を全て部屋に置いた。あれ?ぜんぜん家具や調理器具がないぞ!まあ、必要なものは明日買えばいいか。
夜になり、外はすっかり真っ暗だ。だが、なかなか眠れない。なぜかって?それは新しい家だからというのもあるが、一番の理由は布団や枕、寝るのに必要なものを持ってくるのを忘れたからだ!!寒くて凍え死にそうだぜ!!!
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朝がきた。しかし、俺の朝は小春がいないと始まらない。今までは小春が俺を起こしてくれていた。どんなに寝起きで機嫌が悪くても小春の顔を見たら笑顔になってしまう。このキュートスマイルモンスターめッ!!しかし、これからは寝起きに俺を笑顔にしてくれる女神がいない。二日目にして、早くも一人暮らしがつらくなってきた。どうやら俺には女神こはるん成分が必要なようだ。・・・・勘違いするな。俺はシスコンではないッ!!!!
朝食を早々と済ませと俺は家を出た。
え?何??朝食はどうしたのかって???俺を舐めるなよ!親の仕事の関係でたまに作っていたから、俺は料理が得意だぞ!!え??女子力高いって???よせよ、照れるだろ!!!
とりあえず、必要な家具を買いにいくことにした。だが、どこにどんな店があるのかあまりわかっていない。これはスマホのマップ機能を使うしかないな。いつもお世話になってます!!
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なんだかんだで無事に買い物をすることができた。家の近くにあったコンビニに寄ってから家に帰ろうと考えていたとき、最悪の事態が起きた。スマホの充電がきれたのである。
ヤバい。これは本気でヤバい!!マップを頼りにここまで来たが、道を全然覚えていない。スマホ無き今、家に帰るのは不可能に近いと言ってもいい。あぁ、オワタ。
道に迷って一人でうろうろしていると、一人の女の子が二人の男に絡まれているのを俺は発見した。
やべーよ!すごいのを見かけちゃったよ!!どうしよう。このまま見なかったことにしてここから離れようか。
・・・・いや、この状況を見過ごせるわけないよな。だが、俺に一体何ができるんだ?俺一人で二人も相手にできるわけがない。どうすればいいんだ?
助ける方法を考えながら、俺は財布の中身を確認した。
もうこれしかない!頼む!!こんなことに引っかかるバカな二人組であってくれ!!!
そう願うと、俺は千円札と一万円札を一枚ずつ財布の中から取りだし、二人の男に気づかれないように距離をとって地面に置いた。そして転がっていた小さな石を拾って、隠れながらセットしたお札にめがけて石を投げた。ごめん、母さん。母さんが一生懸命働いて稼いだお金なのに。
しかし、狙っていた所とは全然違う方へ石が跳んでいった。
くそッ!!ノーコンだったことを忘れていたぜ!!!
偶然にも石が落ちた音に一人の男が反応し、セットしたお札に気づいた。そしてお札に向かって勢いよく走ってきた。
「アニキ、こんなところに金が落ちてありますよ!」
体格のガッチリしたムキムキの男がそう言うと、アニキと呼ばれたもう一人のガリガリで気弱そうな男もうれしそうに叫んだ。
「おいおいマジかよ!今日はいい夢が見れそうだぜ!!」
さ、作戦どおりだぜ!!!外したのは、わ、わざとに決まってんだろ!!っていうかマッチョのほうがアニキじゃないんかい!!
バカな男たちがお札に気をとられている隙に俺は女の子の手をとって走った。
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「あ、あの。助けてくれてありがとうございます」
男たちから無事逃げきり、女の子からお礼を言われた。
「い、いや、無事で良かった」
おいッ!何テンパってだよッ!!俺ッ!!!
近くでこの女の子を見るとふつうにかわいくて、結構スタイルがいいと感じた。肩にかかるか、かからないかくらいの艶のあるキレイな黒髪。足は長く、顔は小さいが、長いまつげにパッチリとした大きな瞳。響子さんほどではないが胸も結構ある。歳は俺と同じくらいだと思う。
「あ、あの」
女の子が落ち着かない様子で尋ねてきた。
「な、何?」
聞き返すと、女の子はやはり落ち着かない様子で答えた。
「何かお礼をさせてくれませんか」
思いもよらない一言になんて返せばいいかわからなかった。
「い、いや、いいよ。お礼なんて。ぜ、全然気にしなくていいから」
まあ、ここは一応カッコつけて断っておくか。
「お願いします!!私にできることなら何でもします!」
落ち着けッ!!落ち着けッ!!落ち着けッ!!落ち着けッ!!取り乱すな!!俺ッ!!!
え?いや、でもこの娘、今何でもするって言ったよね?言ったよね?俺の聞き間違いじゃないよね??
「そ、そういえば俺、今道に迷ってるんだけど、道教えてもらってもいい?」
なんとか落ち着きを取り戻し、道に迷っていたことを思いだし、彼女に聞いた。
「そんなことでいいなら私に任せてください」
そう言われたので早速、アパートの名前を教え、彼女の後ろについていき、無事にアパートの前に着いた。
「あ、あ、ありがとう」
コミュ障の俺はなんとかお礼を言うことができた。
「じゃあ、気をつけて」
そう言って家に帰ろうとしたとき、彼女の声が再びした。
「あの、まだ名前聞いてませんでした。名前を聞いてもいいですか?」
そう言われると俺は言った。
「別に名乗るほどのものじゃないよ。気をつけて帰れよ」
一回このセリフいってみたかったんだよな~!!まさか言える日が来るなんて!!
感動していると彼女が口を開いた。
「今日は本当にありがとうございました!!」
そう言うと、彼女は今日一番の笑顔を見せた。そんな彼女の笑顔に俺は思わず見とれてしまった。