遅すぎる幕間または読んでくれると嬉しいラーフラの放言
鬼が殺到し、鋭い牙をかざしながらしがみついてくる。
ヤミは次々に撃ち倒すが、それも織り込み済みの鬼が自爆に近い破裂を重ねて、付近にいる鬼たちまでもが誘爆、ヤミごとホウリキの大爆発に巻き込む。四方からの爆発のエネルギーに押されて、さすがのヤミも逃げ場がない。
「くそっ!」
必死に爆発を防ぐヤミである。
だが、爆発のたびに、エネルギー総量の密度が次元の壁が耐えうる量を超え、ヤミはほとんど次の次元に飛ばされている。立て続けに十三度。
☆
次元のはざまをすり抜ける一瞬に、七人衆がひとりひとり、戦いに敗れる姿を垣間見た気がする。
上半身だけのメイ。胴体に巨大な穴をあけたキリ。全身くまなくえぐられたカノン。前面がそぎ落とされたようなトウマ。首を切り離されたマナ。バラバラになったアユイ。
「……!」
それはありうべき未来であり、ありうべきだった過去。
直観でわかる。
あれは 幻であり、幻ではない。
ヤミの強靭な精神にしてなお、声が漏れるのを抑えることができない。
「……みな……! 待っていろ。待っていろ! 必ず戻る!」
☆
実に十僧羯邏摩由旬。
ヤミは度重なる爆発によって、言うも愚かしい高みに吹き飛ばされていた。
宇宙がその表面張力によって球形を形づくるさらに外、何もない、それとも全てがある場所にいた。
背中側を振り返ることもなく、ここにまでしつこく鬼たちが迫ってきているのがわかる。
振り向きざま棒を捩じり、ヤミは力いっぱい突き通した。
☆
「ホウリキとは、存在の可能性を減じる力なのですね」
「あれ!?」
眼の前の鬼に、棒で力押しのストレートを撃ち込んだはずだったが、手ごたえがなくてたたらを踏んだ。
「逆に言えば、存在しない可能性を減じる力でもあるのですが――他の力と違ってニュートラルではなく、否定であり肯定でもある。いざ眼の前にしてみると、不思議なものですね」
ヤミはことさらにゆっくりと振り返った。
「…………不動丸? なわけはないな?」
「失礼。あなたの記憶から最も話を聞いてくれる可能性を持った姿を選びました。問題があれば変えます」
十四、五に見える少年が軽く両肩をすくめた。瀧夜叉姫によく似た眼元、涼やかな眼を困ったように伏せる。
――不動丸はヤミと瀧夜叉姫とを「知っていた」唯一の異母弟だ。年相応の幼い気遣いだったが、何くれとなくふたりの間をつなげようとしてくれていた。
「……なにか色々とあるもんだ。この世は複雑怪奇にできているな」
ヤミにとりあえず攻撃の意志がないのを見てとって、少年は嬉しそうに微笑んだ。
「よろしければこちらへ。お話ができればと思います」
言いながら脇の白いテーブルとイスを指し示した。
☆
「ここはすなわち、ラーフラの中、というわけだな」
無限に広がっていると見えるせいでむしろ息苦しい白い空間を見渡しながら、ヤミが軽く顎をしゃくった。
「だいぶ素っ気ない」
「……? ああ、色というものはここにはありませんから。可視光線はすべてホウリキに転換されますし、実際にはあなたの意識の一部分だけ、認識部分のわずかだけを移送しているのです。現実のあなたは今も鬼たちと戦っています」
不動丸が両手の掌を広げると、その中心にホログラフィのような映像が浮かび上がった。トウマが一面の鬼を箒で薙ぎ払う。
「……。なぜ呼んだ? 私は彼女らの先頭で十全に戦う身だ」
「誤解を解きたいからです。我は宇宙を再生する予定のラーフラではありません。正確ではありませんが、恐らくは六千年ほど後のラーフラが宇宙の生まれ変わりを実行します。今はまだ『意志』の進化を育て、ステージを上げる時」
「再生? ……言っていることがよくわからんのだが。もう少しわかるように頼めんか」
少年は眼尻に皺を寄せて笑った。不動丸にそっくりだった。
まだ少年なのに心痛をいくつも抱えた彼は、結果、純真な姿を取ることで相手のあらゆる警戒を解くすべをその身に備えていた。
ヤミが長めのため息をついた。
「? あまりお気に召さなかったですか?」
「いや、昔のことを思い出しただけだ。千年前の。……受け入れやすいというのは、むしろ我らの時では“罪悪”に属していたのだ」
結局は不動丸が悲惨な死を迎えたように。
少年は姿勢を正し、深く頭を下げた。
「お許しください。逆鱗に触れるつもりではありませんが、不心得にて」
ヤミは軽く首を振りながら、片手を顔の前で振った。
話を聞く気になっていた。
☆
「人の意志とは不思議なものです」
不動丸が感慨深そうに言った。いや、今はラーフラか。
「単なるホルモンの働き、化学物質の生成によって、人は様々な行動に駆り立てられます。ある人は怒り、ある人は悲しみ、ある人は黙り込み、ある人は走り出します」
「……」
ヤミは腕を組んで聞いている。
「この世界で、ニュートリノが観測された時のことをご存知ですか?」
「知らんよ。そっちまで手は回ってない」
「本当にわずか、微細な質量が足りないことを数式と実験とで突き止めたのです。実験器具による誤差と言っても問題ないレベルでしたが、それを突き詰めた」
「……ふむ」
「同様なことが精神波にも言えるのです。残念ながら観測できているのは、CERNの精密機器のみのようですが」
「オカルトだとばっかり思ってたが?」
「科学者たちの頑固さをご存知ないのですね?」
不動丸が笑った。何の含みもなく、単純にヤミに好感を示すものだった。
「彼らは本当に精密ですよ……真空は空ではありません。宇宙も同様に空ではありません。ダークエネルギーと呼ばれるものはベクトルを失ったホウリキであり、ダークマターと呼ばれるものはホウリキのかけらの集合体です。そこにガンマ崩壊によってベクトルを落とすことで、周縁上に発火点が生成され、ラーフラが出現するのです」
「宇宙の不思議だな」
不動丸は声を出さずに笑った。愉快そうに。
「実はこれは、あなたがたの脳内のシナプス上で神経電位が励起するのとほぼ同じ形態なのですよ」
「宇宙は誰かの妄想、てSFか。60年代に結構あったな」
「いえ、カオス理論的な意味で、極小から極大まで、発生から消滅までのプロセスが似通っているというアナロジーに過ぎません」
少し驚きながら不動丸が眼を見開いて笑った。会話が成立するのが楽しくて仕方がないようだ。
「そこで、意志です」
「……」
「先ほど申し上げたように、意志とは存在の可能性を減じる力、存在しない可能性を減じる力です。すなわち、多次元宇宙解釈から“任意の宇宙”を選べる力なのです」
「? 待て待て……では、ホウリキを操る我らは、姫が生き残る可能性を選べた、ということか?」
「厳密に言えば、可能でした」
「……! 貴様……!」
ヤミの身体が膨れ上がったように見えた。かつてのあの出来事を愚弄するなら、話など聞く必要はない。そもそもラーフラは滅ぼすべき対象ではなかったか?
「失礼しました。存在可能性を論じるならば、です。言葉が足りませんでした」
不動丸は素直に頭を下げる。
ヤミは立ち合いを乱されて、ひと息ついて力を抜いた。
間の悪い沈黙にかぶせるように、不動丸が続ける。
「そこにある意志はひとつではありませんし、実際人は自分の意志さえ自由にはできません。常に相互作用しながら、場の意志に沿って成立することになります……かの時は、姫の意志が最も強いものでした。彼女は、あなた方が悲しみを押し殺しながら“人々を弑する”のではなく、“最も力を発揮できる場所”として、今この時を選んでいました。誰も、かつて存在した誰も、拮抗できないほどの意志の強さを以て」
ヤミは奥歯をかみしめて黙ったまま不動丸を見つめていた。
不動丸もまた、ヤミを見つめている。
……ぬい。
その責務を背負わせ、自分は逃げたのだった。
せめてもの矜持として、純粋な暴力を司る陰行を選び、大事な妹を護ろう、と。
けれど、それは逃げだったのだ。
足りなくても、何かはできたろう。
妹に託すのではなく、絶壁にひっかき傷を作りながら、生爪をはがしてもなお、しがみつくこともできた。
できたはずだ。
自分はそれをしなかったのだ。
そして、彼女はそんなささやかな矜持さえも超え、もっともっと大きな世界を見ていた。
……そうだ、これが器だ。
ぬいはそんなこともわかっていてなお、我らのことを考えてくれたのだった。
ヤミの心の奥、灰色の小さな部屋で、幼子が泣いている声を聴く。
やるせなく、切ない確信だった。
「……それで?」
「はい。ホウリキとは、弱核力と同じく出現した瞬間に霧散するはかない力です。それが持続的になり得るとしたら、手のひらほどの大きさに三十程度の意志を束ねないとなりません。人が身体を持っている以上それは不可能ですが、元になるエネルギーであるホウリキを束ねることは可能であり、法術者はまさにそれを可能とする増幅装置を兼ねた出力装置と言えます。人が持つ不思議な機能のひとつですね」
「……法術者が選ばれた者のように聞こえるな。我らは誰もがやむを得ず力を手に入れたに過ぎなかった。生きるために」
不動丸はヤミを見つめたまま、区切るように言った。
「いえ。それこそが、意志を保つ、唯一の、方法なのです。同じ境遇の誰もが、死ぬしかないと思い定める中、あなた方は生き延びることを譲らなかった。彼女が自らを犠牲にしてまで、あなた方を残すと決めた理由、空賢が子孫を犠牲にしてまで、あなた方の礎になると決めた理由です。だからこそ、あなた方は闇の中で意志を保つことができた」
「……! ……!」
ヤミが瞠目する。
不動丸は軽く笑った。
「付け加えると、これは人に属するものだけではありません。湖緒音町は不思議な場所だと思いませんでしたか?」
「……? うむ。確かに、我らの力が十全に使える場所だった。安房でさえノイズが生じるのに、湖緒音町ではなんらストレスを感じなかった」
「はい。空賢の眼の確かさですね。湖緒音町は、法術に目覚めていない人のベクトルを束ねる装置なのです。ゆえに、宗教の聖地になっています」
「……聖地だと? だいぶイカれた場所だったが」
ヤミが肩をすくめるように笑う。
「あの場所は」
不動丸が眼を閉じて呟くように言った。
「あの場所は、人々が昨日の続きが今日であることを信じる場所なのです。日常が確実に続くと信じる機能を発揮する場所でした。それを物理的な機能として、七人衆の祠を結界として結び、人々の明日への信心をあなた方の封印の力に変えるものでした」
「今日が昨日の続きで、明日にもつながる、と?」
「はい。普通の人々にとって、日常とは自己の存立を安易に担保してくれるものです」
ヤミは一瞬驚いたように笑い、それから鼻で哂った。
「……トウマではないが、まさに弱卒の物言いだの。今日が昨日の続きなどと言えるものかよ」
「空賢は永く平和が続くと看破していたのでしょう。事実、千年の長きにわたって、あなた方は目覚めなかった。結界としては、人が存続する限り堅固に保持され、ほころびることのない確実な構築です。空賢が考え抜いた珠玉の方法と言っていいでしょう」
「……では、なぜ我らは目覚めた?」
「はい。それもまた、意志のなせるわざです」
「……?」
「つい先ごろに、あなたの憑代の生家である、温泉旅館たちばなに宿泊した集団がいます。“破滅”をテーマにしたミニ宗教でした。ここのリーダーの意志が非常に強く、日常へ載せる思いを局地的に排除したのです」
「それはまた……中二病が我らを解放した、と?」
ヤミが眉をしかめたのに、不動丸が含み笑った。
「どこか違う場所であれば、ひとかどの人物になれたでしょうが」
「まったく、中二病がついて回るものだ」
ヤミがやれやれといった風に眼をつぶって首を振った。
「だが、そんな偶然で我らは解放されたのか? だいぶ千年の重みが薄れるが」
「いえ」
不動丸が首を振る。
「もちろん、空賢が考えたのはそれ以上です。彼は瀧夜叉姫の意図を汲み、それが顕現する方法として六つの流れを考えていました。因果の着地点として、黄金螺旋を計算していました」
「……ちょっとわかるようにいってくれんか」
「失礼しました。黄金螺旋は対数螺旋の一種ですが、約十七度のピッチをもった、自然で最も美しい螺旋を指します」
「いやだから、私にもわかるようにな?」
「黄金螺旋とは、伸開線および縮閉線が自身と一致する永遠に続く螺旋をさします。調和の最も身近な形と言えます」
不動丸はヤミを無視した。
「空賢は、いまこの時に向けて、六つの形式からその螺旋を乱すよう、組み上げていました」
「……」
「具体的に言えば、そのサークルが来なければ他のところからとばっちりがあったでしょう。あなたは知らないでしょうが、七人衆の力を我が物にしたい人間たちは、思っているより多くいるのです。IT企業やテロ組織、人格破綻した大学教授や天才プログラマー、近いところでは薬師幼稚園の園長がそうです。かのサークルが解かなければ、誰かしらが手を出していたでしょう。いずれにしろ、ほとんど十割の確率であなた方は目覚めていました」
「そうか……」
不動丸は眼をつぶって沈黙した。
ヤミは何の感情も載せないままそれを見つめる。
「六という数字は非常に意義深い数字になります。弱核力、強核力、電磁力に対して、重力、ホウリキ、そして」
不動丸は眼を開けてヤミを見つめる。
ヤミは変わらず平静な眼で見返した。
「理解、です」
「そうか」
「…………驚かないのですね?」
不動丸がのぞき込むように言った。
「それこそ、もはや私の理解を超えているよ。はいそうですかというしかあるまい?」
「それもそうですね」
「だが、その理解は何につながるか、興味がある」
「はい。弱核力、強核力が物質の存在を定義し、電磁力が相互作用を生むのと同様に、ホウリキと重力が我らのありようを定義し、理解が相互作用を生みます。エネルギーの流通を相克ではなく、相生に導く力」
「……我ら?」
「私もまた、その力の一部です。互いの距離を測り、理解を促進する。私を構成するものには、かつて人だった意志も含まれます」
「人が人の滅びを求めるか」
「いえ、滅びをもたらすものではありません。我らは人の行く末に次のステージをもたらそうとする者です」
ヤミがしかめ面をした。
「ふん、次のステージだと? だいぶ抹香臭くなったな。人の歓びはそこにはないぞ」
不動丸が首を傾げる。
「解脱など涅槃だの、下らぬ方便に過ぎん。生まれて、生きて、死ぬ人生が不幸なら、始まり、進み、終わる物語も不幸か? 幸福がまやかしと言うのなら、なぜ不幸がまやかしではないと言える? 人類の次のステージなぞくそくらえだ。老いも病みも死にもしない人生なぞ、何が面白い。我らが生きる意味は、ほら、その大宅太郎と鬼人どもをぶっとばすことよ」
不動丸が嬉しそうに笑った。
「はい! そうおっしゃって下さると思っていました! それが人の生きる意味です。宇宙のありようとしての数珠モデルを本来の形で成立させるために!」
ヤミは面罵に近い啖呵を切ったのを肯定されて戸惑った。頭の上に幾つも「?」を出した顔になっている。
「生きるということは、意志によってベクトルを提示する形です。意志それ自体の重さにより突然変異を担保し、袋小路に至らないためにどうしても必要なものなのです!」
突然の不動丸の熱弁にヤミが引いている。
「え? ……いや、あれ?」
「人は調和の輪の中にいません。調和に至ることはありません。なぜならば、調和した時点で滅びに向かうのですから。解脱も涅槃も必要としないままに、生物全体が進化するために抽出された存在である人は、突然変異を経て、次のステージを手に入れるためにいるのです! まさに、意志を以て!」
「お。おお。お?」
「ラーフラは、そのために地球に現出するのです! 地球にしか現れないのです! ヒントは幾つも存在していて、宇宙が対称であると確認するところにいたるまで、人に寄り添う存在なのです!」
「あ。ああ、もう少しわかるようにだな……」
ヤミの表情に不動丸は我に返って、恥ずかしそうに微笑んだ。
「……すみません。私もずいぶん長く待ち、今この時に興奮しました。すみません」
「いや、まあいいんだが……やはりよくわからんな。とりあえず、我らはこのまま鬼人をぶっとばしていい、んだよな?」
「はい。生きる意志を以て」
ヤミは納得できないように腕を組み、口を尖らせた。
「や、まあいい。千年分の怒りをとりあえずぶつけて来よう。それでいいんだよな?」
「はい」
不動丸がにっこりと笑った。
……超存在と話せることもそうそうないわけだが、結果がこれでは、何かこう、一寸相当猛烈残念な七人衆の頭であった。
☆
何となく椅子をキチンと引き、丁寧に辞去しようとするヤミに、不動丸が声をかけた。
「もうひとつありましたね。なぜこの世界をめくらなければならないのか」
「……うむ? 確かに」
「ブラックホールをご存知ですか?」
「……そりゃ、知ってる」
「重力によって光さえもが封印され、“不在”でしか観測できない“事象の地平線”です」
「ああ?」
「そこに飲み込まれれば、質量が限りなく増大し、ついには時間と空間が等質に至る、という場所です」
「そんなような理解だな」
不動丸は小首を傾げた。
「ですが、その中は観測できないゆえに内実は分かっていませんね?」
「そりゃそうだろう。好き好んでその中に入るヤツはいない」
「ええ。なので、その中を理解できている存在はいません」
不動丸はじっとヤミを見つめた。
ヤミは、その奇妙な沈黙に、不動丸の言いたいことを察する。
「……では、この世界がブラックホールの中で営まれている、と言いたいのか?」
不動丸は肩の力を抜いて、軽くため息をついた。
「パイオニア・アノマリーをご存じないでしょうね? 様々な問題を提示した、太陽系外へ飛び出す使命を負ったパイオニア10号のことを」
「……知らんよ。だいぶマニアックだろうが」
「そうですね。一般には知られていませんが、ボイジャー1号の前にも、長距離探査を司どる人工衛星があったのです。そのパイオニア10号ですが、1980年に海王星の軌道を横断した後で“減速”しました。ニュートン力学を裏切る挙動です」
「? そりゃ、遠くに行けば勢いは落ちるだろう?」
「いえ。宇宙空間では理由もなく減速はしません。ありえない挙動なのです」
「……それが?」
「はい。彼女らは太陽系を出られず、電波の届かなくなったところで停止します。太陽系が閉じられているからだと思われます。この星々は、ひとつの恒星系として、ブラックホールの中で非常なバランスを保っているに過ぎないのです」
「それは……また……」
「繰り返しになりますが、人が突然変異を担保し続けるサイクルと、宇宙がブラックホールに飲み込まれるサイクルは、常に後者が先になってきました。これまで何度も繰り返されています」
「……」
「ですが、今回ようやく、意志がエネルギーであるというステージにたどり着きました。もしかしたら、次のラーフラまでに、人は“理解”を得られるのではないか、と私ははかない期待をしています」
「だいぶ残念な奴らしか来てないがの」
不動丸は明るく笑った。
「私は待ちました。とても長い間。なので、待つのは慣れています」
「……」
「もしも、もしかして、それが達成されるのならば、次の時は、私があなたの場所に座り、あなたが私のような説明をするかもしれません」
「それはごめんだな」
ヤミは肩をすくめた。
「私に何ができるか、狭小な何かに過ぎんだろうよ」
「ええ、ええ。それでいいのです。全体を踏まえて導こうとすれば、自己撞着、自己矛盾に陥ります。あなたも私も、ただ“行けるだけ遠くに行き、やれるすべてをやる”でいいのです。生きる意志を持ったまま」
不動丸がニッコリ笑った。
「我らは群生です。理解を以て、ひとつになり、そして個々になるのです……遥かな時のかなたに、ブラックホールを突き抜けた向こう側に、あなた方と笑い合う日を望みます」
☆
瞬間、鬼の頭部が爆砕した。
「次!」
叫んで、ヤミが見渡した。
カノンが箱から次々に矢と礫を吐き出して鬼を倒しながら、他のメンバーの戦いをフォローしているのが見えた。
メイは宇宙では自身の空間限定しか使えず圧倒的に不利、アユイと組んで背中合わせに接近戦を繰り広げている。メイが範囲を限定して、その中でアユイが鬼を構成する固形物に“音”を伝導していくのだ。メイが眼を吊り上げると一瞬鬼たちの動きが止まる。その間をアユイがすり抜けるように鬼に触っていくと、次々に鬼が破裂していく。
マナもまた戦場の全体を飛び回りながら、鞠を撃ち出し続けている。星々の照り返しにひらめくマナの顔色はだいぶ灰色にくすんでいた。当然だろう。マナの鞠は自身を削りだして作るものだ。ここまでどれほど削ってきたろうか。
キリとトウマも白兵戦を余儀なくされていた。鬼たちが“だま”になっているのを円輪と箒で掃討している。撃墜されるかと思いきや、ギリギリで突破している。
七人衆の全力によって鬼たちはだいぶ減っていた。
「さすがだの……」
ヤミは棒を構えなおして、メイとアユイのところに助力に入った。
「ヤミ!」
メイ。
「応!」
ヤミ。
「キリがないよこいつら!」
アユイ。
ヤミが襲い来る鬼を立て続けに三体、棒術で爆砕した。
そこに押されながらも、鬼たちをはき散らしてキリとトウマが近づく。
「うぜえよこの数!」
キリ。
「正々堂々という戦いをわかっておらん!」
トウマ。
上方にマナとカノン。
「さすがにね~これあとでケーキ用意してくれるよね~」
マナ。ぼよぼよんと胸をゆする。
「あいつらつぶしたい」
カノン。
ヤミが笑った。楽しそうに。
「よし。我ら七人衆、大宅太郎を粉微塵にするためにここに来た。あとわずかだ。見ろ奴らを」
ヤミが指さす。
その先では、鬼たちはだいぶ数を減らしたが、玉座にまとまりつつある。
「宇宙の行く末など知らん」
聞こえないように細くヤミが呟くと、どこかで、ふ、と、不動丸が笑った気がした。
ヤミは誰にもわからないようにウインクした。
「我らは瀧夜叉姫の眷属。ここを平定するために千年を超えた」
全員が鋭い眼で頷いた。
「いざ、行かん! 王道楽土を建設するのは今だ!」
全員がもう一度、頷いた。




