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その一

簡単なキャラ紹介


鈴代 医者。顔と腕はいいけど、女の子と酒には弱い。わりとダメな人間

甘斗 弟子。三男坊なので実家を追い出されて弟子入りした。人生を悟りつつある十歳。

輪廻 鈴代の弟子。甘斗の姉弟子にあたる。でも見た目は明らかに幼女。絵が上手い

楽浪 鈴代の家に住み着いてる自称屋敷神。常に狐の面をつけている変人。






 天下太平が訪れ、早数百年の時が過ぎた。

江戸を中心とし、既に盤石と思われた天下にも無数の綻びが現れ始めていた。

それは二種類に分けられる――目に見えるものと、見えないもの。

その前者は飢饉、火山の噴火や地震などの自然災害に加え、打ち壊しや幕府への反旗を翻す人の災い。

後者は、疫病、悪霊、まだ知る由もないが、外つ国から狙う列強諸国など。

そして『物の怪』と呼ばれるものによる災いだった――


***


 折しも五月の目に青葉。さわやかな緑風流るる初夏の候――

 が、そこに響くのは爽やかならぬ五月雨であった。

 草木に滴る雨にどっぷりと浸かり、町は時めいた雨に濡れていた。

「ごめんくださーい」

 ここは江戸から甲斐に抜け、そこから京を目指す街道の宿場町のひとつであった。

 この家は町でも有数の薬商である。客が来ることは珍しくはないが、こんな雨の日に、しかも事前に手紙もなく訪ねてくるとは。

 いったい誰だろう? と首を捻りながら、若い女中は玄関へと急いだ。

「ったく、傘くらい買ってくださいよ、先生。おかげでずぶ濡れじゃないすか、もう」

「いいじゃん。水も滴る良い男ってことで」

「馬鹿なんすか? 医者が風邪引いたら笑い話にもならないすよ」

 玄関口には青年と、十ばかりの少年がびしょ濡れになって待っていた。

 顔を見なれたお得意さまでないのはもちろんのことだが、商人ですらない。成人を過ぎて頭を月代に剃らないのは僧か浪人くらいなものだ。

けれど、青年はそのどれにもあてはまりそうにない。僧衣ではなく黒い墨染の羽織を着て、伸ばした髪をひとつに括っているが、腰には刀を差していない。代わりに、旅人か修験者が持つような木の杖を携えている。

青年は穏やかな表情で、女中を見つけるとにこりと愛想よく笑った。

「どちらさまですか?」

 肩から水を払っていた青年は、尋ねる女中に微笑みかけた。

「医者の鈴代が来たと伝えて下さい。それで伝わると思いますから」

 それを口にすると同時に、女中は緊張した様子を見せた。

 それだけ、この屋敷の秘密に関わることであるからだ。

 彼女が何かを言う――よりも早く。

「わかりました。貴女を診ればいいんですね、お嬢さん。安心してください、恋の病なら治すのは得意ですから」

 がしっと手を取った鈴代に、若い女中はうぶに顔を赤く染めている。

 少年は呆れてため息をついた。またか、と言いたげに。そして、慣れた様子でずいっと二人の間に割り込む。

「すいません。この人は気にしないでもらえますか? ちょっとした性癖なんで」

「は、はあ……」

「ははは、じゃあお嬢さん。また後で」

 などと言い、青年――鈴代は女中に気楽に手を振っている。

 まだ手を振っている鈴代のすねを、甘斗は思い切り蹴った。

「痛っ! 何するのさ、甘斗」

 足を押さえて跳ねる鈴代を、甘斗は冷めた目で見つめた。

 まだ数えで十になったばかりで、本来ならきらきらした目で将来を夢見ている年頃だろう。だが、甘斗は世間というものをよくよく分かりきっていた。

「あんた、何しに来たんすか? 仕事でしょうが。わざわざ診て欲しい人がいるってわざわざ山奥にまで呼びに来たんすよ? しかも、こんな屋敷に招待して。これは先生の一生に何度も来ないチャンスなんですから。ここで病気治して、謝礼をもらえば生活も安定して楽になるんですよ。だから、真面目にやってください」

 鈴代はぽりぽりと頭を掻いた。

「うーん、気が乗らないんだけどなあ」

「乗ろうが乗るまいが病気は治してもらいますから。先生は知らないかもしれないですけど、人間は金がないとメシが食えないんですよ」

 先生――という呼び名の通り、甘斗は鈴代の弟子であった。

何の? と問われれば『医者としての』である。

これは不本意だが仕方がない。何せ、江戸では無駄飯食らいの二男や三男が幼い頃から丁稚奉公に出されるのも珍しいことでもない。三男坊であった甘斗もその例外には漏れず、こうやって鈴代の元に住み込みで弟子入りすることになった。

 そこは百歩譲って認めよう。

 けれど……

「やあ、美しいお嬢さん。今日は生憎な天気ですけど、雨に降られたのも悪くはないですね。こうやって貴女の元に雨宿りできたんですから――あ、さっきのお嬢さん。またお会いしましたね。やはりこれは他生の縁――」

「もう、頼むから黙っててください、先生……!」

 目の前を通る女性に片端から声を掛ける鈴代に、甘斗は頭を抱えた。


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