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幼なじみに首輪をつけるのもやむを得ない……っ!  作者: 真野英二
第7話 「阿結<アユイ>または早過ぎる中二病について」
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 「いやちょっと! なんだこの賢者どもはっ! 森に帰れよっ!」

 ポチがわめき散らす。

 「あははは~。ポチくんわからないんだ? さすが鈍感な主人公キャラだねぇ」

 言いながら、マナがポチの腕を組んだ。

 「なに、なんで?」

 「かわいらしい幼女三人とキレイかわいい女子七人侍らせてんだよ?」

 「え? ん?」

 唐突に絵面に気づくポチである。

 ませた幼女(1000歳である)がからかい気味の秋波ながしめを送り、女子高生は、明るいの(ノア)と純情なの(アム)とツンデレなの(ハク)と、エキセントリックなの(燕である)とがポチの周辺に、ファン層がついた妙齢の女性はふんわかなの(雫)と活発なの(若葉)と凛としたスレンダー(神谷)が楽しそうに見守っている。

 揃いも揃ってキレイかわいい。

 ロリも妹も女子高生もツンデレも不思議ちゃんも姉も風紀委員もハードSも、およそ属性という属性が崇拝しかねない集団である。

 そして幼女とひとりを除いて全員が首輪。

 中心にいる自分。

 これは。

 これは、もう。

 これは石が飛ぶのもやむを得ない。


 「ドリームイレブンだな」

 ヤミが笑ってメイに首を振る。

 「しかも、そのうち六人は首輪付きです」

 メイがぼそっとため息をもらした。

 ノアが口を尖らせて明るく言った。

 「……うーん、なんか私も首輪ほしいかも……」

 ハクとアムが同時に血相を変えた。たぶん別の意味であるが。

 「ノア!? 気を確かに持って!!」

 「ノア!? もう首輪の人増えなくていいからっ!」

 ノアがハクとアムを見比べて、アムに少し人の悪そうな笑顔で片眼をつぶった。

 アムが若干赤くなる。


 ところで、皆を囲む猩々の輪はゆっくり狭まっている。

 「ソイツ、クウ。クッテハーレムツクル……」

 何か地の底から生じているような声である。

 確かに、そこにいたら、男であれば猩々の仲間に入るのもやむを得まい。

 ポチがなぜか半分嬉しそうに叫んだ。

 「せめてビーフジャーキー口移しされてから死にたいっ!」

 「いいじゃん喰われても。心臓えぐられても死なないんだろお前」

 ヤミがそっけなく言い捨てた。

 「雑っ! 扱い雑っ!」

 ヤミが神谷に向き直った。

 「それよりお前、十二神将を知ってるのか?」

 「んん? そりゃな。っていうかなんだ、知らないのかお前ら? 結構話題になってたろ?」

 「? どこで」

 「湖緒音ケーブルテレビ」

 「ご近所テレビか。見んな」

 「ゴールデンに力作の二時間スペシャルとかやってたろ?」

 「ケーブルで二時間スペシャルって、何の冗談だ」

 「幼女の熱血と動物は数字が取れるんだよ」

 「こんな香ばしい連中はよく知らん」

 ヤミがひらひらと招待状を振った。神谷がのぞき込む。

 「お前これ、十二神将の招待状? すごいな、プラチナチケットだろ」

 全員が首をかしげて、は?となる。



          ☆



 囲んでものを投げつけては来るが、襲いかかる勇気はない(哀しい生き物である)猩々たちをふりきり、野外コンサート場までたどり着いた一行である。神谷と雫は別行動、若葉はヒーローショーの仕込みに向かったので、シチヨウーズと女子高生保護者のみとなっている。

 折しもコンサートのメインステージが始まるところであった。

 ステージ横には大型のスピーカーが化粧ブロックにはめ込まれている。こういうものは作るよりメンテナンスが大変なのだけれども、はめ込み式というあたりに役所仕事が見え隠れする……というか、メンテナンス含みにすると、実は費用がかなりお高くなるので、それを嫌ったのだろう。お上の年度予算というものは本当になんていうか、融通がきかないのである。

 結果、雨ざらしなのにあまりケアもされていない、下手したら年一回しか使っていないスピーカーが盛大なノイズを載せていた。加えて、やはり年一しか倉庫から出さない後方スピーカーも同調して、会場は始まる前から耳障りな重低音と擦過音で充満している。

 と、ぶつんというマイクを入れる音と共に演者紹介が始まった。

 「大変長らくお待たせいたしました! 湖緒音町音楽祭、マーチングバンド特別出演、『薬師幼稚園マーチングクラブバンド・十二神将』の登場です! 拍手を以てお迎えください!」

 うわああ、と歓声。会場からノイズを超えた大声が上がった。

 ステージ上では、幼稚園児とおぼしき小さな子たちが、明らかに身体より大きな楽器を抱え、丁寧に位置に着いた。

 徐々に歓声が鎮まる。

 編成はクラリネット、フルート、トロンボーン、トランペットにひとつだけホルン(幼児が!)、あとは鉄琴とドラム。小編成とはいえ、本格的である。

 どうやらトランペットの一人がバンドマスターであるようだ。彼女が合図を送ると、全員がすちゃっと楽器を構える。

 トランペットパートの独奏。

 鉄琴が少し遅れてメロディーラインを追う。

 クラリネットとフルートが静かに加わり、ホルンが低音を支える。

 トロンボーンが中音域を満たして、四小節。

 すうっと音の余韻がなくなる瞬間、ドラムが爆発的なリズムを刻み始めた。

 ポチたちにはうかがい知れぬことであったが、マーチと言えば三拍子なのに、彼女らの曲は正確に言うと八分の七の変拍子で入った。ついで、八分の九拍子。ジャズやロックで使われるリズムで、マーチングバンドが使うにはとっぱなからグルーヴ感が強過ぎる。

 だが、最初からつんのめるように始まった軽快な曲の主題に合わせて、幼女たちがステージ上をすべるように動き始めた。

 収縮するように参列縦隊になり、と思えば散会して銀杏の葉を形作る。狭いステージ上でトロンボーンパートが他とすれ違う時には斜めに避けながら動き、それがまた一糸乱れぬ滑らかさ。

 幼女には成立しないはずのレベルである。

 観客は生暖かい眼で見守っていたはずだったが、その完成度に軒並み感嘆の声を上げ、見入ってしまっている。「十二神将」という中二的名称に恥じないマーチングバンドであった。

 ステージ上では、演奏することができると思えぬほどの激しい動きを、片時も休まず行っている。まさかの幼稚園児である。

 「……こういうことだったんですね」

 メイが呟いた。

 「なるほどなぁ」

 ヤミがあきれ顔で頷いた。

 幼女たちは無視されるのが我慢できなかった、というわけか。

 周囲では、幼女たちの演奏の素晴らしさにスタンディングオベーションが始まっている有様である。

 「ねえ、ヤミ、メイ……」

 マナが珍しく難しそうな顔で二人の肩を叩いた。

 「ん? なんだよ?」

 「あの、ほらあの子……」

 マナが首をぐいいと傾けて、トランペットのリーダーらしき子を指さした。ヤミとメイが指の先を追う。

 十二神将の中で宮毘羅と呼ばれていた幼女だった。

 彼女は相当な距離があるにもかかわらず、ヤミたちが指さしているのに気づき、眼だけで笑い返した。

 「おい、あれ……」

 「みたいですね」

 「アユイだ……」

 ヤミが頭を抱えた。



          ☆



 野外ステージからほど近い緑地帯である。

 シチヨウーズと女子高生軍団、ポチに対して、不敵な笑みを浮かべた十二神将が勢ぞろいしていた。ヤミはすっかりうんざり顔。

 ポチをはじめとした面々、ハク、アム、ノア、燕は、先ほど食べ損なったチョコバナナを食べている。五色のカラフルなチョコバナナ。

 宮毘羅が余裕の笑みで口火を切った。

 「見ていただけたかしら? 私たちの演奏」

 ヤミが変に気圧されたように応える。

 「ああ。上手だった」

 それを聞いて、十二神将がにんまりする。

 「おのが敗北を悟ったということだな」

 と挑発めいた言葉を吐いたのは波夷羅。

 「そもそも勝負していたつもりもないけどな」

 「もー! そういうところが生意気なのっ!」

 年相応に可愛らしく地団駄を踏んだ。

 マナが顎に手を当てて、面白そうに言った。

 「ねえ、メイ。この子たちってさ」

 「ヤミにかまってもらいたいだけでしょうね、たぶん」

 すました顔で応えるメイに、十二神将が眼に見えてぎくっとなった。

 「そうなのか?」

 ヤミがうんざり顔を隠そうともせずに顔を振りむける。

 「あー、年おんなじぐらいだしねぇ」

 と白いチョコバナナのハク。

 「お友達になりたいのかもね」

 と緑のチョコバナナのノア。

 「わかんなくもないなー」

 とピンクのチョコバナナのアム。

 「素直になれんのだな」

 と黄色のチョコバナナの燕。

 「よっ、人気者っ!」

 と赤いチョコバナナのポチ。

 全員、完全な他人事の様相である。

 「うるさいなアホ犬」

 ヤミが冷たい眼で一瞥する。

 「俺にだけ冷たいっ!?」

 宮毘羅が肩をすくめて進み出た。

 「私たちは、私たちに逆らう者を許さない。湖緒音町の幼稚園界は、私たち十二神将を頂点にした絶対の秩序によって成り立っているの。おわかり? そこにたてつこうとする輩を我々は許さない。排除するしかないのよ」

 なおも得意そうに言い放つ宮毘羅に、ヤミは若干怒気を含んだ眼を向けた。

 「……わかった。よくわかった。だからな……」

 言いながらヤミは宮毘羅に近づいて、おもむろにごんっと拳骨を見舞った。

 「いい加減そのキャラやめろっ!」

 「……いったぁ!何すんだヤミ!」

 「お前こそ何やってんだ! つい最近まで封印されてた奴がなんで幼稚園児やってんだよ!」

 全員がへ? という顔で止まった。

 メイがため息をついた。

 「この子はアユイ。七妖の最後の一人ですよ」

 アユイは、大妖らしくもなくちょっとはにかんだ。

 そして、何となく間が持たなかったのか、お菓子メーカーのキャラクターのごとく片眼をつぶって「てへぺろ」としてみせた。






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