才色兼備は光に堕ちる 4
霜月千尋が柊華代に好意を寄せはじめたのは、小学2年生からだったと記憶している。
あの頃の記憶は曖昧で、詳しくは覚えていないが、好きだと自覚したのは確か、少し遅れて小学5年生の頃だ。
小学2年生。まだ好きな人に気楽に好きだと言える年頃。恋愛と友情の境目も曖昧な年頃。好きだと伝え易いそんな機会を、恋愛に疎いばかりに逃してしまったことは、今でも後悔している。
「華代ってさ、好きな人いないの?」
中1の秋。
ふと、聞いたことがある。
いかにも勉強が恋人だとでもいいそうなくらい真面目な彼女だが、もしかしたら、という少しの希望を信じたかった為の行為だった。
「好きな人?」
千尋が問いかけた内容を、改め聞き返す。
華代は急に何を、とでも言いたげな顔をしているが、少し考える仕草をした後、応えた。
「…そうね。多分、いるんじゃないかしら。」
昔の自分と同じく恋愛に疎い華代らしい、この事に関しては自分でも言い切ることができない、というような返事だった。
その相手は、誰なの。
怖くて、聞くことができなかった。
「へぇ、勉強ばっかりの華代がねぇ〜。珍しい。」
自分を慰めるように、笑う。
自分の好きな人には、好きな人がいる。それが自分ではないことはわかっている。
自分の期待した答えが返ってくるなんて期待していなかったし、実際返ってこなかった。
そんなことならいっそのこと、居ないと言ってくれた方が楽だったのに。
「まだ分からないのよ、好きなのか。」
その声が千尋の鼓膜を震わせたのは、彼女がその言葉を零してから数秒遅れてのことだった。