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幼なじみに首輪をつけるのもやむを得ない……っ!  作者: 真野英二
第4話 「黄莉<キリ>または報われぬ想いについて」
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 ポチは裏山を巡っていた。

 正直ずっとサボっていたのだったが、加星供かしょうく縛法ばくほうで成立している個々のほこらを検分していたのだった。

 「ここもか……」

 ポチはがっくりと項垂うなだれた。

 予想はしていたが、お堂は陰行月縛のヤミ、水行のメイ、土行のマナ、封縛の札は綺麗に縦に割られていた。眼の前には、両手で持ち上げられるほどの祠があり、正面に「木縛」という札。それが同じように一文字に縦に割られている。

 「七つの祠の封印が全部解かれてる……。誰がこんなことするんだよ……」

 「さてな」

 ポチの後ろにはヤミが立っていた。両手を頭の後ろで組んで、興味なさそうに口を尖らせている。

 「さあ、て……お前封じられてた本人だろ?」

 片眉を上げて不満そうにポチが振り返る。

 「そんなこと言われてもな。出られそうだったから出ただけで、その前のことは知らんよ。なあ?」

 ヤミが気だるそうに頭を振って、メイとマナに声をかけた。

 メイとマナは同じくだるそうに木に寄りかかっていて、メイがクールな眼で一瞥して興味なさそうに応える。

 「わかるわけないでしょう。ずっと封じられてたんですから。それを調べるのがあなたの仕事じゃないんですか?」

 「ぐっ……」

 幼女に正論を押し込まれて黙るポチである。

 「あれですね、学校の同級生にも親にも相手にされない生ゴミのような若者の仕業では?」

 メイが悪戯っぽい眼になって付け加えた。

 「ちょっ……」

 「家庭でさげすまれ、職場でも居場所のない哀しい中年じゃろう」

 ヤミが半畳を入れる。

 「うおい……」

 「そうね、育児に非協力的なダンナに不満が爆発寸前の主婦とかもあるね」

 マナが面白そうに参加した。

 「発言小町でイキッてるのじゃが現実ではDQN返しを夢見るだけの」

 「……やめろお前らっ! もっとイメージ保てよっ! 現代に詳しすぎだろっ!」

 なんとはなしに喚いたポチをヤミがギロッと睨んだ。幼女の姿をしていても大妖の迫力である。

 「あぁ? こっちはお前に封じられてるから、ネットやテレビぐらいしかやることないんだよっ!」

 「話し方でちゃんとキャラ立ちしてるじゃないですか。お望みなら語尾になんかつけましょうか?」

 「あっ、それいいね! ポチにゃん。お腹すいたにゃん」

 メイの言葉にマナが人の悪そうな笑顔で嬉しそうにツッコんだ。

 「さっさと一番高い肉食わせろブヒ」

 ヤミが笑う。

 「退屈ですモジャ。地面にめり込むまで土下座してほしいモジャ。そしたらご褒美に尻からたらふく水呑ませるモジャ」

 メイが珍しく悪ノリに付き合う。

 「……却下だ却下! いまどきドSようじょ程度の属性で売れると思うなっ!」

 ポチのある種悲痛な叫びが山にこだまする。



          ☆



 今日は寄り道はない。

 部活の帰り道の三人組である。

 「あー、ハードになってきたね」

 首を鳴らしながら、ハクが息をついた。

 「レギュラーかかってるんだし、当たり前でしょ?」

 アムが不満そうに言う。

 「さてねー。上手い順なんだから、ある程度はもう決まってるでしょ?」

 「いやだなあサブチーフの余裕のセリフ。そりゃそうだろうけどさ、曲のイメージとか構成とかでどうなるかわかんないでしょ? 神谷コーチはフレキシブルだよ?」

 「んにゃ、アムはがっつきすぎだって。もっとふわふわっとした感じで行こうよ」

 「ふわふわでいいのはハクかマシュマロくらいなの!」

 「いやあ、たまにはふわふわな時間、すなわちふわふわタイムが必要だよ?」

 「そんなタイムいらない」

 たまりかねたようにノアが笑った。

 「あははは、ふたりは仲いいなあ」

 困ったように笑うハク、アムがねたように言う。

 「あのね、どこをどう見たらそう見えるわけ? ライバル、ね? ライバル」

 「ノア、天然不思議系はもう世間的には食傷気味なんだよ?」

 「そうかなぁ? おそろいの首輪つけてるのに?」

 ノアが無邪気にふたりの泣き所をえぐる。

 一瞬でハクとアムが固まった。

 「なーんかさ、私だけ仲間はずれみたいだなー?」

 「い、いやいやいやいやいや、これは全っ然、そーゆーのじゃなくてね?」

 アムが無表情のまま早口で顔の前で手を振った。

 「ふーん? そうなん? アムにしては珍しいなー、て思ってた。そんなストレートなことするなんてさ」

 アムが無表情を加速する。

 「何、なに? ストレート? もぎゃ?」

 「これはねえ、話すのもバカらしい事情でふわふわしてるのよ」

 ハクがうんざりと眉を八の字にして返す。

 「ほんとに意味わかんない」

 ノアは面白そうにふたりの反応の違いを見比べている。

 と、ハクのケータイが鳴った。

 スラッシュメタル。

 ということはポチだな、とアムは思った。

 ハク曰く「欲しくない電話の心構え」、ノイジーな呼び出し音にしてるとのことだったが、わざわざスラッシュメタルにする、という時点でそれは何らかの引っかかりがある、ということだ。なかなか長い付き合いというのは難しい。

 「んー……」

 眉を八の字にしたままハクがケータイを耳に当てた。

 「はい! もしも……」

 「ハクかっ! 頼む今(ズババっ!と大音響)うおっやべえっ!あのっ! 大井山でっ!(ズジャァッ!)ぴぎゃあっ! 死ぬうっ!」

 「わかった。死んどけ。香典ははずむ」

 「ハクさんっ!」

 受話音量をだいぶオーバーレブした声が聞こえたが、ハクは何事もなかったように電話を切った。

 「ちょっと……ハク、今のって……?」

 「いいのいいの。このへんでショッキングに死人を出しとけばね、勝手に「深い」とか「普通の作品」じゃないとか言われるんだから」

 にこやかにハクは笑った。



          ☆



 ポチは通話を切られて愕然となったが、それは表情だけで、山道を走り続けている。

 両脇にヤミとメイを抱え、背中にマナ。

 持久力はないけれど、短い時間ならポチもなかなかの力持ちになれる。

 メイがポチの耳に押し当てていたスマホを離した。

 「切ったなハクっ! 覚えてろっ!」

 「来るブヒ。右だブヒ」

 ヤミがボソッと言うのに反応してポチが右に飛ぶ。

 一瞬前までポチの身体があった空間を、巨大なフラフープのような光輪が縦に飛び去った。行く手の木々をことごとく斬り裂いていく。

 「いい、いいいまの死んでたろっ!?」

 「そうだブヒ。もういい加減腹をくくって戦ったらどうだブヒ?」

 「すぐ女を巻き込もうとするなんてカッコ悪いモジャ」

 「語尾やめろうぜぇぇぇぇっ!」

 ポチは意を決して足を止めた。振り返る。

 大きく上空でカーブした光輪が、ひとつ向こうのこずえに立っていた彼女の手に戻った。

 異装である。

 服、とはちょっと言い難い、植物の皮をなめして細く編みこんだ帯を、スレンダーな胸と腰と胴体部を中心に巻き締めているような……簡単に言えば、防御を兼ねて全身をさらしのようなもので覆っている、と言う感じ。そして手足、肩、腰には、もはや大妖であることの証明のように、具足がついていた。繁茂する森の木々、風雪にたえる常緑樹といった意匠、生命の基本を象徴する木行。

 全体、身体にぴったりした衣装というか、よくある「合法的な裸」である「何とかスーツ」的なものが植物で構成されているわけである。

 何というか、隙間から見えそで見えない上に、強く巻き締めているために白い胸元が上にはみ出ている。寄せ上げ効果だ。

 思わずポチは眼を逸らした。

 ポチの葛藤などつゆ知らず、ショートカットの彼女は八重歯を見せて笑った。美少年的な見かけどおり、活発な少年のようなハイキーの声。

 「やっと諦めたか?」

 右わきのヤミが応えた。

 「キリか。久しぶりだな」

 「んん?」

 キリと呼ばれた美女が眼を細めた。

 「お前……ヤミか? あれ、そっちはメイにマナ!」

 「どうも。お元気そうですね」

 「久しぶり~!」

 左わきのメイと背中をよじ登ったマナが応えた。場所が場所ならば、子どもたちに人気のある保育士だ。

 「あっはっはっはっは! 三人ともなんで魂魄丸出しなんだよ!」

 キリは大口を開けて笑った。つつしみとは真逆の、開放的な女性らしい香気が弾ける。

 「ほっとけ」

 ヤミが口を尖らせて応えた。

 「憑代どうしたんだよ? いないの?」

 「……いろいろ事情があるってことです」

 メイが冷静に返した。

 「なんだそれ。ま、いっか、どうせそこの空賢のせいなんだろ?」

 キリが光輪を回し始めた。見る間に速度が上がり、空気を斬り裂く音に変わる。

 「死んでもらうよ、空賢」

 「お、俺は空賢じゃない! 空賢じゃないぞ!」

 「とぼけんなよ、顔おんなじじゃんか」

 「え、え、そうなの?」

 疑問は三人の幼女に向けたものだ。

 「そうだな。よく似てる」とヤミ。

 「うん。ムッツリなとこそっくり」とマナ。

 「……あのコはおバカなので、末裔とかそーゆーのはよくわかっていないのでしょう」

 メイが結論した。

 「なんかよくわかんないけど、ほらよっ!」

 キリが軽い掛け声とともに光輪を放った。言葉の調子とは裏腹に、光輪は高速回転するのこぎりのように高い音を立てながらポチに飛んできた。

 「うおっきたあっ!!」

 ポチはヤミとメイを放り出して、取り出した金剛杵で間一髪光輪を防御する。

 一瞬の耳障りな高音と盛大な火花が辺りにはじけ飛んだ。

 かろうじて光輪を弾いたが、力負けしたポチが後ろざまにごろごろごろんと吹き飛ばされた。樹の幹に後頭部を打ちつけて悶絶する。

 「お、おお、おおおおおおお~っ!」

 直前に飛び退すさったマナが明るくポチを覗き込んだ

 「大丈夫~?」

 「……」

 「まったく情けないな」

 「あの術はどうしたんですか変態さん?」

 冷ややかなメイを見やって、ポチは頭を振って立ち上がった。

 「……あと二時間」

 「は?」

 ヤミが訝しげに見上げる。

 「だからっ……七曜封縛が使えるの、あと二時間後なんだよっ」

 「何それ~?」

 ポチはマナの無邪気な質問に答えるように語気を荒げた。

 「宿曜道の術はっ、使える時間が決まってんのっ!」

 「はあ?」

 「当たり前だろ? 七曜てのは太陽と月、水星火星金星木星土星、星の配置から法力を取り出すんだもんよ! その配置に来るまで何も出来ねえよ」

 三幼女ともポチの言う意味がよく理解できなかったようで、わずかの間ぽかんとする。が、ふつふつと笑い初め、大爆笑になった。

 「あはははは。なんだその術! ずいぶん使い勝手が悪いな!」

 「涙ぐましくて微笑ましいですね」

 ポチはむっとしたが、まあ仕方がない、その通りだし。

 三幼女の爆笑を尻目に、気合を入れて宣言した。

 「だから逃げるっ! 逃げて逃げて逃げまくるっ!」

 言うや否や、逃げ出した。

 山道を、もう暗くなり始めた細い道を、器用に障害物を避けながら、わき目もふらず走り去った。

 「あ?」

 笑った口の形のまま、ヤミが止まる。

 「……おい、あれが主人公っての、いいのか?」

 「……いいんじゃないですかね。主人公がダメなほど温泉が輝くというものでしょう」

 どこまでも冷静なメイであった。






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