才色兼備は光に堕ちる 5
最近、よく夢を見る。
夢なんて起きたら忘れてしまうようなものだが、衝撃的なものは、起きてからも鮮明に覚えている。
その夢から目を覚ましたのは、携帯電話の着信音。この携帯を購入してから今まで着信音を変えたことがないため、初期設定の面白みのない電子音のままだ。
寝ぼけ眼を擦り、鳴り止まない携帯を手に取る。
画面には、「足立茉里」と書かれていた。
足立茉里。 1番会いたくない女の名前だ。
かなり前の話だが、霜月千尋には面倒な彼女がいた。
付き合った理由は特にない。告白されたから、付き合っただけ。
付き合ってみて、合わなかったら別れるつもりだった。今までもそうだった。
「…どうしてそんなこというの?」
彼女とは、足立茉里とは合わないと確信したのは、彼女の本心を見てからのことだ。
付き合い始めの頃、彼女のことは可愛いと思っていた。料理もできて、頭も良くて、他人想いの、優しい子だと。
「茉里は千尋くんのこと、こんなに好きなのに」
彼女の愛は、千尋には重すぎた。
千尋のことが好きな女の子を徹底的に調べ、心が病んでしまうような嫌がらせをしていたらしい。
自分のモノに近付かせない為。それに気付くのは、遅すぎた。
「…ごめん。」
何度別れようと言っても、茉里はまだ好きなのに。どうして。そればかり。
…こうなったのも、自分が悪い。
好きでもない子と付き合っていた俺は最低だ。最悪だ。
足立茉里と別れた日、千尋は何度も、謝罪の言葉を吐き出した。
思い出したくもない、記憶だ。
鳴り続ける電話を、取ることはなかった。
出たくなかった。出る気が起きなかった。
「………」
布団に包まり、時が過ぎるのを待つそのまま、眠りにつく。
今日も見た夢。柊華代が死んでしまう夢。