郵便屋さんと恋人
お開きいただきありがとうございます。
「どうもこうもないよ!」
逢魔が時で停止した夕日を背に、佐伯神菜は叫んだ。
「どうして、どうしてこうなっちゃったの!」
悲痛。絶望。諦観。
彼女はぽろぽろと涙を流しながらふらっと数歩歩くと、目の前にいた荒木響都に膝をつきながら縋った。
「ねえ。なんで、なんで死んじゃったの! ゆーちゃんもはるちゃんもさつきちゃんも……皆、なんで……なんで!」
「それは……」
なんとか答えようとしてる響都もかなり身体をボロボロだ。
響都は躊躇い、葛藤し、そして苦悶の表情を浮かべると、ゆっくりと口もとを釣り上げた。
「全部、僕のせいさ」
「……え」
目を見開いて聞き返す。
今、彼はなんと言った?
何故、笑みを浮かべてるのか?
どうして、どうして――
「僕が、『郵便屋さん』をはじめなければ……」
郵便屋さん。
それは職業の郵便屋さんではなく、最近学校で流行っていたアナログのゲームだ。
五人が一つの机を囲い、一人が『みちこさん』に手紙を書く。
そして五人で一斉に唱えるのだ。『みちこさんみちこさん、文通しましょう』と。
この手順を正しく行えば、彼らはこれからも仲の良い友達でいられる。
しかし、
「正しい手順でやらないと僕らはバラバラに引き裂かれてしまう。……交友関係ではなく、五体がバラバラに、ね」
だから、と。
彼はこう続ける。
「僕が正しい手順をきちんと学ばないまま、そしておまじないだって侮った結果がこれなんだよ」
疲れた。
彼は最後にそう言って口を閉じた。
そんな彼をキッと睨む。
が、そんなことは出来ない。
何故なら、神菜は根が優しいから。負の感情に慣れていないから。
次々と死んでしまう彼女たちを思い、一筋涙する。
「僕たちはこれからどうなるんだろうね」
彼は膝をついて神菜と目線を合わせる。
(なんで今まで気づかなかったんだろ……)
神菜は思う。
彼の表情は確かに笑ってる。諦観して、死を受け入れたように、笑っている。
でも、その前に憔悴していた。
抗って、抗って抗って抗って、それでも駄目で。
次々に親友が死んでいくさまを眺めることしか出来なくて。
その全ての原因が自分にあることが許せなくて。赦せなくて。
「ああ、僕は」
――死んでしまいたい。
彼がそう紡ごうとした口を唇で塞ごうと――――
「はーいカットー!」
唐突に間延びした声が彼らの耳に入り、ピタリと彼らの動きが止まる。
「はい、二人共おっつかれさま!」
教室……だったところに大の大人が何人も入ってくる。その真中にいた中年太りの無精髭を生やした男が缶のりんごジュースを二人に差し出しながらねぎらいの言葉をかけた。
「いっやー、すっごいね君たち。演技力がハンパないよ、うん。うんうん、ハンパないっすわー」
「いえいえ。僕はまだまだですよ」
「響都君、本当にすんばらしいよぉ。あ、勿論神菜ちゃんもね!」
「い、いえ……私なんかひ、響都くんに比べたら本当に子供のお遊戯みたいで」
「そんなことないさ。神菜、君の演技力は僕も見習わなきゃいけない所がいっぱいあるんだ。そう言わないでくれよ。それに」
顎をクイッと持ち上げると、顔を接近させる。
「神菜、子供のお遊戯でも、僕は君を最大評価しちゃうよ」
……何だこのキザ男は。
周りからの生暖かくも突き刺さる視線が響都を貫くが、全く気にすること無くそのまま額にくちづけをする。
「ひ、ひひひひひひびとくん!?」
「なんだい?」
「み、皆見てるし……監督さんがその……近くて……」
顔を赤らめてもじもじし始めると、監督は「むっはー!」と興奮気味に響都に近づいた。
「響都君! この「郵便屋さんが終わったら今度は恋愛ドラマにでてみないかい!? もちろん、ヒロインは神菜ちゃん! ね、ね! どうだい、どうだい! 僕がプロデュースするよ!」
「そうですね……僕の大事な神菜をアピールできるチャンスとなるんでしたら、その誘い、受けましょう」
「ひ、響都くんったら……えへへ、嬉しいなぁ」
「僕も神菜が喜んでくれて嬉しいよ」
『響都くん……』『神菜……』と愛しそうに名前を呼び合う二人。
とても仲睦まじく、周りの観衆は「これ、ドラマ撮ってるわけじゃないよね? ねえ?」と確認しあっていた。
ちなみに、この後のドラマの展開は血で血を洗う人間のみ悪いところがでる展開になるのだが、それでも二人の仲が保てるかは神すらも知らない。
お読みいただきありがとうございます。
おさらい:好奇心猫を殺す。
【正しい郵便屋さんの遊び方♪】
1.机を囲い『みちこさん』宛のお手紙を書いて真ん中に置きます。
2.囲った全員がお手紙に指を置きます。
3.『みっちー、文通しないかい?』とキザっぽく、人数分唱えます。
4.最後に手紙を書いた人が真ん中を綺麗に破けば終了です。
皆の中はみちこさん込みで仲良くなります。




