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呪われし魔王の安寧秩序  作者: 鳳仙花
第一章・魔王軍
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魔王と報告

こうして大悪魔との戦闘を終えたあと、魔王はシャワーで念入りに大悪魔の血を洗い流した。

体についた血はこれで充分らしい。

そのあとは執務室で鷲の側近とこれからについての話することになっている。

微塵とも疲れた様子もなく魔王は執務室で席に座り、鷲の側近が紙を手にちょっとした会議を始めた。


「それで側近よ。参謀の件はどうした?」


「はい。選定の結果、二名決まりました。一人は魔王様が推薦した男性の人間軍師、そしてもう一名は女性である魔物のサキュバスですね。どちらも選定の野戦において大きな功績をあげました。他にもドラゴンなど候補はいましたが、そちらは兵の方が性に合うと自ら辞退されました」


「そうか…」


魔王はレーヴァテインを携えた妙なおっさんであった人間軍師の顔を思い出す。

見事あのまま勝つことができたということだ。

魔王軍の傘下に人間とは面白くなりそうだ。

これはひと波乱起こしてくれるに違いない。


「次に半精霊のシャルさんについてです。半精霊の魔法を詳しく検査したところ、大まかにできるのは付加魔法だけのようです。それによる治癒、破壊は少なからずできますが複数への対象に魔法をかけるのは不可能みたいです。また、距離もせいぜい二十メートル程が現状では限界のようです。その辺はこれからの鍛錬によりますか。更に、できるのは魔法だけで武器は扱えないというのも報告あげます」


「……魔法だけだと?厳密に頼む」


「飛行はできますがスピードは大したものではなく、また肝心な武器の扱いに関しては素人以下です。剣や槍、短刀すらまともに扱えるものではなかったのです。この様子では前線は非常に厳しいですし、捕虜にされた時は本人の力ではどうしようもないでしょう」


「ふむ、わかった。それに関しては俺が対策しよう」


シャルには自室のみに転移できる結晶石を持たせているが、没収や紛失されたら意味がない。

シャル自身にも戦える力が必要というわけだ。

あの魔法なら、うまく扱えば接近戦をこなせるものにできるはずだ。

魔王が思考にふけっていたが、鷲の側近は続けて報告をあげた。


「それですが明日、この魔城で正式に人間軍師とサキュバスを参謀へと任命します」


「ふむ、そうだな。皆にも紹介をしないといけないな。幹部は集まるのか?」


「申し上げにくいのですが、幹部は一名のみだけ来ます。炎帝です。あとの氷帝、雷帝、地帝の三名は戦闘の場から離れられないようで、北の魔城に来られないそうです」


「そうか、わかった。すでに無理がたたっているわけだ。よし明日だな。ついでに大悪魔の紹介もしよう」


「分かりました。一通りの報告は以上です」


報告が終わると、魔王は席から立って鷲の側近に尋ねた。


「大悪魔はどこにいる?一度話をしておきたい」


「大悪魔様には自室に案内しました。私の部屋の二つ隣のところです。今も半精霊の治療を受けているため自室にいるはずです」


「わかった。お前は仕事に戻るといい。付き合わせて貰ってすまなかった」


「いえ……、ではいってらしゃいませ」


魔王は鷲の側近に頭を下げて見送られながら、大悪魔の部屋の前へと転移する。

すると扉を開ける前に、耳を澄ますとシャルと大悪魔の話し声が扉越しから聞こえてきた。


「すごい………、大悪魔のって大きい……ですね。それにすごく硬い……です」


「我ら悪魔のはそういう奴らばかりだ。これは基本的に硬い」


「鷲の側近さんも、そこそこ大きかった……な。触ったことないので………硬いかは分かりませんが…」


「だからと言ってあまり我の触る必要はないだろう。しかし、あの鷲よりは我の方が硬いのは間違いないだろうな」


「そんなに硬くて………、使えるの……ですか?」


「うむ、問題なく使えるぞ。試してみるか?」


「………そう、ですね。では、お願いします……」


そこで魔王は会話は気にせずに扉を一度ノックをした。

するとシャルがノックに反応して扉越しに声をかけてくる。


「誰、ですか……?開いて、ますよ……」


「魔王だ、入るぞ」


魔王は一言断ってから扉を開けると、シャルが大悪魔の翼を触りながら治癒魔法をかけていた。

大悪魔の体が大きいためにまるでシャルが小人に見える。

どうも翼の話をしていたみたいだ。

確かに大悪魔の翼は筋肉の塊みたいで、あれで飛べるのかは魔王から見ても疑問があるところだ。

シャルは魔王の姿を見ると僅かばかり微笑んで、嬉しそうな声をあげた。


「あ、魔王…。傷は……大丈夫ですか?」


「問題ない。それより大悪魔よ。明日、魔王軍での正式の紹介をする。覚えておくんだな」


「了承した。今の我は貴様の下僕だ、何でも言うことを聞こう。しかし……」


大悪魔は言葉を区切る。

何事かと魔王は大悪魔に話を続けるように促した。


「どうした?」


「聞いていいのか分からんが、どうも腑に落ちなくてな。なぜ我の血の結晶化を阻めれたのだ?別に明かせぬ種なら答えなくていいが」


「……なんだ、シャル。話していなかったのか」


魔王はそう言ってシャルに視線をやる。

シャルはきょとんとしながらも、いつもの消え入りそうな声で魔王に答えた。


「言わない方が…、いいのかなって、思って……。それに、聞かれなかった…から……」


「特別に秘密する必要はない。なに、大悪魔よ。あれは俺の仕業ではなく、その半精霊のシャルの魔法によるものだ」


「何…?この小娘が…?」


「そうだ、シャルの魔法は変わっていてな。俺には扱えぬ付加魔法を扱う。それで大悪魔の血に付加魔法をかけて血の結晶を維持させなくしたのだ」


この説明に大悪魔は興味深そうにシャルの顔を見た。

あまりにも矮小な体をしていて、いかにも少し握れば潰れそうな生物だ。

なのに自分はこのシャルの力により決定的な負けを与えられ、自信でもあった特殊な力を防がれたことを思えば驚くしかない。

大悪魔は自嘲気味に笑うしかなかった。


「なるほど、どんなか弱い生物でも侮ってはならぬか。面白い」


しかもこうして今は治癒にまで当たっている、

この治癒は非常に良いもので、痛みそのものはすぐになくなっていた。

自分のような単純な力より、シャルのような特別な力を持つ者のほうが必要な存在であるはずだ。


「そういえば大悪魔、一つ聞きたい」


「なんだ?」


「俺の体内に交じったお前の血は抜くことはできないのか?いつまでも結晶化されることを考えると、気分が良いものではないのだが」


「……安心しろ。すでに貴様の中にある血は我には結晶化は不可能だ。我が操れるのはあくまで純粋な悪魔の血のみだ。すでに何度も体内を巡回して血が混じり合えば、結晶化は不可能だ」


「そうか、ならそれを知っていればいくらでも対処のしようがあるわけか」


もっとも衣服や皮膚に付着した血も操ってくるのだから、人間には簡単には防げない攻撃だ。

そう考えると単体戦においては幹部すら上回るだろう。

その血の使役がどれほどのものか詳しく分からないから、断定はできないが。


「しかし、いちいち流血しないとあの結晶化は不可能なのか?それだとさすがに不便だろう」


「否、そんなことはない。本来我はそんなに出血すらしないからな。普段は悪魔の血を持つ者を使役して、そいつらの血を使っている」


……魔王との戦いにおいては大悪魔は使役の素振りはみせなかった。

つまりは大悪魔も全力ではあっても、全ての技や能力を使ってみせたわけではないようだ。

これは嬉しい誤算だ。

大悪魔には戦力として大きな期待を持てる。


「それならシャルのお世話ばかりにならずに済むな。では、大悪魔よ。突然の来訪に失礼した。明日に備えて傷を癒してゆっくりと休め。明日は明日でまた面倒ごとがあるはずだ」


「ほう?なにか面白いことがあるのか、それは楽しみだ」


明日は参謀の任命において一人、人間がいる。

これに対して反感を持つ魔物は少なからずいるはずで、特に炎帝は快く思わないはずだ。

おそらくだが、炎帝は人間軍師に対して何か仕掛けるはずだ。


「シャル、お前は俺についてこい。少しお前のこれからについて話がある」


「うん、わかった…」


シャルは治癒魔法をやめて、魔王の近くへ羽で飛んで舞い降りた。

そうしてシャルは無表情ながらも大悪魔に手を振る。


「じゃあね…、大悪魔……。傷はもう……治って、いるから…。あとは体力だけ……戻して……」


「手間をかけさせたな、小娘よ。この治癒はいつか礼をしよう。我は眠る」


大悪魔が大きな体をベッドの上で寝転がすと、かなりの体重があるようでベッドが軋む音を立てた。

魔王とシャルはその様子を見てから静かに部屋から出ていき、二人は魔城の外へとでかける。

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