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プロローグ

 公園のベンチで一人、ブランコをこぎながらなんとなくぼけっとしている。

 周囲で私の事を話している人もいるが気にしない。今は夕方だ、少しぐらいナイーブに浸ってもいいじゃないか。子供達も帰る時間だし、もともと公園に来るような健康児は今の時代はそういないけど。


 ああ、───これからどうしよう。

 先日家族を失い、情熱を失った私は仕事も放り出した。残っているのは今まで貯めたお金と、欲しくもなかった妻の死亡保険で得たお金。そして思い出たっぷりで、帰りたいのに帰りたくない小さな一軒家。

 もう、何もかもがどうでもよく感じる。これが絶望、───ってやつなのだろうか。

 とにかく今は妻の記憶がないところに、妻を思い出さないような場所に行きたい、───逝きたい。

 ケータイ─スマートフォンはどうにも使いにくいんだよ─を弄りながら、いい旅行プランでもないものかと探してみる。中国は、アイツ等なんかめんどくさいイメージあるからパスするとして。アメリカは、メタボ増殖地だと妻から散々脅されたので行く気になれず。イギリスは、よく考えたら私英語しゃべれないじゃんと自己完結で旅行計画頓挫。うん、よく考えたら私海外に行こうにも何一つわからないや。

 なら国内で探すとしよう。温泉街は妻が好きだから軒並み巡っている。遊園地は、一人で行くには寂しすぎる。観光地と言われても正直興味ない。……ダメじゃん、私。

 そうしていくつか探している内に、奇妙な広告を選択してしまう。

 最新ゲームの発売が決まったらしい。VRMMO─仮想現実大規模多人数オンラインの略─とは凄いね、私がまだ高校生だった頃は─と言っても今から10年前だが─小説くらいでしか存在しなかっただが。

 そうだね、久しぶりにゲームというのもいいかもしれない。

 幸い金なら売るほどある。いや、売る程はないが、少なくとも簡単に使い切る事は難しいだろうと言う程度にはある。そこから10万─パソコン代も含む─ほど使用したところで大して変わる事はないだろう。

 とにかく電気屋で予約でもするとしようか。発売日は7ヶ月後、今よりはこの悲しみが吹っ切れているといいのだが。



 ◆



 ───妻を失ってから7ヶ月と23日が過ぎた。

 私の目の前には小さな箱と、それなりのサイズのパソコンが存在している。

 機械音痴な妻がいた時は購入するという選択を避けていたパソコンの存在感になんというか、違和感しか感じない。自宅にテレビ以外のスクリーンがあるというのはなんとも不思議な気分だな。

 設置は業者に頼んだが、しかしこうも簡単に我が家に来るとは。……恐るべし業者の手腕。

 それはそうと、このゲームはどう言うものなんだろうか。

 7か月前の公園でその場のノリで購入したが、しかしこれがどう言う物なのか、私は一切知りゃせんぞ。

 ううむ、説明書を読んでみたちんぷんかんぷんだ。ファンタジーであるのは分かるが「この世界は生きている」とはどういう意味なのか。現実と同じように過ごせるという意味かな?

 まあ、何はともあれ先ずは起動するとしよう。このヘッドギアをパソコンに繋いでとりあえず寝ればいいらしいが。一先ず布団を敷いて寝転がり、スライド式のスイッチをON───ミコーン、と言う音が響くと不意に眠気が襲ってきた。成程、これが睡眠導入機能か。最近の科学事実は凄いな。

 意識が暗転し、深い闇へと沈んでいく。

 安らげる泥の中で、私の意識は明晰夢のように意識を手放す事なく、静かにその時を待っている。

 

《───脳波測定を完了しました》

《───アバター作成に移ります》

《───アバター名を入力ください》


 アバター名と言うのは確かキャラクターの名前だったはず。

 本名のままだと色々な意味で駄目だろうし、かと言って格好いい名前は私には似合わないだろう。

 ひたすら悩んでみたがいい案が思い浮かばず、後回しに出来ないかを聞いてみる。

 

《───了解しました。それでは先にアバターの外見を決定してください》


 そうして、現れたのはいつも通りの私の姿。

 いや、正確には多少美化されているのだが、しかしこうして見ると私はつくづく女顔である。

 妻から何度コスプレされられそうになったか、思い出すだけで涙が出そう。───だって女の子だもんとか、散々言わされたなぁ。いやまあ、喜ぶ妻が可愛かったし、その笑顔だけで満足でした。

 ともかく容姿はそこまで構う必要はないだろう。変更点は髪と瞳の色だけ変えてみようか。

 髪の長さはそのまま、肩に掛かる程度の適当カット。ハサミで適当に切っただけだから微妙に揃えていなかったり。ともかく先端だけ白にしてみよう。

 どうせなら瞳の色も変えていようかな。妻に渡した結婚指輪のガーネットに合わせようか。それとも彼女の誕生石である琥珀に合わせるのもいいかもしれない。───おや、どうやらオッドアイにできるらしい。それならばどちらも選択するとしよう。これでアバターの変更は終了だ。


《───アバター名を入力してください》


 と言われましても、やっぱりすぐに思いつく訳もなく。

 もう一度どうにかなりませんかと問うと、少しだけ間があいて、また飛ばしてくれる事になりました。


《───初期スキルを選択してください》

《───スキル枠は10です》


 ずらりと並んだリストは全てが初期スキル。

 その数は100あるんじゃないかと思うほどで、目を通すだけでもそれなりに辛い。幸い、気になった物にマーカーをつける事が出来るので多少は作業性が上がるだろうが、もしなかったらどうなった事やら。

 それにしても、何かをしてやるという事をイメージもしていなかったのでどうすればいいのか。

 とりあえず武器のスキルは一つ取っておくべきだろう。

 剣は、振り回すのはちょっと怖いかな。痛覚再現がされているらしいからあんまり刃物は持ちたくない。かと言って振り回すのも面倒だし、銃器とかメンテナンス大変そう。───おお、いいものがある。これなら私でも扱えそうだ。日常的にもよく使っているから。

 という訳で次はそれ以外を選択するとしよう。生産スキルと言うのも一つあるといいだろう。

 生産というのだから薬とかも作れるらしいし、錬金術なんてのもあって面白そうだ。悩むが、悩むがなんとなく、これ選んでみよう。さっき選んだ武器ともよく合ってるし。

 あとは、まあ、あると便利そうなのを選んでみよう。とりあえず日常生活をサポートしてくれそうなのを選ぶ事にした。


《───以上でよろしいですか?》


 当然YES一択。

 視界に映し出された選択スキルに満足げにうなづく。うん、妻が見たら起こりそうだけど、私的に大満足です。

 さて、最後に問題の名前がある。

 しかしこれはスキルを選択した時点でぴったりな物を思い付いたのでそれを選ぶ事にした。なんというか、自分を表すにはこれ以上ないと思うんだよね。


《───アバター名を入力してください》

「ゴロワーズで」

《───アバター名ゴロワーズで決定します》

《───通常の方法では変更ができません》

《───本当によろしいですか》

「はい」

《───登録完了しました》

《───それではゴロワーズ様、幻想異界をどうぞお楽しみください》

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