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その13
鈴代は顔を上げた。
頭上では樹々が手を広げ、その向こうで鈍色に曇った空は今にも泣き出しそうな顔をしている。もうすぐ降り出すやもしれない。
その間にも進み続ける足は止めない。石から石へ、地面を駆け、空を飛ぶように地を走る。行く手を阻むはずの樹も、まるで向こうから避けるように道を開ける。
鈴代の目には、ぴんと張った糸が見えていた。
嫌な予感がした。とんでもなく苦みばしった何か。
だから、こうして薬の調合も、午後の往診を放り出し、今は全力で走っている。
通常、旅人は険しい山道を行く。
だがこれは、獣や人ならざる者も通う、もうひとつの道だ。
神域と神域をつなぐ、神ながらの道――と呼ぶ人もいる。
「間に合ってくれよ――!」
鈴代は駆ける。疾く、疾く、風のように。




