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桃色兎は夢を見る 2
李月が千尋に特別な好意を寄せはじめたのは、それから2ヶ月後のことだ。
あの日の全てを鮮明に覚えている。
それは、初めて千尋が学校を休んだ日だった。
あんなに元気な彼が。病気でもしたのだろうか。
ちょっとした想像が不安に変わり、激しい虚無にさらされる。
あんなに鬱陶しかった声がないだけで、こんなにも1日が静かだなんて。
「じゃあ、お家の近い華代ちゃんと輝くんが、千尋くん家に今日のお便りを持って行ってあげてくれる?」
先生が、優しい声色で2人の名前を呼ぶ。
華代ちゃんと、輝くん。
友達の多い千尋くんの、1番仲良しな2人だ。
「まあどうせあいつはあれしてるんでしょうね」
「…うん、多分」
2人の会話が耳に入ってくる。
千尋が休んだ理由にはもう検討がついているようだ。
「じゃあ行きましょ」
小学生とは思えないような大人びた華代の呼びかけで、輝もランドセルを背負って教室から出る。
少しくらい、遅れてもいいかな。
2人の後をこっそりとついていくように、ランドセルにつけたウサギのマスコットを揺らしながら、李月も教室を出た。