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出会いと驚きの展開

 新しい制服に身を包み、玄関の鏡の前に立つ。

 そこには、高校生になった私が映っていた。

「もう高校生か」

 これから始まる新生活。胸中には期待と不安が入り混じっている。

「友達できるかなぁ」

 同じ中学から進学した人も居るには居るが、特に仲良くもなく。新しい友達ができるかどうか、それが不安だった。

 話しやすい人が居ますように……! そう願いながら、玄関の扉を開いた。





 特に何事もなく入学式が終わり、私たち新入生はそれぞれのクラスに集まっていた。そこで、先生の提案で自己紹介をすることになった。

 私は自己紹介が苦手だ。きっと私の名字が「秋島」で、いつも出席番号が1番だからだと思う。

 一番最初というのはやりずらい。体験したことがない人はわからないと思うが、参考にできるものが無いというのはなかなかに酷なものだ。


「○○中学出身の、秋島沙弥香あきしまさやかです。このクラスには同じ中学の人が居ないので、仲良くしてくれると嬉しいです。1年間よろしくお願いします」

 そんな無難な自己紹介を終えると、パチパチと拍手が聞こえた。よかった、終わった。

 ほっと胸を撫で下ろしながら席につき、一仕事終えた達成感のようなものを感じていた。


 その後自己紹介と拍手が繰り返されていき、最後の人となった。その人が立ち上がったので、その方向を見る。

 そこには、金髪翠眼の白人が立っていた。ひと目で日本人でないと分かるその見た目は、私の目を釘付けにするには十分だった。なぜ同じクラスに居て気づかなかったんだろう。

Sophiaソフィア Washingtonワシントンです。アメリカから来ました。日本語喋れます。ソフィーって呼んでください。えーっと……よろしくお願いします!」

 彼女はそう言い、勢い良くお辞儀をした。それと同時に長い金色の髪の毛がふわりと舞い、クラス中の視線を集めた。

 アメリカ人かぁ。東京とかなら外国人も結構いるのかもしれないが、こんな田舎じゃ珍しい。

 彼女とも出来れば仲良くしたいな、と思った。


 

 オリエンテーション等が終わり、今日はそのまま下校ということになった。特にクラスメイトと喋ることはなかったが、まだ大丈夫。きっと友達はできる。

 そう思いながら帰り支度をしていると、後ろからいきなり飛びつくように抱きつかれた。


「サヤカ! 一緒に帰りましょう!」

 びっくりして振り返ると、さっきのアメリカ人――ソフィーが抱きついていた。きれいな金髪だ……じゃなくて、一緒に帰ろうという言葉の意味がわからない。

「えっと……一緒に帰るって?」

 彼女を引きはがしてから質問する。もちろん、私と彼女が一緒に住んでいるわけではない。抱きつかれたことも分からないが、まあ外国では当たり前なのかもしれない。

「ん? わたし、今日からサヤカの家に住むんですよ?」

「えぇっ!?」

「もしかして、マザーから聞いてないですか?」


 そんなこと聞いてない! 今年一番びっくりした。でも、そんな大事なこと伝え忘れるわけないと思う……母に連絡して聞いてみよう。


「もしもし、お母さん? あの、ソフィーって人がうちに住むって言ってるんだけど…………は? 忘れてた? なんでそんな大事なことを忘れるのよ! うっかりじゃないよ! はぁ……とにかく、本当なのね? わかったよ」

 どうやら本当のようだった、それを忘れる母の大物っぷりにもびっくりだ。でも、母が認めてもまだ実感が沸かなかった。ソフィーと一緒に暮らすなんて!

 家族以外の人と3日以上同じ屋根の下で過ごしたことはない。初めての相手が、よもやアメリカ人とは。


「ね? というわけで、一緒に帰りましょ?」

 いつの間にか私の左手がソフィーの右手と繋がれていた。欧米人だからか、それとも彼女の性格か、スキンシップが激しいようだ。

「う……うん」

 そんな彼女に狼狽してしまう。慣れてないのだ、こういうのには。しかも、相手は金髪の美少女。ドキドキしないほうがおかしいというものだ。


 手を繋がれて嫌な気はしないので、そのまま校門を出た。

 学校から私の家までは徒歩で15分ほど。その間、ひっきりなしにソフィーに話しかけられた。

「サヤカは兄弟いるんですか?」

「ううん、一人っ子だよ」

「じゃあ、好きな食べ物は?」

「えっと、なんだろう……ししゃもとか?」

「ししゃも……? なんですか?」

「魚だよ。アメリカでは食べないのかな」

「聞いたことありません……」

 そう思ってスマホで検索してみる。本物のシシャモは北海道でしか捕獲されないため海外では食べられないらしいが、代用魚であるカラフトシシャモ(capelin)は流通しているようだった。

「あー、capelin。子持ちししゃも、capelin with roe。食べたことある?」

「Oh……わたしは少し苦手です、あの食感」

「そっかー……まぁ好き嫌いありそうだよね」

「他には、なにかありませんか?」

「そうだなぁ……カレーとか?」

「Curry and rice! アレは最高の日本食ですね!」

「おっ、今度は気が合ったね」

 どうやら、ソフィーもカレーが好物のようだった。海外で人気の日本食と言えばSushiというイメージがあるが、カレーも人気があるのかもしれない。

 そんな話をしているうちに、我が家についた。家は一軒家で、2階建て。空き部屋はなかったような気がするが、ソフィーはどうするんだろう。


「おかえりなさい。あら、ソフィーちゃん。こんにちは。荷物届いてるわよ。部屋に置いておいたからね」

「ただいまー」

「はーい! ありがとうございます、マザー!」

「うふふ、ソフィーちゃんはかわいいわね」


 2階の私の部屋に入ると、大きなダンボールが2つほど置かれていた。なんだろう? 特にアマゾンで何か買い物をした覚えはない。

 私が不思議に思っていると、後から入ってきたソフィーがその箱を開けた。

 その箱の中身は、どうやらソフィーのものらしい。

「どうしてソフィーの荷物が私の部屋にあるの?」

 率直な疑問を口にする。それに対するソフィーの答えは、私の想像を超えたものだった。

「この部屋でわたしも暮らすからです!」

「えっ……!」

 えええええええええっ!?

 驚きすぎて言葉を失った。


 かくして、異邦人、ソフィーと同じ部屋で暮らすことになった。

 これからどうなってしまうんだろう。私の新生活は、思った以上に新しいものになりそうだった。

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