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呪われし魔王の安寧秩序  作者: 鳳仙花
第二章・侵攻、そして防衛
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炎帝とルナの一戦

ルナが炎帝の足止めをしている間に、すでにアテナ達は輸送隊である馬車を連れてこの場からは遠ざかっていた。

この先もまたアテナ達は襲撃されると思うと心配だが、ルナは目の前の強敵である炎帝に集中した。

離れているのに、さっきとは段違いの熱さが肌で感じ取れる。

ここまでの熱さとなると、ルナは炎帝に近づくだけで体力が多く奪われていきそうな程となっていた。

しかし熱いなどと、文句を垂らすわけにもいかない。

ルナは両剣の手斧を構え、今度は攻めではなく受けに徹する姿勢をとる。

それに炎帝はルナが攻撃を仕掛けてこないと数秒足らずで勘づき、両手に炎を集めだした。

お互いに相手の動きを極限まで集中して観察し、殺気を込めてにらみ合う。

戦いに余計な言葉などいらない。


炎帝はゆったりと体を動かしたと思うと、その動きに緩急をつけて走り出し、両手から最初の襲撃のようにいくつもの火の玉を放った。

炎帝も火の玉も怒涛の速さでルナに向かっていくが、ルナは目を細めながら武器を構えて、自分の所に攻撃が届くまで微塵とも動きはしない。

そして先に火の玉がルナに襲いかかるが、ルナは自分の体に当たる火の玉だけを武器を振り回しながら手早く打ち砕いていく。

火の粉が散って小さな火傷がルナの手にできていくが、何も感じていないかのようにルナは気にせず次々と火の玉を壊していっていた。


しかし打ち砕いている途中で炎帝はルナに接近しきったようで、大鎚のような腕をルナの頭を狙って横殴りに振ってきた。

その炎帝の動きに合わせてルナは姿勢を屈めて避けるが、炎帝が振った腕からは凄まじい炎が撒き散らされてルナの後ろを火の海にしてみせる。

そこから更に炎帝はしゃがんで、ルナの足元を狙ってもう一度腕を振るった。

今度はルナは上に跳んで避けるが、次に足元が炎で包まれる。

炎帝はそのことに悪意ある微笑みをみせると、ルナの足元の炎が形を変え始めて大きく天に向かって噴き出した。

ルナの足元にできた炎が火柱となって、跳んでいるルナに襲おうとしてきたのだ。

だが咄嗟にルナは両剣の手斧を地面に突き刺して姿勢を安定させながら、両足で炎帝を蹴ってその場から逃れた。


蹴ることによってルナは大きく跳んで逃れたが、靴が燃え始めてしまっていた。

でもルナは蹴った時に縦に回るように体に回転をかけていて、その回転の勢いで火を振り払いながら冷静に地面に着地する。

もはや動きも対処も人間のする事とはかけ離れていた。

炎帝は着地を狙って火炎を放ったが、ルナはマントでまずは飛んでくる炎の勢いを防ぎ、両剣の手斧を回転させながら炎を当然かのように振り払った。

そしてその両剣の手斧を回転させたまま、炎帝に放り投げた。

今度はブーメランのように弧を描くのではなく、真っ直ぐに武器が回転しながら炎帝に向かって飛んでいく。

炎帝が投げられた両剣の手斧に目がいったとき、ルナは姿勢を少しだけ屈めてから全力で地面を蹴って走り出した。

武器を手放したからなのか、わずか数歩で数十メートルは移動できてしまう、低く跳ぶかのような足取りで移動する速さは今までの比ではなかった。

もはやその速さは天狼の初速よりずっと早く、完全にさっきまでの動きが手加減していたのかと思わせるほどだ。


「表裏の型、燕円舞闘(えんえんぶとう)


ルナが言葉を口にしたが、ルナの動きの方が音より早く思えた。

炎帝が何か行動する前にルナは炎帝の目の前に立っていて、一度力強く足踏みしてバク宙しながら炎帝の顔を蹴り上げた。

蹴られた炎帝の顔には切り傷ができていた。

どうして蹴りで切り傷ができたのか、それはブーツに隠し刃がしこまれていたからで靴底を強く踏んだら刃がでる仕組みなのだが、炎帝は理解どころか切り傷ができたことを確認する時間すら与えられない。

先に投げておいて遅れてきた両剣の手斧をルナは受け取り、正面から炎帝を通り過ぎながら二回斬る。

続けて接合を外して両手にある手斧で舞うかのように炎帝の背中を残像すら生み出す速さで何度も斬っていた。

続けて地面に手斧を二本とも突き刺して、手斧の柄を繋いでいる紐を手にして炎帝の頭上を跳ぶ。


跳んでいる途中でルナはマントの下から新しくボウガンを取り出し、炎帝の足元に向かって金属の矢を放ちつつも紐を引っ張ってから着地する。

すると引っ張られた紐により手斧は地面から引き抜かれ、炎帝の両足を切りつけながらルナの手元に戻っていった。

ルナは手元に手斧が戻ると一瞬で接合し直して、炎帝の首に刃を当てる。

そこから引き吊り落とすかのように引っ張って、炎帝の体を地面に叩きつけた。

その叩きつけられた地面にはルナがさっき撃った金属の矢があり、矢は地面に刺さっていれど金属でできているために地面に生えた鉄棒と変わらず、炎帝の体を貫いてしまう。


「うぅぐぅうっ!」


すぐに金属は溶けるが、刺さったには変わり無い。

しかも金属の矢が溶けるのは炎帝にとっては不運となる。

矢には爆発の札が何枚も巻かれていて、燃えだしたことにより強制的に式術が発動されてしまう。

複数枚による式術の爆破は、巨大な爆発を起こす。

炎帝を中心にしては数メートル辺りは吹き飛ばす爆発が引き起こされ、一気に轟音と火炎が広がっていった。

ルナはマントで身を包みながら爆破に合わせて後ろに跳び、身に降りかかる爆発の勢いを完全に殺して地面に平然と着地する。

そして炎帝は…………。


「はぁはぁはぁ……、さすがだなぁ…人間。まるでお前の動きには追いついていけん…!しかし、負けたわけではないぞ!」


爆発の中から、炎帝は溶岩のような液体を垂らしながら立ってみせた。

溶岩のように熱く垂れているのは炎帝の血だ。

彼は、数年ぶりに出血をした。


「………炎を操って爆発を抑えたのね。さすがは炎帝といったところか」


炎帝が生きていることにルナは特に驚きもせず、冷酷に状況を口にしただけだった。

余裕が崩れないのは当然かもしれない。

ルナの猛攻を耐えたにしろ、炎帝は深手を負っている。

まだ勝ち目は充分にある。


「悪いが……ここまでだ。お前には俺に近づくこともかなわん!」


叫びながら炎帝は今まで撒き散らした炎を集めだし、自分の体に纏わせた。

もはや炎帝の姿は火炎の嵐となり、姿が見えもしない。

更に火炎の竜巻を沢山に生み出して、一帯がさっきまでのような平然とした草原とは違って火炎地獄となる。

飛び火しては更に炎を広げ、広がることにより炎は更に巨大に強力となっていく。

さすがにここまでされると、今のルナの装備では太刀打ちができない。

ただでも万全な状態で斬ることができず、最初から撃破は無理といってよかったのだ。

だからと言って、いくら素早かろうとルナは簡単に逃げることが許されるわけもなかった。


「行くぞォ!ルナよ!」


炎帝はルナの名前を口にして、地面を燃やしながらルナに向かって突進していった。

もう輸送隊は離れている上に、今は完全に炎帝の狙いはルナとなっている。

そのことを踏まえて、ルナは最初に炎帝がいた近くの山へと跳んで移動していった。

もちろん炎帝はその背中を追っていく。

離れているにも関わらず、ルナの服は今にも焦げ出しそうだった。

時間が経つにつれ、どんどんと炎帝の火力が増していっている。

一体どこまで燃えても彼本人は平気なのか。

それは炎帝自身も正確には分かっていなかった。

ルナは手斧をフックがわりに使いながら山を猛スピードで駆け上がり、持ち前の身体能力で炎帝よりも早く上の方へと上がっていた。

そして頂上付近となるとルナは山の地面に爆破の式術を次々と貼っていき、頂上へと上り詰めた。

見下ろすと炎帝が真っ直ぐ同じように、頂上へと向かって来る。


「……終わりよ、炎帝」


ルナはボウガンを構え、金属の矢を装填して炎帝に向かって放った。

その金属の矢は炎帝に当たる前に溶けていくが、また矢に巻かれていた札が燃えて爆発を起こす。

今度の爆発は炎帝にはかすりもしない。

しかし、それでよかったのだ。

爆発は地面に設置されていた式術と連鎖発動を起こし、いくつもの爆発を引き起こした。

山の一部の傾斜が爆発していく光景がルナの眼に映り、耳を衝くような渇いた爆発音が山にこだまして鳴り響く。

その爆発により山の土砂や岩が崩れ始めて、炎帝へと向かっていった。


「くっ!土砂崩れか!」


土砂や岩石はあまりの熱に溶け出すが重力の力に逆らうわけもなく、数秒足らずですぐに炎を土砂たちが飲み込んでいった。

さすがの炎帝も突如の土砂崩れには逆らえず、炎と共に飲み込まれようとしていく。

だが最後に炎帝は意地を見せて、纏っていた炎全てを巨大な火炎放射に変えてルナに向かって放った。

ルナはすぐにそのことに気づいて避けようとしたが足場が安定せず、巨大すぎる炎に煽られて体が吹き飛ばされてしまった。


「……っ!」


着地しようにも地面が急な傾斜のせいで、吹き飛んでしまった勢いを殺す事もできずに、体を地面にぶつけながら転がり落ちていってしまう。

炎帝はそのことを土砂の暗闇に飲まれる直前に分かり、最後に口元を緩めて笑いながら土砂へと完全に飲み込まれてしまった。

土砂が治まった頃にはもはや二人の姿はなく、山には静けさだけが残る。


こうしてルナと炎帝の戦いで残ったのは、二人のどちらかの姿ではなく地面を燃やす炎だけとなった。

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