桃色兎は夢を見る 1
少女は今日も、想いを寄せる王子様を追いかける。
少女の言う"王子様"に出会ったのは、小学校4年生の時だ。
少女、桃瀬李月は、友達がいなかった。
転校したばかりで不安だったということもあったのだろうが、転校したての頃の不気味で近寄り難い雰囲気からか、少女に近づく物好きはいなかった。
まあそれは、霜月千尋という例外を除いての話だが。
「桃瀬、桃瀬も外出てドッジボールしよう!」
第一印象は、鬱陶しい人だった。
私なんかを誘って何になるの、運動音痴な私を笑いものにしたいの。
目の前の少年に対するその言葉を飲み込んで、首を横に振る。
「え〜!そっかー。楽しいのに〜。」
李月の反応を見て直ぐ、心の底から残念そうな顔をして、手に持ったボールをぎゅっと抱きしめる。そのまま、皆みたいに離れて行ってくれた方が楽だった。楽だったのに。
「じゃあ、明日鬼ごっこしよう!それなら遊んでくれる?」
さっきまでの残念そうな表情はどこへいったのか。曇りひとつない笑顔で、李月に問いかける。李月は顔を顰めた。
桃瀬李月は、極端に運動ができない。彼女のいるクラスのリレーは、どれだけ差をつけて1位でも彼女の順番から順位が下降していく。ドッジボールでは、敵チームからの格好の的になる。元々の暗い性格も相まって、このような性格になってしまったのだろうか。
「…ドッジボールでも鬼ごっこでも、遊びません。」
長い髪で顔を隠すように俯き、か細い声で千尋の誘いを断った。
ああ、なんて鬱陶しい人だ。気を遣ってまで私に構っていないで、早く外に遊んできてくれないだろうか。