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幼なじみに首輪をつけるのもやむを得ない……っ!  作者: 真野英二
第11話 「紳士等<シンシドモ>または夏のプールについて」
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 流れるプールは敷地内の中央をぐるぐるんと回り込んでいるので、大体一周するのに三十分というところであろうか。通常の水のプールであれば、水温から途中一回くらいは上がる感じになるものだが、このプールはぬるういお風呂みたいなものであるから、ポチとその一党は元気にはしゃぎまわっている。

 シチヨウーズでは主にマナ、ヨリシローズでは主に燕が、ポチを囲んで水球のボールを投げあっていた。

 ええと、これなぜビーチボールではないの?

 と、言ってるそばからポチの顔面にボールがぶつかった。

 ぼうん。

 水球のボールは正確にはウォーターポロボールと言うが、重量が四、五百グラムほどあって、バスケットボールと同じほどの重さがある。あれほど固くはないが、ぶつかるとダメージが大きいのは同じ。

 それがポチの顔面にあたって、ぼうんと跳ねて、違う誰かの手に渡って、またポチの顔面にあたって、ぼうんと跳ねて、違う誰かの手に渡って……。プロスポーツの手すさびで手品としか言いようのないやり取りを見ることができるが、ほとんどそのレベル、ポチの顔面を支点にしてボールがキレイに跳ね返っていた。

 「げふがぶほっ!?」

 もがいて沈むポチ。再び水面に顔を出したタイミングで他の方向からボールが跳ね返る。

 「ぶふほむふっ!?」

 またもがいて沈むポチ。タイミングまで見込んだ水際立ったひとりドッジボールである。哀れポチ。

 トウマが怪訝そうに隣のマナに問いかけた。

 「これは何かの処刑なのか?」

 言いながらボールを受け取り、ポチにぶつける。

 狙い通りマナに跳ね返ったボールを、マナがにこにこ笑いながら受け、ポチに投げる。

 「まっさかぁ、遊び遊び」

 ポチの顔面に跳ね返る。

 「……いっそ殺せェ……」

 ポチのか細い声が、水の音と歓声にかき消された。

 ハーレム……ではない模様である。

 玩具、が近い。

 ふとアユイが笑いを大きくしながら振り返った。

 「良いコは真似するなよ! 悪いコは真似してもいいけど社会的制裁をうけるからな!覚悟しとけ!」

 燕が横から顔を出す。こちらもにっこにこである。

 「あとアニメ見てマネしましたって絶対に言うんじゃないぞ! これは約束じゃなくて命令だからな! わかったな!?」

 一体誰に何を言ってるのか皆目わからない。

 「はっは! 空賢カッパみたいだな」

 「空賢じゃなぶくぶく」

 キリも無邪気に笑っている。

 色々なものがほどけ、シチヨウーズは一様に明るい顔で遊んでいる。

 的が自分だというのは若干不本意ではあったが、シチヨウーズがしこりをなくして笑ってくれるのは、ポチにとっては何か安心できるところにたどり着いたような……自分のためではなく、彼女らにとって少しでも役に立てたのかも、と思えて、少し嬉しくなっていた。宿曜道を修業した意味はあったのだ。

 ぼうん。

 痛いのには変わらないが。


 ぷつん、とキリの水着の肩ひもが片方、切れた。

 どういうわけか、水着の繊維がぷちぷちと音を立てながら、ゆっくりと溶けはじめた。キリの玉の肌が肩口からあらわになっていく。

 「えっ、おい、ちょっとちょっと」

 「キリ?」

 アユイが眉をひそめて振り返った。

 「ちょちょっ! なにこれ!?」

 浮き輪マットの上で波に揺られていたハクが胸を押さえながら悲鳴を上げた。

 「ぎゃあぁぁぁっっっ!? ちょっと何よこれぇっ?!」

 ハクの水着がお腹のあたりからほどけ始めている。

 タンキニはセクシー演出であるため、継ぎ目がギリで作ってある。それがほどけて上下の支えをつかもうとするが、掌の中からつかんだはしから溶けていく。

 「これちょっちょっとお!」


 どういうわけか、ハクの水着もみなの水着も、まずは問題ない部分から溶けているようである。

 ……本来そういうものではないはずだが、やはり規制という神は存在するのであろう。でなければ、倫理観はとっくに破壊されているはずだし、アニメ的表現は光りっぱなしか黒い海苔ばかりになり、永井豪大先生の作品などはご禁制の品となっているはずだからである。

 大事なところが溶けないのは、表現の自由を守るという大義があるからである。

 むしろ「秘すれば花」というか、見えそで見えないところが男どもの根源的な何かをドライブするわけだが、そこから考えるとだいぶ日本も終わっている模様である。


 身体をよじって隠そうとするハクであったが、水着の崩壊のスピードに追いつかず、ぐいぐいと丸まり始めている。

 プールのそこここで、女性陣の叫び声が上がり始めた。時限爆弾のような水着崩壊がスタートしたらしい。同時に「ゅほうほおおう」と表記する以外ない、男どもの奇矯な叫び声も聞こえてくる。

 アム、燕、雫、若葉、神谷、メイ、マナ、トウマ、アユイ、そしてノアに円海の水着も崩壊を始めていた。

 みな声を上げながら隠しているわけだが(なぜか神谷だけ堂々と隠していたが)……ヨリシローズの面々は、グラビア撮影並みの手ブラのような形になり、きめ細かい白肌と腕の上に豊かな胸があらわになっている。

 燕やノアは豊満というわけではないが、胸からウェストのラインはキレイなカーブを描いているわけで、これはまたこれで大変よろしいもので(ここ間違い)、しかも……一部を除いて全員首輪。

 総じて、天国のような光景であった。

 「はあ……単純所持で捕まるな、これ……」

 ヤミが頭を抱えてぼそりと呟いた。

 その水着も溶け始める。



          ☆



 管理棟のモニター室は歓声に満たされていた。

 いや、歓声を超えて怒号のようなものか。

 彼らの眼はモニターにくぎ付けになり、震えながら眼を見開いている。

 涙をぬぐう松本。

 「最高だぁっ!」

 その肩を叩き、涙をぬぐう石川。

 「神回間違いなしだっ!」

 歓声がいよいよ噴き上がり、管理棟の窓ガラスを震わしている。


 中央モニターの前では、町長が満足そうに頷いていた。

 映像は場内のそこかしこ、水着が溶けてしまった女性たちがあちこち隠しながら右往左往している姿を大写ししている。

 「美少女」コールが止まらない。

 モニター室はほとんど宗教的恍惚が支配していた。

 ハクたちのあられもない姿が映った。

 町長は立ち上がってモニターを指す。満面の笑みである。

 「ふは、ふはははははっ! 素晴らしい! 見ろあの有様を! あの痴態を! あれこそ我らが求めるものだっ! 万歳! 湖緒音万歳!」

 町長の叫びに応じて、管理棟を揺るがす万歳の声が上がる。



          ☆



 涙目になって体を隠しているアムが、ふと何かに気づいた。

 「……何あれ?」

 視線の先には、木陰に仕込まれたカメラがあった。よく見ると、ゴミ箱に模しているが下半分が機材になっているもの、プールを渡る橋の下に目立たないようにはめ込まれ偽装されているもの、ありえない場所にカメラが仕掛けられている。

 「これ……っ、ポ、ポチくんっ! 封印をってえええぇっ!」

 アムが振り返ると、ポチが鼻血を流しながら水面にぷかりと浮いていた。

 燕が胸を隠しながら、一生懸命肘でポチをつつく。

 「おいぃぃぃっっ! 幸せそうな顔して昇天するなっ!」

 わめいている声も、幸せそうに空を見上げたポチに届かない。

 その時、プールサイドを飛ぶように走ってきたひとつの影が、水しぶきを上げてポチの脇に降り立った。

 誰あろう、もちろんハクである。

 浮き輪マットを降りてプールサイドを走り抜けてきたハクの水着はすでにボロボロで、胸の先と股間に申し訳程度の布が、今にも剥がれ落ちんばかりである。左胸の布がゆらんと落ちそうになったのをハクの右手がはっしと押さえ込んだ。

 左手でポチの首をつかんで持ち上げている。

流れるプールの中央で仁王立ちである。

 その姿、その顔、その眼は鬼のそれである。

 「解け」

 「唵……」

 首の頸動脈を止められ瞬時に朦朧となったポチが、かろうじて発音する。

 と、光があふれ、アユイを除く六人衆が空中に現れた。



          ☆



 モニタールームには町長の哄笑がいよいよ響き渡っていた。

 男どもはモニターに両手をささげ、何か危うい呪文を唱えているごときである。

 そこに突如切迫した通信が、各所から飛び込んできた。

 「こちらポイントフォックストロット! 攻撃をう(ザザッ)」

 「救援! 救援を頼む! やめろおい、頼む嫌だぎゃぁぁぁぁっっっ!?」

 「くそったれめ!くそったれがぁぁぁっっっ!」

 「助けてっ! 嫌だ死にたくない、たずげ……っっ!」

 「嫌だ嫌だ嫌だっ! ひっ、ぎ、ぎゃぁぁっっっ!」

 「ママッ! ママァァッッッ!!」

 「くそったれ、地獄かここはっ!?」

 次々に断末魔が轟き、モニターがそれに応じて次々にノイズになっていく。

 男たちは何が起こったのか理解せぬまま、うろが来たように互いの顔を見合わせた。

 連続した悲鳴が途切れたのもつかの間、再度の叫喚がモニタールームを満たす。

 わずかに残ったモニターに視線が集中する。

 静寂。

 町長の笑いだけが聞こえる。

 そこにまたもや悲鳴。


 最初は、オペレーターがインカムを叩きつけて逃げ出した。

 次いで、ただならぬ事態であることを悟り、恐慌に陥った男たちが出口に殺到する。

 実はパニックに弱いのは男であるのだが、それを証明するように簡単に無秩序に至り、我先に逃げ出そうとする男たちが出口に挟まり、誰も逃げ出せなくなった。

 「ははっ、はっ、はははははははははっ!」

 町長だけがメインモニターを見つめて高笑いをしている。

 すると、サブモニターのひとつが、爆発音とともに火を噴いた。

 連鎖するように、次々に火を噴くモニター。

 なぜか電気回路がショートしたようにあちこち盛大に火花を散らしながら、なぜか爆発物もないのに爆発の衝撃が連続するモニタールームである。

 ひときわ大きな爆発音が聞こえ、メインモニターが傾いで崩れ落ちた。燃えている設備の上に落ちたそれが、盛大に火勢を巻き上げる。

 その真ん中、まさに業火に町長が飲まれていき、見えなくなった。


 湯~とぴあの東南側、管理棟の三階が爆発した。

 混乱のさなかであったが、誰もが手を止めて見入るほどの巨大な火柱が上がる。

 まだ午後の早い時間だったが、それは湖緒音町長・柏木美星による男たちの見果てぬ夢、そして限りなく偏向した自治体予算の、巨大な落日であった――。



          ☆



 湯けむりがたなびいている露天風呂である。

 この時間はお客さんが入る前、ひとり湯につかっている。

 「あぁ~、いい湯だなぁ。たまにはいいもんだなぁ」

 ほっこりとしているポチであった。

 首には指の跡が痛々しい。

 「まぁ、俺の露天風呂シーンなんて需要ないんだけど……」

 ばしゃっと顔を洗うポチ。


 露天風呂から浴衣姿でつやっつやになったポチが出てきた。

 俗に「男はほろ酔い、女は湯上り」というわけで、湯上りの男の需要は特にない。

 残念である。

 「あら?」

 休憩ロビーには、椅子やソファや座敷があり、そこでは七人衆とヨリシローズ、ノアがぐっすりと寝ていた。

 「みんな疲れたんだな」

 脱力したように微笑むポチである。

 「忠賢様」

 「へ? お、おぉ、円海」

 背中から呼びかけられて振り向くポチの前に、浴衣姿の円海が立っていた。湯上りである(うむ)。

 ファーストコンタクトからこっち、若干の苦手意識があり、冷静に考えるとキチンと話したこともないのだが、普通にかわいい女子高生(いや待て、ダイナマイトボディの許嫁だろ)なので、いきなり挙動不審にあるポチである。

 「……んーとさ、様ってつけるのやめてくんない?」

 「嫌いですか? ご主人様の方がいいですか?」

 「嫌いじゃないけど引くわ。あと忠賢ってのも慣れない。悲しいことだが」

 「悲しいですね。……ではポチさんで」

 「悲しいな。それでいいけど」

 「どうぞ、ポチさん」

 あたふたしているポチに微笑んで、冷えたコーヒー牛乳を差し出す円海である。


 眠っているみなを邪魔しないように、円海とポチはロビーのソファに移動している。

 何か照れが先んじてポチは円海の顔を見られず、コーヒー牛乳を飲み終わったのに瓶をもてあそびながら、考え事をしているふりをしていた。

 円海は小首をかしげてポチをのぞき込んでいる。

 「……ポチさん。体にお変わりありませんか?」

 「へ? なんで?」

 思わず不思議そうな顔で振り向くポチ。

 そのポチを見て、円海は軽くため息をついた。

 「……また封縛をかけたでしょう。私の言ったことをお忘れですか?」

 瓶に視線を落とすポチ。ちょっと不自然な間が空いた。

 だが、ごく自然に、ポチは軽く笑い直す。

 「あ、いや……忘れてないよ?」

 「今のは忘れていた間でしょう。もう……」

 咎めるように口を尖らせた円海だったが、ふと真剣な顔になる。

 「ポチさんには大事なお役目があるのです。どうか……ご無理をなさらないでください」

 「……なんか今さらだよなぁ、そんなの」

 おおげさに肩をすくめて、ポチは困ったように笑った。






「幼首は某セーラー服美少女戦士をパクって始まったものという憶測が飛び交っておりますが、それはまったくの誤解でして、最終的に似てしまったという一種の進化の収斂によるものですので、むしろセーラー次回『妖星羅睺羅接近! 迫る地球滅亡の危機! 地球に残された最後の希望?』ムーンが心の奥底で光り輝き、影響を与えまくったってことでむしろ好きなんだ理解してくれ」


それでは第12話!

お楽しみに!

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